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18.生徒会室で

 ユーミリアがリリーと昼食を摂っている頃、生徒会室では一組の男女が顔を合わせていた。

 

 「シリング様――!」


 女生徒が黄色い声を上げながら、男性の元に駆け寄る。そんな彼女を、シリングはひらりとかわした。


 「アリーサ。君はいつまで経っても変わらないな。」


 彼は冷静な態度で、彼女の様子を観察する。そんな彼に、床に膝をついたアリーサは、振り返って熱い眼差しを向けるのだった。

 生徒会室にいたのはシリングとアリーサ。そしてこの部屋には彼ら以外は誰もい。もちろん、会話が外に漏れないように防音の術もしっかりシリングが施している。

 何故アリーサがここに居るかと言うと、生徒に扮したシリングの手下に呼び出されたのだ。

 再び立ちあがったアリーサは、彼に詰め寄る。


 「私はいつでも貴方の味方ですもの。」


 彼女は嬉しそうに頬を染めると、そう彼に呟く。そんなアリーサにシリングは軽い溜息を吐いた。


 「本当にお前たちは似ているな。」


 と、彼は顔を小さく歪ませると、彼女にそう言葉を投げ掛けたのだった。

 彼の言葉を受け、アリーサが顔を曇らせる。


 「……似ているって誰とですか? 治癒師ですか!?」


 急に表情を強張らせた彼女は、目で執拗にシリングに訴え掛けた。


 「そうだが。どうかしたのか?」


 そんな彼女に、シリングは興味深げに注意を向ける。


 「私、ユーミリア様に会いましたの。

 彼女ですわよね? シリング様が一時期、時を共に過ごしていたと言う相手は。」

 「……時を共に? なんだか嫌な響きだ。

 だが、まあ、あいつのために私の貴重な時間を割いてやったのは事実だがな。よく分かったな。

 それはそうと、お前、彼女に何を言った?」


 物言いたげな彼女の目を軽くあしらうと、シリングはアリーサを問いただした。彼女の感情など、自分には関係ないと言いたげに、彼は適当に対応をしたのだ。

 だがアリーサは彼のそんな対応に慣れているのか、全く気にも止めない。それよりか、彼からそうした質問を受けた方に、彼女は気を取られていた。


 「え……。何で……ですか?」


 動揺するアリーサの口からそんな言葉がこぼれ出る。そんな彼女に、満足のいく回答が得られなかったのか、シリングが眉を潜めた。


 「今はこちらが質問をしているのだが?」


 彼は抑揚のない口調で、彼女に言葉を返す。


 「彼女が何か言ってきたのですか!?

 シリング様、あの後、彼女に会われたのですの!? いつ!? どうやって!?

 シリング様、私よりも先に彼女を呼びだしたのですか!?」


 彼の苛立ちに気付けていないアリーサは、声を荒げてさらに質問をなげかけた。かなり動揺しているらしく、彼女は少し肩を震わせていた。


 「…………。」


 そんな彼女を、シリングは目を細め、無言で見据えるのだった。

 しばらくして目を見開いたアリーサが、言葉を濁す。


 「あ……申し訳ありません。でしゃばり過ぎましたわ……。」


 彼女は目を伏せた。


 「いや、別に構わない。それで君は、ユーミリアに何を言ったのだ?」


 シリングは彼女の謝罪を軽く受け流すと、再び同じ質問をアリーサに投げかけたのだった。


 「彼女とは……エルフリード様についてお話しましたわ。」

 「エルフリード?」

 「はい。ユーミリア様が殿下とは“兄妹たいな関係”とおっしゃったので、相思相愛ではないのですか?と私は尋ねました。

 下町では、悲哀のお二人とお噂されてますし、気になってその真相をと……。」


 アリーサは視線を下に向けたまま、彼の質問に答える。


 「……それだけか?」


 シリングが彼女に、自分の発言に間違いがないかを確認する。


 「はい。それだけです。」


 そんな彼に、俯くアリーサは強く言い切った。シリングは彼女の言葉に相槌を打つ。


 「そうか。ストーリー……そうだな、お前の言ったことは、ストーリーに沿っていると言えば沿っているな。

 では、彼女の勘違いだったのだな。疑ってすまなかった。

 では、他はどうだった? 彼等とは遭遇できたか?」


 納得したシリングはサラリと話題を変えた。


 「ストーリー……?

 いえ、クレメンス様とは仲良くなれませんでしたわ。エルフリード様にも会えませんでした。」


 彼の言葉に疑問を持つアリーサだったが、取り合えず、返事を返すことにした。


 「そうか。いいアドバイスが出来なくて、すまなかったな。」


 彼の突然の詫びに、アリーサは慌てて顔の前で手を振る。


 「い、いいえ! シリング様が謝るような事ではありませんわ!! 私が上手く出来なかっただけです。

 わざわざ、私の我が儘のために助言をしていただいて、感謝しております。」


 「……そうか? そう言えば、どうして彼らと仲良くなりたいのだ?」

 「え?  それは、エルフリード様は、後に私が王妃になった時、仲良くしてれば外交で役に立つかと……。

 クレメンス様は、シリング様の弟君ですし……。」


 「このことは弟は知らぬが?」

 「もちろん、私からも話しませんわ! ですが、同じ兄を持つもの同士ですし、お話が合うかと……。」


 気まずそうに言葉を紡ぐ彼女に、シリングは目を光らせた。


 「ふうん。まあ、あいつもいい男だからな。仲良くしてやってくれ。」


 と、彼は優しく彼女に笑いかけたのだ。


 「え……。ちっ違いますわ!! けして、異性として仲良くなりたい訳ではありませんの!!」


 彼の笑みに不安を覚えたアリーサは彼に否定の言葉を述べる。そんな彼女に、シリングは少し残念そうな表情を浮かべるのだった。


 「そうなのか? まあ、好きにしてくれてよい。

 あ、そういえば馬車にひかれたそうだが、大丈夫だったか?」

 「え……好きにして……いいのですか? ……。怪我は、大丈夫です。

 その……ユーミリア様に治して頂いたので……。」


 アリーサは気まずそうに目線を下にむける。どうやら、彼の言葉に傷ついたらしい。だが、彼女の気持ちに全く気づかないシリングは、なおも彼女の心を抉る。


 「そうか。彼女に治療をして貰えたなら安心だな。」


 と、笑みを浮かべながら他の女性を褒め称えたのだ。アリーサは悲しそうに眉を寄せ、口を噤む。


 「シリング様……やはり……。」


 “ユーミリア様のことを慕っているのですか?”と、彼女は彼に尋ねたかったのだ。だが、それをアリーサが口にすることはなかった。真実を聞く勇気が、彼女には湧いてこなかったのである。


 「? どうかしたのか?」


 そんな彼女のいつもと違う様子に、やっと気づいたシリングは、今日初めての労いの言葉を彼女に掛けていた。


 「いえ。なんでもありません……。」


 シリングの自分を心配する顔を目の前にして、彼女はとうとう言葉を飲み込んでしまう。アリーサは、今の彼との関係を崩したくなかったのだ。


 「……そうか。あ、そうだ。お前、彼女と行動を共にしてはどうだ?」


 彼女の異変を感じ取ったシリングは、これは名案とアリーサに提案してみる。多少癖のあるユーミリアかも知れないが、似た者同士、話も合い気が紛れるだろうと彼なりに彼女を気をかけたのだった。

 それに、アリーサが近くにいた方が、ユーミリアが何かしらの行動を起こしてくれるだろうと、彼は期待していた。シリングは人知れずほくそ笑む。


 「え……何故でしょうか……?」


 アリーサは彼の意図が全く掴めなかった。そんな彼女に、シリングは戯れ言を述べる。


 「お前はよく変なところで怪我をするであろう?

 だから、あいつの傍にいれば私も安心だ。」


 と、彼は適当に理由をこじつけたのだ。


 「え!! 私の事を心配してくれているのですか!?」


 そんなことに全く気づかない彼女は、彼の優しさに心を打たれている様子だった。シリングはニタリと笑う。


 「ああ。そうだ。」

 「嬉しいです! シリング様に心配して頂けるなんて……。

 はい。私、ユーミリア様と行動を共に致しますわ! これ以上シリング様に心配をかけて、煩わせる訳にはいけませんものね。」


 アリーサは満面の笑みをシリングに向けるのだった。

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