表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/73

06.主人公登場!?

 校庭に降り立ったユーミリアは、人垣の隙間から乗り付けられた馬車の様子を伺う。

 先程、担架が届いたらしく、ちょうど馬車の中から、怪我人が運び出されているところであった。

 (主人公……っぽい?)

 マルコスに抱き抱えられて、馬車から出て来た人物は、金色の長い髪を傍らに垂らしていた。

 線が細く、目が閉じられた状態でも美少女であることが感じらる。見えている素肌から、普段は適度な健康的な肌の色をしているのだろうと想像できるが、今の彼女の顔は青白く、血の気のない色をしていた。

 (……見たところ、大きな怪我は無さそうだけど……。意識がなさそうね。気絶しているのかしら。)

 ユーミリアはじっと彼女の状態を窺う。そして彼女の行動を思い返し、それにしてもなんて不憫な方なのでしょうと、ユーミリアは憐れんだ。

 (クレメンス様が現れなかったから、エルフリード様とマルコス様のルートに変更したのでしょうか。

 でも、三階を五十往復したあとにでは、間に合いませんでしたのね。焦りすぎて、タイミングよく飛び出せず、“轢かれそう”ではなく本当に“轢かれて”しまったのですね……。)

 ユーミリアは彼女を気の毒と思うと共に、またしても悪役を担ってしまった自分に落ち込んだ。しかも、今度は怪我までさせてしまったのだ。

 (でも、今回のは私のせい!? ……私のせいなのかしら。でも、マルコス様にお姫さま抱っこされたし、結果オーライよね? 私、悪役してませんわよね?)

 彼女は自問自答していた。


 それでもなんとなく運ばれていく少女に違和感を感じたユーミリアは、人垣の隙間をぬって彼女を目で追う。

 (それにしても、あの子が“主人公”ですのよね? 何も、感じませんわ。それにゲームを始める際、操作する主人公の外見も、設定で自由に選べましたかしら。)

 主人公の外見を未だ思い出せない彼女は、実際に主人公らしき人物を目の当たりにしても、それは変わらなかった。そして、彼女になんの脅威も感じなかったことに疑問を持ったのだ。

 世界を書き変えるほどの主人公なのだからと身構えていたのに、ユーミリアは一見した彼女の印象に拍子抜けしてしまう。

 (彼女が気絶しているから、普通の女性に見えたのかしら? それとも爪を隠しているの?)

 ユーミリアは訝しげに彼女の影を見つめる。


 「ユーミリア?」


 その時、ふと、彼女の後ろから誰かが声を掛ける。

 ユーミリアは首を傾げた。

 気のせいかしらとそっと声のした方を振り返った彼女の目線の先には、真剣な表情で佇むクレメンス。彼女は慌てふためいた。彼の存在をすっかり忘れていたのだ。


 「クレメンス様っ!」


 勢いよく彼の名前を呼ぶユーミリアは、驚きのあまりじりじりと後退する。


 「どうしたのだい? 急に走り出してしまって。」


 顔を歪めながら、逃げるユーミリアに負けじと詰め寄るクレメンスは、急いで追って来たのかまだ鞄を抱えたままであった。


 「ご、ご心配お掛けしてすみません。あの……。」


 ユーミリアが目を泳がせながら言い訳を考えていると、彼が優しく彼女に訊ねた。


 「心優しい君の事だ。馬車とぶつかった人物が心配で、治療が必要かどうか見に来たのであろう?」


 と。

 ユーミリアは胸を抑えた。

 (ズ……ズキっ!! い、言えませんわ……。

 完全に主人公見たさの野次馬根性で下りて来たとは。ああ、心が痛みます……。)

 彼女は苦笑いを浮かべるが、他に言い訳も考えられず気まずそうに彼の言葉を肯定することにした。


 「あの……はい、そうなのです。……はっ!!!」


 ユーミリアは思わず息を飲んだ。居心地悪く彼女が視線を下げた先で、なんと彼の二の腕がまざまざと目に入ってきたのだ。

 ブレザーの袖に隠れた腕は、シルエットも硬さも全く分からないが、彼女の体には彼の腕の感触がしっかりと残っていたのである。

 (わっ私、先程この腕を抱しめましたのよね。……キャ――!! 今、思い返しても、恥ずかしいですわ。

 それにしても、太くて固くて、なんて素晴らしい筋肉だったのでしょう。あのご様子だと、胸板もかなり素晴らしいことになっているのではないでしょうか!?)

 思わず、ユーミリアは制服越しに彼の身体を上から下まで舐めるように観察してしまう。すると、ふと彼から放たれる鋭い視線を感じ、慌てて彼の顔に目を戻す。

 (え、どうしたのでしょう。怒ってます? 筋肉を愛でてしまったのがいけなかったですわよねっ。)

 彼の表情からは、彼女がいつも感じていた彼の柔らかさが完全に消え去っていた。それどころかクレメンスは敵意全開の眼差しをしていたのだ。ユーミリアは慌てて謝罪を入れようとするも、しばし思いとどまる。彼の視線が、自分を通り越して、さらに後ろを見つめている様な気がしたのだ。


 ザワ ザワ


 殿下の馬車に群がっていた生徒達が、再びざわつき始める。どうやら一様に皆、目線をユーミリアの後ろへと向け、何やらこそこそと話しているようであった。

 (後ろに何があるのかしら……。)

 彼女は上半身を反転させ、そっと後ろを振りかえる。


 「っ!?」


 彼女は思わず息を飲んだ。なんと、ユーミリアのすぐ後ろに、学ランで覆われた逞しい胸があったのだ。

 (胸!? 胸筋!? 分厚い胸板に前後を挟まれてしまいました!!)

 バクバクと高鳴り始めた鼓動を抑え、ユーミリアは後ろに立つ人物の顔を見上げる。そして、氷の王子様!と、彼女は思わず心の中で叫ぶ。

 そこには、切れ長の綺麗な目を細め、冷たい視線を放つマルコスが立っていたのだ。

 マルコスの向こうでは、担架に乗せられた怪我人が、従者によって校舎内へと運びこまれている様子が彼女には窺えた。

 (どうしたのでしょう……こちらも怒っているように思えるのですが……。)

 ハラハラするユーミリアは探るように、下からそーっとマルコスを見上げた。

 すると次の瞬間、彼女に視線を下ろしたマルコスが、一瞬にして凍りついた表情を溶かし「ユーミリア嬢」と愛おしそうにほほ笑みながら呟いたのであった。

 それを受けた彼女が、反対に氷のように固まる。

 (な……!? その甘い囁きの裏には一体、何が!?

 もしかしなくても誓約解除ですか!? 私、このままマルコス様に愛を囁かれてしまうのでしょうか!?!?

 “ふ・つ・つ・か・ものですが”私、噛まずにちゃんと言えますでしょうか!?)


 その時、ユーミリアの耳に暖かい風が吹く。

 ユーミリアがそれにゾクッと身体を震わせていると、間髪いれずクレメンスが彼女の耳元で囁いた。


 「彼は君の治癒魔術に期待しているのではないか?」


 と。

 (キャ――先程の生温かい風はクレメンス様の吐息でしたか!?

 萌え――。体中しびれました。萌え――。もっと……もっと吹きかけてください……。)

 ユーミリアは囁かれた方の耳を抑えながらクレメンスに向き直ると、目を虚ろにしながら彼を見上げるのだった。

 そんな彼女の様子に、クレメンスも嬉しそうに熱い視線を返す。


 グイっ


 急にユーミリアは後ろから二の腕を引っ張られた。首に衝撃を感じたかと思うと、腕を掴まれたまま彼女はずりずりと後ろに引き摺られる。

 驚きながらもなんとか体勢を立て直した彼女は、自分を引っ張る人物を見上げた。

 (……やっぱり確認しなくてもマルコス様ですよね。あの少女に治癒魔術を施すんでしたわね!

 怪我人の治療が急を要しているにも関わらず、クレメンス様にうつつを抜かしていましたわ。

 わ――怒らせてしまったでしょうか……。

 それに私、マルコス様から告白をされるものだと勘違いをしてしまいましたわ。痛い子でしたわね。)

 ユーミリアはこれ以上迷惑を掛けるまいと、懸命にマルコスに歩調を合わせながら、彼に連れ立って歩くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ