02.友達の友達は友達?
「お前達!! 近寄るな!!」
そんな中、ユーミリアの耳に届くのは、怒りを露わにした女性の力強い声。ふいに彼女は声のした方を振り返る。
と、そこには顔を怒らせたリリー。彼女はユーミリアの前に出ると、周りに居た男子生徒を蹴散らした。
「リリー様!!」
涙を浮かべて見上げるユーミリアを、リリーは大きく抱きすくめた。
リリーの鼓動は早く波打っており、彼女が走って此処まで来てくれた事を物語る。それを知ったユーミリアは、ついに涙を零してしまう。
「怖かったのですね。」
リリーはそっとユーミリアに声を掛ける。
(はい。ボッチでいるのが怖かったです! 良かったです、声を掛けてくれる人が居て!!)
彼女はリリーに強くしがみついた。
「ユーミリア殿、一緒にご登校できなくてすみません。朝の鍛錬に集中し過ぎてしまい、時間の経過を全く気にしていませんでした。」
「そうなんですね、よかったです。起きたらもう部屋に居なかったので、先に行かれたのかと思いましたわ。」
顔をあげたユーミリアは、泣きはらした目でいたずらっぽく彼女に笑いかけていた。
そんな彼女を優しく見つめたリリーは、優しく頭をポンポンと二回を撫でるのだった。
ゴホン
その時、彼女達のすぐ傍で、男性のわざとらしい咳ばらいが聞こえる。
二人が同時に音のした方に目を向けると、そこには気まずそうに目を反らしているクレメンスが立っていた。
「クレメンス様!?」
ユーミリアはゆっくりとリリーから体を離すと、クレメンスに向き直る。
「おはよう、ユーミリア。」
クレメンスが蕩けそうな笑顔で彼女に笑いかけた。
(クレメンス様、どうされました? 私、今は動物を従えてませんよ!?)
ユーミリアは呆然と彼の笑顔を見つめる。
「クレメンス殿、すまない。自分から申し出たのにこの不手際、」
「大丈夫だから。」
クレメンスがリリーに目を向けると、彼女の言葉を遮った。
ユーミリアはそんな二人のやり取りを不思議そうに見つめていた。
「あれ? お二方、お知り合いなのですか??」
そんな彼女の疑問に、クレメンスはユーミリアに視線を戻すと、優しく答える。
「ああ、ここ最近なんだけどね。君と同室だと聞いて。」
「ここ最近とは……一カ月以内でしょうか!?」
ユーミリアはジト目で彼のことを見つめた。
「? ああ、そうだが?」
「……。」
(ぎゃふん。女友達だけでなく、男友達作ろう作戦にも大きく出遅れをとってしまいました。)
ユーミリアは潰れた。
「どうかしたのかい?」
「……いえ、なんでもありません。」
「そうか。あ、ちょっといいか? リリー。」
クレメンスは唐突に彼女の名前を呼ぶ。二人はユーミリアから少し離れると、こそこそと何か内緒話を話し始めた。
あまりにも親しそうな間柄に、しかも少しはみ出してる自分に、ユーミリアは更に落ち込んだ。
(当て馬にはなりたくないけど……。でも、クレメンス様と仲が良い女子は私だけだと思っていたのに!)
と、彼女は悔しがっていたのだ。
「ユーミリア?」
暫くして帰ってきた二人は彼女に声をかける。
「お話は終わりましたでしょうか。」
ユーミリアはむくれていた。
クレメンスとリリーはお互いを見やると肩を竦める。先に行くよう、彼がリリーに目で合図した。
「……では、私は退場しよう。ユーミリア殿、昼食時はお供する。教室で待っていてくれ。」
そう言葉を残したリリーは、颯爽と長い髪を揺らしながら去って行った。
ユーミリアは目を丸くする。
(え!? 昼食時ボッチ回避、決定!? リリー様、私はどこまでもあなた様について行きます!!)
決意した彼女は、顔を赤らめながらリリーの後ろ姿を見つめていた。
そんなユーミリアを横目に、クレメンスは“おやおや、これはまた厄介な護衛が付いたものだ。”と呟く。
「クレメンス様、何か仰いまして?」
「いや。何でもない。……ユーミリア……。」
そう呼びかける彼は、ユーミリアの目をじっと見つめるのだった。
(な……何なのでしょう!? しかもいつの間にか呼び捨て!?)
「これなんだ。」
クレメンスは手に持っていた小さなノートを彼女に差し出す。
彼女が良く見ると、それは分厚いメモ帳なようなものであり、開かれたノートのなかには陣に使われる術式の単語がいっぱい書き殴られていた。
「陣?」
「これ新しいだろう、どう思う? 順序を変えてみたんだ。これを早く君に見せたくて。」
彼は目をキラキラさせていた。
(あ……なるほどです。お仕事のお話ですね! 私、またお話ししたいとは言いましたけど、お仕事ではなく、友達としてお話しがしたかったのですが……。でも、贅沢は言いません!! 二人に話しかけられましたのよ。これでボッチとは思われないですわよね!!)
「クレメンス様、これでは手順が逆になってしまいますわ。活性させてから攻撃を仕掛けないと、菌まで活性してしまいますわよ?」
「なるほど……そうか。仕組みのことを忘れていたよ。」
そう呟く彼は手元のノートにさっと目を通していた。
ユーミリアは、にたっと笑いながら彼の横顔を見つめた。
(真剣に考える表情が、やっぱり一番美味しいですね――。っと、何か忘れている様な……? あっ! 主人公!! もし、彼女が“朝早く登校”を選択していたら……。)
彼女は慌てて彼に詰め寄る。
「クレメンス様、ここで何をしているのです!?」
「え? 何って、君を待っていたんだが。」
「(惚れてまうやろ――。は、さておき、)早く登校してください!!」
ユーミリアは彼の腕を引っ張り、校舎まで急ぐ。
クレメンスは少し戸惑うも、彼女に組まれた自分の腕を嬉しそうに見つめると、なされるがまま足早に学園へと向かうのだった。




