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01.ゲームスタート!?

 暖かな風が人々の頬を撫でる中、辺り一面の野原には黄色い花が咲き誇っていた。つい先日までは緑色の絨毯で覆われていたのに、特別なこの日に蕾を開かせるとは、花も粋なことを考えるものだ。

 その時、一人の少女がその花畑に足を向けた。

 まだ下ろし立ての制服らしく、どことなく服の動きがぎこちない。だが彼女の佇まいは美しく、見るものを惚けさせるほど、綺麗な顔立ちをしていた。

 見慣れないその少女は、既に大人の色気を纏っており、周りの男を一様に虜にしていた。

 だが新入生なのか、まだ幼さも要所に見られる彼女は、多くの人の保護欲をそそる。

 膝をおった彼女は、頬を緩ませながら花を愛でていた。だが花に一度触れただけで、すぐに人の流れに戻ってしまう。式の時間を気にしているのだろうか。なおも名残惜しそうに眉を下げて花を見つめる彼女に、みなの心が締め付けられていた。


 (美味しそうなのに、結構匂いってえぐいのね。)

 そんな風に周りから見られているとは露知らず、ユーミリアは菜の花を見て涎を垂らしていた。おひたしに一輪くらいと思って手を伸ばしたのだが、その花の独特の匂いにやられたのだ。

 (でも、あれって食用じゃないのかしら。まあ、そうじゃないにしても、あんなに花を咲かせた後では駄目よね。咲く前にこそっと収穫しとけばよかった。)

 彼女はいやしそうになおも花に未練を残す。

 そんな彼女の耳に絶えず届くのは、明るく元気に挨拶する生徒達の声。


 「おはようございます。」

 「おはよう。」

 「おはようございますですわ。」


 寮から学校へ続く道のり、様々な学年で構成されているであろう生徒らが、それぞれに挨拶を交わしていた。寮生や自宅生が、入学式へと出席するため学園へと登校をしていたのだ。

 ちなみに、学園の門前まで馬車で乗り付けることは可能である。だが、寮生が歩いている手前、自宅生も途中で降りて歩きだすのだった。

 ついでだが、万能薬も一週間ほど前に発売が開始されたそうな。ラベル改善については、“もうすでに刷ってしまった分は使わせてくれ。”と彼女は父親に懇願され、目を瞑ることにした。彼女も魔術団の苦しい財政事情は知っている。“今のラベルが無くなり次第、自分の姿をシルエットにするか、絵を全体的に差し替える”と約束をこじ付けることで落ち着いた。

 万能薬は爆発的な売れ行きを誇っているそうだ。今日届いた父親からの朝一の手紙で、彼女は報せられた。

 手紙を受け取ったユーミリアが、お祝いのメッセージカードかしらと心を躍らせながら開封するも、中身は売上表一枚。間違いかと彼女勘違いしそうになったが、よく見れば売上表に自分への宛名と“売れすぎて困ってる”という父の達筆な一文が添えられていた。

 彼女は喜んでいいのか悲しいんでいいのか分からなかった。

 途方にくれた彼女が、足掻いてもう一度封筒の中を覗いてみれば、紙切れがもう一枚。ガッツポーズをした彼女が取り出して中身を確認すれば、それは母からの手紙だったのだ!

 “家の借金がすぐにでも完済できそう。ありがとう。”

 ユーミリアは泣いた。借金あったんだ、一国の団長なのにと。そして、入学おめでとうの言葉がどこにも見当たらないと。


 ユーミリアは再び思い出した悲しい気持ちを押し殺し、学園へと向かうその人々の流れの中に紛れ込む。そして、生徒らの様子を眺めながら学校へと歩くのだった。

 学園までの道中、みんな社交を広げよう、人脈を広げよう、異性といち早く仲良くなろうなどといろいろな思惑う飛び交うしているようだ。ユーミリアはそれらを微笑ましく見つめた後、自身はまっすぐと前を向いて歩く。

 そんな彼女はゲームの内容を一から反芻していたのだ。


 (このゲーム、始めからルートが別れているのですよね。


1、通常の時間通りに登校。

2、早めに学校へ登校。

3、少し遅刻気味に登校。


1、通常どうり登校するを選択すると、

 なぜかその他大勢の生徒の波に乗らず、ひとりフラフラと学園内を歩いている主人公。

 もちろんの如く校内で迷子になってしまうのです。

 偶然・・に辿り着いた先は学園の屋上であり、そこで居眠りしている男性を見つけた主人公は、

→おはよう、朝だよ。

→あなたも楽しみで眠れなかったの?

→具合、悪いの?

→ここ、立ち入り禁止だよ?

から選んで声を掛けるのです。

 この通常時間通りを選んだ場合だけ、入学式のイベントが発生するのもこのルートの魅力ですよね。

 式の途中で先程会った男性が生徒会長(シリング様)だと分かったり、驚いた主人公がフラフラと倒れて、攻略対象その五(養護教諭)に保健室までお姫さま抱っこされるイベントなども発生します――。

 私、クレメンス様に以前お姫さま抱っこされたことがありますもんね! フライング――。ぐふふふふ。


2、早めに学校に登校を選択すると、

 誰もいない学校までの道のりで、タンポポが一輪、道の端で首を垂らしているのを見つけます。

 可哀そうに思った主人公は、タンポポを大事にかかへ、誰も居ない教室へと足を踏み入れます。

 そして、たまたま教卓に置いてあった花瓶(なぜか水だけは入ってる)にそっとそのタンポポを生けるのです。

 すると! 偶然にも同じく朝早く一人で登校してきたクレメンス様に、その場を見られてしまうのです!!

→私じゃないよ!

→可哀そうだったから。

→こんな花、みすぼらしいわね。

→これで花は大丈夫かしら。

とここでも会話を選びます。

 そんな主人公を前に、好感度が上がったクレメンス様は“こんな純朴で心優しい女性に生まれて初めて出会った”と、呟くのです。

 あ――私ももっと植物に優しくしておけば(優しくしているところを見せておけば)良かったですわ――。


3、少し遅刻気味に登校するを選択すると、

 急いで学校へと向かっている主人公。

 と、そこへ馬車が通りかかり、なんと十字路の出合い頭で接触しそうになるのです――。

 おっとっとと倒れた主人公の元へ駆け寄るのは、馬車から飛び出してきたマルコス様。

→ありがとうございます。

→申し訳ありません。

→大丈夫ですから。

→あなた様こそお怪我はありませんか?

 手を取ればマルコス様の高感度、拒否すれば馬車の中で二人のやり取りを高みの見物をしていたエルフリード様の高感度が上がります。


 あ――主人公はどのルートを選択するのでしょうね。ワクワクしてきましたわ。

 あ、そう言えば鹿が、その主人公が怪しいとか言ってましたわよね。

 主人公の生家から世界軸へとアクセスした痕跡があるとか。魔力を取り戻したからって、上からの物言いには違和感感じますわ―――。まあ、前から態度のでかい鹿でしたけど。

 でも荒みますわ――。主人公を見張れ! なんて。

 ま、彼女のことは観察したいとは思っていたので良いですけれど。でも、邪魔はしませんわ。当たり前でしょ? 私、プレイヤーでしたのよ!? 実写版に興味がない訳がないですか!!

 彼女は今、どのルートを選択しようとしているのですかね――。)


 などとユーミリアが考えながら道を歩いていると、学園の近くになるにつれ、見たことのない顔ぶれが多くなるのに気付く。

 (あれ。なんだか、周りの生徒達の雰囲気が変わって来ましたわ。外部生かしら?)

 と、ユーミリアが少し周りに目配せ、それを合図ととったのか、数名の男子生徒が彼女の近くに集まってきた。

 (え? どうされたのでしょう??)


 「君がユーミリアだね! 君の噂は常々聞いていたよ。」

 (噂? 私が治癒陣を開発したことが国中に知れ渡っているのでしょうか? まだ極秘事項だと思っていましたのに。)


 「ユーミリア。君は万能薬のラベルを書いた絵師を怒るべきだ。実物はこんなにも素晴らしいんだから。ふっ。」

 (なんですか最後の小さな笑い。嫌みですか? 絵師を怒るべきだの所は本気っぽかったですね。すみませんね、実物がこんなので。詐欺罪で訴えます?)


 「お荷物、是非わたくしめに持たさせてください。こう見えてもかなり力があるのですよ?」

 (足も早そうですね。なんです、早速ボッチいじめですか? 鞄持って逃げるつもりですか?

 ……この方達は気づいたのですね、私が寮からの道のり、誰からも声を掛けられていないと。

 私、気づいてましたけど、ゲームのこと思い出して気を反らしていましたのに!!!

 今日の朝一番、寮の食堂へと足を運んだ時に気づきました。

 友達百人できるかななんて胸を躍らせながら部屋を出ましたのに、時すでに遅し!!

 私がこの一カ月、朝から晩まで鹿の森保護活動の下準備に精を出している間、どうやら、寮内では友達作りにみなさん精を出されていたらしく、すでに数名ずつのグループに別れて朝食を摂っていました……。

 せめて……朝食だけは日の出とともに摂らず、皆が降りてくる時間帯を待つべきでした……

 “太陽さんおはよう”などと爽やかに朝日に挨拶し、朝早くから仕事に精を出す自分を褒めつつ御飯を食べていた過去の自分が恥ずかしい……。)

 ユーミリアは居心地が悪そうに下を向いた。

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