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16.工房の訪問者

 高くそびえ立つ城の門から、騎士を乗せた馬が三頭、颯爽と飛び出した。

 春風にたてがみを靡かせる馬は、とても気持ちよさそうに走っており、三頭ともそのまま長い直線をまっすぐと駆け抜けていく。道の脇には沢山の花を咲かせた木々が等間隔に植えられており、風にその花を散らせられ、幻想的な情景を生み出していた。

 途中、騎士らは小さな村に足を踏み入れる。

 だが、彼らは人にぶつからぬ様に馬の歩調を緩めるだけであり、休憩をとろうとする素振りは全く見受けられないまま村を通り抜けて行った。何か急を要しているように見受けられた騎士の姿は、国中が穏やかで安定しているこの国では珍しく、村の者達は彼らの様子を見て一様に首を傾げる。

 だが、それは小さな疑問に過ぎず、それよりも彼らの関心を誘ったのは、外套のフードを深く被った人物が、騎士の一人と同じ馬に乗り合わせていたことであった。

 その人物は全身を外套に包ませており、一分の隙もなくその布で覆われていた様は、それが本当に生きた人間かどうかさえ疑えられ、村中に様々な思惑が飛び交っていた。


 彼らは目的地である下町に辿り着くと、馬からおりて手綱を引いて歩き出す。下町の民は、彼らを承知しているらしく、近くを通ると軽く会釈をだけを向ける。そして、その他は特に普段と変わりない生活を送るのだった。

 一行は下町を北へと足早に歩み進める。工房のある藁ぶき小屋を前にし、騎士らはお互いに顔を見合わせた。役割は予め決められていたらしく、騎士の一人が無言で工房の屋敷の外に留まり、残りの騎士二人と外套の人物が屋敷の中へと足を踏み入れるのだった。


 「じゃまする。」


 騎士の一人がそう声をあげる。三人は断りなくズカズカと屋敷内へと足を踏み入れた。

 室中にはふわふわした雰囲気の男が一人居るだけであり、突然の来客の訪問を前に、彼はじっと客を見据える。だが彼はすぐに抱えていた棒を傍らに置くと、作業手を休め、ゆっくりと彼らに対応したのだった。


 「何かご用でしょうか?」


 その一行を目にしたシリングは、普段よりさらに柔和に目を細めると、首をかしげて僕は無害ですよ感を醸しだす。

 その時、外套の人物がさっとフードをとって顔を曝け出した。


 「あ、呼んできますね。」


 その人物が見知った間柄だったのか、シリングはそそくさと屋敷の奥へ入って行く。

 そして、彼は傍らにはルイーザを伴って戻ってきたのだった。 


 「お待たせしてすみません。女神さん、お久しぶりです。よくおいでくださいました。」


 ルイーザはにこやかな表情で外套を着たユーミリアに挨拶をすると、彼女らを温かく迎え入れた。


 「お久しぶりです、今日もまた、宜しくお願い致します。」


 彼女は膝を折って丁寧に挨拶を返す。だが、ユーミリアの頭も上がらぬうちに、後ろに控えていた騎士ら二人が彼女の前へと一歩踏み出す。


 「ルイーザ殿、お話があるのですが。」


 と、言う騎士らは、ルイーザを連れて部屋の奥へと行ってしまった。

 後に残された二人は、ポツンと何をするでもなく立ち尽くす。

 (何? この疎外感。ゲーム中ならまだしも、私って今はかなり重要人物よね。)

 と、ユーミリアは眉間に皺を寄せた。

 その時、彼女の視界にハラハラと散りゆく黄金の小さなきらめきが映る。

 (これってもしかして……。)

 “防音?”と尋ねようと、彼女はシリングに目を向ける。だが、いつの間にか直近に居た彼に、ユーミリアは驚いて思わず背中をのけ反らしてしまった。


 「ねえ。」


 と、ユーミリアに声を掛けてくる彼の口調は、彼女には少し苛立っているように思えた。


 「な……何ですの? 喧嘩なら買いますわよ?」


 ユーミリアは怯みながらも、応戦しようと彼の方に体を向け直して身構えた。


 「何? さっきの格好。笑えるんだけど。」

 「え?! ……あれは日焼け対策ですわ。」

 「不審者バリバリ? うける――!!」


 シリングはお腹を抱えて笑い出しており、涙も出て来たらしく、指先でそれを拭っていた。


 「そんなに笑わないでくださいな!! 私も失敗したと思ってた所なんですから!!

 途中で村を通り抜けたのですが、村人達の視線がそれはもう痛かったのです……。ですが、意味もなくフードを取るのも変でしょう!?

 村を抜けたらまた日焼け対策にフードを被って、なんてしてたら、乗せてくれた騎士に“何やってんのこいつ? 顔面自慢!?”とか思われてしまいそうですし。というか、それ以前にきちんと、お父様にもお話しましたのよ?

 “今まで通り馬車で行ってはいけないのですか?”と。ですがお父様は“時間がないから早馬で行ってくれ”と。私のお父様、というか、魔術団自体がここ最近目も当てられないくらい忙しいみたいなのです。」


 ユーミリアはしょぼんと頭をうなだらせた。


 「近道だからって、その格好で村の中を通ってきたの!? じゃあ、フード外さなくて良かったよ。醜聞的に。」

 「そ……そうですわよね。じゃあ、私の行動は正しかったのね!!」


 ユーミリアは目を輝かせながら、自分の行動を褒め称えた。


 「かなり怪しい人物だけどね――!!」


 と、またしても、シリングはお腹を抱えて笑い出す。それを横目で見ていた彼女は顔を引きつらせたのだった。

 だが、彼が急に真面目な顔付きになる。不思議に思うユーミリアをよそに、彼はフッと軽く息を口から吐きだす。

 次第に黄金色の粒子で少し霞んでいた視界が開ける。

 同時にドアの向こうで足音が響きだす。

 どうやらルイーザらが会話が終わらせ、彼女らの居る部屋に戻って来るらしい。

 (気配を察知したのですね! さすがですわね。だてに高等部を牛耳っている訳ではありませんのね!

 先程息を吹きだしたのは、防音の陣の粉を撒き散らすためかしら? シリング様も、いろいろ前世の記憶を使っていろいろと生み出しているのではないのですか!? わ――やっぱり、もっと込み入ったお話がしてみたいですわ――!!)

 と、ユーミリアは彼の横顔に期待の眼差しを向ける。

 だが、それを受けたシリングは、彼女が居る方とは反対側の横に向きなおり、視線を浴びるまいと頑なにユーミリアの目線に対して後頭部を向けるのだった。

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