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1 就職は世知辛い

「シエラ・トルテさん、申し訳ありません。あなたは不採用です。今後のよりよい活躍をミシュタル神にお祈り申し上げます」

「はい」


「シエラさん、悪いね。今は人手が足りててなあ。就職できるようミシュタル神にお祈りしとくぜ」

「はい……」


「トルテ殿、大変申し訳ないが、うちは魔法師募集と言ってもヒーラーしか募集してないんだ。

それにだ。君は……その、ネクロマンサーなんだろう?

うちみたいな平穏な就職先より、もっと刺激的なところが良いんじゃないかい」

「はい……」



――王立魔法上等学院、特殊魔法科卒。シエラ・トルテ。

学院では座学主席の優等生だった女。俗に言う超エリート魔法師。

それが私だ。


けれど、現実は無情で。

進路バラ色だったはずの私の就職は、未だ決まっていない。


今のこの状況、何がいけなかったのか。

卒業1年前から自分なりの就職活動にはげんだつもりだった。

この一年間に魔法師の求人をしているところで、私が行っていないところは一つとして無いだろう。

しかし、フタを開けてみれば。


卒業して一ヶ月経つ今でも、働くところが決まっていない。


それはなぜか?

分かりきったことだ。

どれほど座学が優秀であったとしても、忌わしいネクロマンサーが就職できるところなんてありゃしない。

同級生が、教会・診療所・魔法研究所などに順調に就職して行く中で、余計惨めさに襲われた。

自分がヒーラーやエンチャンターなら、山ほどの就職先から就職するところを選べたんだろう。羨まずにはいられない。



――私は、確認できるかぎりでは約400年ぶりのネクロマンサー、らしい。正確なことは分からないけど、数百年に一人の逸材だとか。

ネクロマンサーは死者の声や姿を認知する先天的な才能が必要だから、なろうと思ってなれるものではない。つまり、ほとんど絶滅危惧種レベルの魔法師だ。

だからといって、就職がしやすいかと言えば絶対にそんなことは無い。

ネクロマンサーが就職するとすれば軍や傭兵など、血みどろの戦場に関係するような職しかないから需要が極端に偏っている。


大昔、大戦が行われていた時代では、ネクロマンサーが傾国の悪魔として恐れられていたこともあったと聞く。

ネクロマンサーの支配の下では、倒したはずの敵が蘇り、倒れたはずの仲間が敵となって立ち塞がる地獄絵図と阿鼻叫喚。その圧倒的かつ残虐な大量殺戮は、たとえ万の軍隊を持ってしても止められない。

そんなおとぎ話の影響で、ネクロマンサーは血みどろな人非人として、忌み嫌われる傾向にある。


けれど、そのおとぎ話は、けっして空想だけで作られたものではない。

実際ネクロマンサーとして修練を積めば積む程、きっと戦場が己を最大限に生かせる場所なのだということも、理解せざるを得なかった。

だが。だがしかし、だ。

私は、理解はしても、納得なんかしていない。戦場に生きるつもりは全く無い。


軍だとか兵隊だとか――ヘタレな私とは正反対の過激な職であるのは明確な事実。水と油と言っても良い。

大金をもらって、栄誉を得て……その対価に大量虐殺、というのは絶対に釣り合って無いのだ。少なくとも私にとっては。

私は、平穏で、虫一匹殺さないような職場が合っている。


結局のところ、どこかしら採用してくれるだろうと楽観視できたのは最初だけ。

……ああ、私、どこにも、採用されなかったんだ。

就職失敗。無職。生活費。食費。将来。

そんな言葉が脳内をちらつく。

これからどうしたらいいのか。


いつのまにか、夢に破れ、矜持もどこかに置いてきた。

今の私にあるのはせいぜい空虚感、無気力感。そんなものだけだ。


これから、どうしようか。

いっそ魔法師ではなく、経理や事務としてどこかの商会の仕事に潜り込もうか。

幸い頭は悪くないし知識もあるから、なんとかなるはずだ。


とはいえ、6年も魔法学院で勉強してきたのに、今さらそんな職に就かなくてはならないなんて。

故郷の両親に会わせる顔が無い。親からは、少ない稼ぎからかなりの学費を出してもらっていた。

私が魔法師でなく普通の人間として就職したと聞いたら、悲しむどころか怒りだして絶縁を言い渡されるかもしれないほどの額だ。

親を頼れない以上、我慢して一般人の仕事を探すべきなのか。せっかく極めた魔法を忘れて?


……うん。就職は、世知辛い。

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