体温
物語中に視点変換が二度あります。
「おそい!」
ほんとは私が待ち合わせの時間に早く来すぎただけだった。彼は時間通りに着いたのに・・・
「ごめんね」
彼はそう言うと自分のコートを脱いで私に着せる。ふわりと温かくなった。
私が寒そうにしてるのに気付いたのだろうか?
「おまえ薄着し過ぎだから」
「待たせるのが悪い」
私の口から出たのは、そんな言葉だった。ほんとに寒かったのだからしょうがない。
彼は苦笑しながら私の手を取り歩き出そうとした。手を握った時に気付く、私の手より彼の手の方が冷たかった。
「ん?」
私が歩き出さないのが疑問らしい。
「どうかした?」
「なんでもない」
私は彼になんって言ったらいいんだろうか?
彼の手を見つめながら歩いた。
ヤバい遅刻だ!
本当なら約束の時間に間に合うのだけど、俺は彼女がいつも約束の時間より早く来ていることを知っていた。
そして、今日の待ち合わせ場所が外だ。
彼女は、厚着するのが嫌いらしく、いつも薄着だし、最近は寒くなっている。非常にまずい。
俺はコートだけ掴んで外に飛び出した。
「おそい!」
うわ! 怒ってるよ。予想通り彼女は寒そうに待っていた。
「ごめんね」
寒そうにしてるの見てられないので、俺は自分のコートを彼女に着せた。
コート脱いだらメチャ寒いんですけど、こんな状態で待たせてたのか?
「おまえ薄着し過ぎだから」
「待たせたるのが悪い」
口ではそう言ってるけど・・・なんだかな〜。俺は彼女の手を取り歩き出そうとした。彼女の手が冷たい。
う〜ん、まずどこか店に入って暖まろう。
「ん?」
彼女は、なぜか歩き出さないで繋いだ手を見ている。
「どうかした?」
「なんでもない」
そう言うと彼女が歩き出す。なんなんだ? まあいいか。
俺の手を見つめながら何か考えている彼女が、どうしようもなく愛おしかった。
はぁ〜どうしたらいいだろうか・・・
私は彼の手を見ながら歩いていた。
何となく視線を感じて、顔をあげると彼と目が合った。
い、今、言おう。
「あ、ありがとう」
「ん?」
コートを掴んで私が言う。
「これ」
彼が微笑んで言った。
「あ〜うん。どういたしまして」
いつの間にか冷たかった手が温かくなっていた。
おわり。