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ハルラン~雨を呼ぶ猫の歌~  作者: 春日彩良
第2章【スコールワルツ】
31/219

2-4


「……ま、まあじゃあ、店の体制も決まったことだし、よろしく頼むぞ」


 チョルスが無理やり自分を納得させてそう告げると、ミンホはナビに向き直った。

 先ほどのケンカの続きかと、ファイティングポーズを取って身構えたナビに対して、ミンホは意外にも律儀に頭を下げた。


「……色々不満があるのは、お互い様です。でも、決まった以上は僕は警官としてあなたを守る義務があります。危険な目にはなるべく合わせないように守りますから、あなたも出来る限り協力してください」


 生真面目な挨拶に出鼻を挫かれたナビだったが、思い直したように胸を張って体勢を立て直した。


「条件がある」

「……何でしょう?」


 この期に及んで、また何を言い出すのか。今度はミンホが身構える番だった。そんな彼に向かって、ナビは大きな声で言った。


「ヒョン」

「……はい?」


 ナビの馬鹿デカイ声で宣言された言葉の意味が分からなくて、ミンホは思わずマジマジとナビを見返した。


「ナビ兄貴ヒョンて呼べ!」


 手を腰にやり、ふんぞり返ってカウンターのミンホを見下ろす。


「ほら、呼べ!」 


 フンッと鼻息も荒く、ミンホを急かす。仕方なく、ミンホは口を開いた。


「……ナビ……」

兄貴ヒョンッ!!」

「……ナビ兄貴ヒョン


 消え入りそうなミンホの声でも満足だったらしく、ナビは独特なハスキーボイスを響かせて笑うと、ミンホの肩をポンポンと満足気に叩いて言った。


「安心して、兄貴ヒョンを頼れよ!」


 何が、兄貴ヒョンだ――高校生みたいな顔をして。行動と言動はもっと下、小学生並みだ。

 それでもミンホは、これから望まずとも相棒になるナビの機嫌を損ねないように、コメカミを震わせながら無理やり愛想笑いを浮かべた。



***



「あーん、何で大学なのぉ? 折角ナビヤのジョシコーセールックにお目にかかれると思ったのに。私服なんてつまらないじゃない。あのサラサラ黒髪は可愛かったけどぉ」

「まだ言ってるのか、お前」


 カウンターに肘を突いた姿勢のまま、グーの形で作った手の中に自らの顎を乗せ、可愛らしい仕草で首を傾げるオーサーを、洗い物の途中にあるジェビンは冷め切った視線で一瞥する。


「何なら帰って来てからでもさ、メイドさんの格好させてさ、給仕してもらうってのはどう? 俺、仕入れてくるよ。お隣の日本では流行ってるらしいじゃない? そーゆーの」

「おい。皿が飛んでく前に、そろそろその軽薄な口閉じた方が身のためだぜ?」


 潜入前の日用品を揃えに、ナビがミンホとチョルス連れられて出て行ってから、店内に残された二人は、ずっとこの調子であった。

 狭いカウンターの中で休むことなく働くジェビンに対して、オーサーは手を貸すどころか内容の無いおしゃべりでその仕事の邪魔をしていた。


「前言撤回」

「え?」

「お前がいれば、心強いって言ったこと」


 ジェビンはかけていた白いエプロンで手を拭くと、そのまま身体から剥ぎ取って、水分をたっぷり含んだそれを、丸めてオーサーに投げつけた。


「働かざるもの、食うべからず! 残りの皿はお前が洗え」


 そう言うと、自分はさっさとカウンターを飛び越える。


「残りって、まだ半分以上残ってるじゃない」

「お前がくだらないことばっかりしゃべって邪魔するからだろ! 一分でいいからその口閉じて、仕事してみやがれ」

「いくらくれる?」

「は?」

「“沈黙は金”って言うで……」

「いいから、早くやれっ!」


 最後までいい終わらない内に、ジェビンの鋭い一喝が店内を奮わせる。


「はいはい……そんなヒステリーじゃ、せっかくの美形が台無し……はい! 可及的速やかに片付けさせていただきますっ!」


 氷よりも尚冷たいジェビンの視線に射抜かれて、オーサーはようやく姿勢を正して立ち上がった。


 その時だった。

 店のドアが開くと同時に、倒れこむように一人の男が店内に入ってきた。




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