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廃棄された幽霊王女は隣国の死神辺境伯に溺愛される。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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009 決まっていた廃棄

 気を取り直して涙を拭ったあと、私が再びドアに手をかけると中から男女の声が聞こえてくる。


「……で、どうなったの?」

「ああ全て順調さ。あの石は上手くいった。……まさかあの偽物で、向こうまで騙せるなんて思ってもみなかったさ」


 やや途切れ途切れではあるものの、そんな言葉だけは聞き取れた。


 石が偽物ってどういうことかしら。

 しかもそれを使って騙したって……。


 待って? もしかして石って、あの宝石のこと?

 でも偽物って。


 宝石は男爵から一度父に献上され、その後隣国の賠償金として納められたはず。


 父も相手国も宝石が偽物だったなんて、気づかないことがあるのかしら。


 どう考えたって、さすがにそれはなさそう。

 では違う石で詐欺でもしているということなのかしら。


 私はぼーっとそんなことを考えながら、気づけばドアをそのまま開けていた。


「なんだお前!」

「まぁ、王女様じゃない」


 中には男爵と、見慣れない女性が一人いた。

 二人は暖炉の前に置かれたソファーで、赤ワインを飲んでいたらしい。


 話の内容よりも、私はその女性のことが気になって仕方なかった。

 ピタリと男爵と体を密着させ、どう見ても普通の関係ではないのは明らか。


 しかも細身でグラマーなのにもかかわらず、彼女のお腹は驚くほど丸みを帯びて大きい。

 それが意味することを考えるのを、頭が拒否していた。


「何しに来た! ここへは勝手に来るなと言いつけてあっただろう」

「冬を越す相談がしたくて参ったのですが……その方はどなたなのですか?」


「ああ、君の代わりに妻になる女性……マリーナだ」

「私の代わりに、ですか?」


 代わりにっていうのはどういう意味?


 この国では王族には重婚(じゅうこん)が認められているものの、貴族にはそれは認められていない。


 私の代わりにこの女性を妻とするのならば、私との婚約をどうするつもりなのかしら。


 結婚しなければいいという問題ではないはず。

 だってもう結婚式は、半年後に行われることが決定してしまっているのだから。


 しかも何より父がそんなことを認めるわけがなかった。

 あの人にとって、自分の思い通りにいかないことは一番嫌うはずだもの。


「そうだ。使えもしない君の代わりに、彼女が私の子を産んでくれるのだから、ありがたく思うんだな」

「そんなこと……」


 使えもしないって。

 私がここへ来た時からあの小屋へ閉じ込めたのは男爵なのに。


 使えないも何もないじゃないの。


 結婚前に他の女性に手をつけ、あまつさえその人に自分の子を生ませるなんて。

 何を考えているのか、この人の頭の中がさっぱり分からないわ。


 自分で得た英雄の名前を、こんなにも簡単に捨てるのかしら。

 でもただ捨てるだけでは済まないはずよ。


「でもどうされるのですか? 私の代わりに妻にだなんて現実的に無理ではないですか」

「王宮でも捨て置かれていたって聞いたから、てっきり学がないかと思っていたが、そういうことはちゃんと知っていたんだな」


「これでも元王族です。最低限の知識ぐらいはあります」

「まったく、変なトコだけめんどくさいな君は」

「……」


 その顔にやや苛立ちが見て取れる。

 きっと言いくるめて、ココから追い出そうとでもしていたのかもしれないわ。

 

 私が結婚を嫌がって逃走したとでも言えば済むという感じかしら。

 でもそんなの私が証言してしまえば、すぐに嘘だって分かるはずなのに。


「あなた、ソレどーするんですの? もう用がないなら廃棄してしまった方がいいのではないですの?」


 女は口を開いたと思うと、私を指さした。

 そして豊満な胸を、男爵に絡めた腕に押し付ける。


 ああ、こういう女性が好みだったのね、この方は。


 女性らしいメリハリのある体型に、薔薇のように赤い唇。

 派手な深紅のドレスがそのブロンドの髪をよく引き立てている。


 彼女に比べれば、私にはなんの華やかさもない。

 貧弱な体に、この白とも思える銀髪だもの。


「問題ない。こんな時のためにちゃんと手は打ってあるよ、マリーナ」

「まぁ。さすがですわ」


 ニコニコとした二人の会話。

 端から見れば仲睦まじい姿だけど、問題はその会話だ。


 今、処分って言ったわよね。

 私を追い出すのとは明らかにそれは違う気がする。


 嫌な予感に数歩下がると、男爵はただニタリと笑った。


「で、どうするんですの?」

「こうするのさ」


 男爵がパチンと指を鳴らすと、奥に控えていた兵士たちが私を羽交い締めにした。


「な、何をなさるのですか!」

「ああ、本当にうるさい女だな。悪いが、もう君の顔も見ていたくもないのでね」

「んーー! んんん!!」


 兵士たちは私を後ろ手にして縛り上げると、口に猿ぐつわをかませる。

 どれだけ叫んでも、唸り声のような小さな声が漏れるだけ。


「これで気味の悪い幽霊のような白髪女を、もう見なくても済む思うと清々するよ」


 白髪じゃなくて銀髪よ。何度言っても通じない人ね。


「あはははは。やだぁ、元王女様なのにすっごい惨め。かわいそー」

「これでも十分すぎるほどさ。一時でも英雄の婚約者になれたのだからな。さぁ、こんなものをいつまでも見ていても仕方ないだろう。ここは冷える。寝室に行こうか、マリーナ」


「はぁい、あなた。王女様、さよーなら。もう二度とお会いすることはないでしょうけどね」

「んー!」


 小さく手を振る彼女のその笑みは、どこまでも幸せそうだった。


 こんなにも惨めな私とは対照的に、彼女は私が欲しかったモノ全てを持っていた。

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