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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

花语

「今日は泊まってけよ」と僕が言うと、君は「こんな所に?」と答える



二人とも飲み過ぎている


開け放たれた窓から入るぬるい夏の風も、酔いをさます役には立ちそうもない

僕のアパートの床は、既に(おびただ)しい数の空き缶が乱雑に整列していた



確かに雰囲気で「泊まってけ」とは言ったが、そもそもこの部屋には布団が一つしか無い


君は「もしかして」、「俺と一緒に寝たかったのかな?」とニヤニヤしながら尋ねる

心臓が止まった様な感覚と共に、酔いは一瞬でさめた


事実として、僕は君と同じ布団で甘い夢を視る事を、これまでに何度も思い描いては諦めていた


「ち…」


「ちげーし!」


混乱しながらもなんとか思考をまとめて、それだけは言い返す

その時、君がふっと笑った気がしたが、確証が持てなかった


「まあいいや」


そういうと君は最後の一口を流し込み、立ち上がった

「シャワー借りて良いか?」


「一緒に入っても良いぞ」


僕は床に横倒しに倒れながら、両手で顔を覆って「入らねえよ!」と答えた

酒が回った事もあるだろうが、それにしても視られたくない程に自分が赤面しているという自覚が強く有った


君は浴室の方に歩くと、ドアの前で着ているものを総て脱ぎ捨てた

そしてそのまま浴室へ消えていく

程なくしてシャワーの音が聴こえ始めてきた


僕は脱ぎ捨てられた服を視た

視ずには居られなかった


先刻まで、この布と君が触れていた

視せられない様な部分とさえだ

恐らく汗も吸っている


「嗅ぐか?」とも一瞬考えたが、理性がそれを咎める

結局のところ、この「衝動と理性の摩擦」が常に僕を擦り減らせ続けていた


ただし、摩擦によって摩耗していたのは、常に心の中の「理性の部分」だけだったと思う



数分してシャワーの音は止み、君は浴室から気持ち良さそうに姿を視せた


僕はバスタオルを持って君に近寄る

「使えよ」と渡すと、君は「ありがと」と答える


実のところ、「自然な眼のやりどころ」というのが解っておらず、僕は実際には内心では恐慌をきたしていた


そのせいもあってか、タオルを渡したあとで君の前を去りながら、不意に僕は「この後、一緒に寝てくれよ」と背中で口走った





大きな沈黙


慌てて、僕は「なんか、冷えちゃったみたいでさ…」と背中で続けた


またしても、沈黙が部屋を支配する

気まずくなり過ぎたくらいの辺りで、君がようやく口を開いた


「お前ってさ」


「もしかして───」


その時、外では花火が上がる音がした


二人とも窓の外に視線が向いていた

続けて幾つか、花火が打ち上がる

 


花火の花言葉は『口実』だったっけ…


僕は「自分」を隠す事を半ば諦めつつも、次の口実を必死で考えていた

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