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横須賀米軍基地のアメリカ空母で起きたタイムスリップ事件  作者: 伴野明 73歳(凄いでしょう)本業は町工場のオヤジ
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7:天狗の鼻

「……」、「……」

「ムッ……」目が覚めた。なぜか艦内に「クイーンのボヘミアン」が流れている。

「寝れたんだ、オレ……」

 意識が戻ると慌てて手元を確認した。

「あるじゃん、トンカチくん……」スゲェ嬉しさだ、トンカチがあったぞ。オレは思わずそれに頬ずりをして拍手をした。

「ん……」

 その音を聞いて貴さんも目を覚ました。

「貴さん、これ、あるよ……ハハハハ」これ以上嬉しい事はあるまい。貴さんもそれを見てニッコリ。

 しばらくトンカチを眺めていたが、「あのタイムスリップ効果は本当にあるんだろうか?」心配になってきた。

「貴さん、夢の中の夢で見た『アレ』、大丈夫かな?」

「ふふん、勇気、それが信じられないなら、この夢の中の現実もない事になる。大丈夫、絶対大丈夫」と貴さんは自信満々だ。

「試そうぜ」

 そう言うと貴さんは腕時計を床に置いた。

「いくぜ!」、「コンッ」床を叩いた。

「チカッ」、来た、あの感覚、間違いない、秒針も動いた。

「ほらっ、来たじゃねえか……」貴さんはオレを見て「どうだ」の表情だ。

「ラノベで書かれてる事なんか現実味がねえ、これこそ『夢の中の現実』なんだよ」

と、貴さんは胸を張る。

「よし、これで安心した。このトンカチ、……いやそれじゃ言い方が悪いな、もっと有難みのある呼び方にしねえと申し訳ねえ」と言って貴さんが、うやうやしくトンカチを拝むような仕草をした。


「ねえ、貴さん、いい呼び名が浮かんだぜ……『天狗』ってどう?」

「天狗?なんでそうなるの?」

「いい、このトンカチ、叩く物という意味ではそれで良いけど、本来のトンカチとは形が違う、これを横から見ると、オレは天狗のお面に見えるんだ」

 それを聞いて貴さんがトンカチを90°回して、少し遠ざけて見た。

「なるほど、確かに突き出た所を天狗の鼻と見ると、お面の横顔に見える。……いい発想だ」と、貴さんはうなずいた。

「マジでこれから命に関わる事が起きる。これを天からの贈り物とみて、これから『天狗』と呼ぼうぜ」

 意見が一致した。これからトンカチを『天狗』と呼ぶんだ。

「オッケー、気持ちが乗ってきた。『天狗』を使いこなそうぜ、まずタイムスリップの効果の確認だ、おそらく強く叩けば戻る時間が多くなる」


 それから『天狗操作のシミュレーション』に入った。タイミングの取り方、その時どちらが『天狗』を持っているべきか、考えられる全ての動作を確認した。

「そうか……」ちょっと休憩していた貴さんがポツリと言った。

「何、なにか更に思いついた?」とオレが尋ねた。

「勇気、オレ達絶対勝てる……」と貴さんの目が笑ってる。

「例えばだ、オレが実弾をくらって、即死したとする。『天狗』を5回叩けば、オレは死んでない。だから二人同時に死ぬか『天狗』を失うかしなければ最後は絶対に勝つってことさ」

 それを聞いてオレは納得した。それで本当に完勝できるか、もう一度シミュレーションをしてみた。


「ん、」頭をフル回転させると大変な事に気づいた。貴さんに聞くのが怖い。

「貴さん、すごく大事な事。オレたち忘れてる……」

「何だって? 何だそれ、すごく大事な事って ?……」

「いい、貴さん、……『天狗』って何回使えるのさ? 無限ならいいけど……」

「ウッ」、それを聞いて貴さんも考え込んだ。だんだん厳しい顔になってきた。

「わからねえ、無限じゃねえことは確かだろう……」

「だよね、突然『時間切れ』になったら終わりってことか……]

 貴さんは『天狗』を手に持ったまま考え込んでいる。

「クソッ、それが分からないと作戦が立たねえ」、そう言いながら貴さんは、手に持った『天狗』を「クルッ、クルッ」と90°回転させて見つめた。

「ん……」ある角度で貴さんが回転を止めた。

「これ、もしかしたら……」、貴さんが急に笑顔になった。『天狗』を両手で持って、ちょっと体から離した。

 貴さんは、「なるほど」と一言いうと、『天狗』を「コンッ」、「コンッ」、「コンッ」と床で三度強く打った。

「貴さん、ヤバイよ、使える回数が減っちゃうよ」、オレは焦った。

 貴さんはオレの言葉を意に介せず、『天狗』をもう一度じっくり見直した。

「勇気、見ろ、『天狗』の鼻がズレてる……」

 オレは貴さんが指さす『天狗』の鼻を見た。


「分かった、そういうことか、『天狗』の鼻を下にして叩くと時間が戻る。よく見ると1回叩く毎に少しずつだが鼻は短くなるんだ。その分『天狗』の後頭部にあたる部分が突き出してくる。つまり鼻の突き出た長さが使える分量と考えればいいんだ。鼻が平らになるまで叩いてしまうと時間を戻す機能は無くなる訳だ。逆にもしかして……もしかしてだけど反対側(後頭部)に突き出た部分は「時間を進める機能」を持っているかもしれない」

「そうか、逆も『アリ』かもしれねえってことか」貴さんがうなずいた。


「貴さん、時間を進める実験、やってみようよ」

「分かってる、だけど時間を進めて何のメリットがある? 時間を戻せば前に言ったようにパンチを交わしたりできるけど、進めると……?」

「メリット大ありじゃん、例えばひと打ち1秒進むなら、「コンコンコン」で3秒後の世界になる。と、いうことはこの先どうなるか未来が分かる訳、ヤバかったら、戻して体勢を立て直せばいいんだ」

「なーるほど、確かに……」貴さんは納得。


 ストップウオッチを見ながら時間を進める実験をやってみた。確実に進むことが判明。オレはさらに欲張った事を考えた。

「ねえ、貴さん、そこまで出来るんだら、時間を止められないのかな?」

 時間が止められたら最強だ、可能性はないのだろうか、オレは貴さんの返事を待った。

「いや、時間は進めるか戻すかどちらかしかない、それはアインシュタインも言ってたぜ」

 

 最も重要な『天狗』の使い方が分かった。それからは脱出法と、もし戦闘になった場合のシミュレーションだ、時間を進める機能を追加して、更にあらゆる場合を想定して打合せを行った。基本的に『天狗』を保持して操作するのは貴さん、戦うのはオレと決まった。

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