第2話 咆哮
つたない文章ですが、最後まで読んでいただけたら嬉しく思います。
青年は夜の山道を一人、歩いていた。
風はない。
黒い袴と上半身は程よく汚れた白い道着姿、腰には小さな巾着袋をぶら下げて、およそ旅をするには似つかわない位で立ちであった。
何処へ向かうでもなく、気の赴くまま歩いている。
行き先は決まっていないが目的はあった。
『そろそろ寝床を探して休むとするか』
青年はどこか横になれる場所がないか辺りを見回した。
と、その時。
ギィィインッ!!
不意に何処かで鉄と鉄がぶつかり弾けるような音が響く。
青年はその音が聞こえた方角へ振り返った。
『何だ?今、確かに刀がぶつかり合うような音が聞こえたぞ』
暗がりの先にある音の出所を探るように目を凝らす。
『あっちか?近いぞ。何かおもしれぇことが起こっているのか?』
青年は口元に笑みを浮かべると振り返った方角へ走り出していた。
好奇心に突き動かされているかのように軽やかに走る姿は、猫科のようなしなやかさを持ち、歳は十代後半に見える。まだ幼さは残っているが美麗な顔立ちの青年であった。
しかしながら、綺麗な中にも荒々しい男としての芯を持っているような不思議と人を惹きつける魅力のある顔立ちであった。
音の方角へと迷う事なく最短の距離を真っ直ぐに駆け抜けていく。
障害となる岩も視界を遮る木々の枝も軽やかにかわしながら、荒れた山道もお構いなしに真っ直ぐと進んでいく。
『見つけたぞ!あそこだ!』
木々の茂みの間、視界のずっと先で二つの黒い影がぶつかり合っていた。
ギンッ!ギィィィン!!
青年は茂みの中、気配を落とし、音を殺して、二つの影の正体を肉眼で確認できる距離までじわりと近づいて行く。
『二人か。一人はおっさんと、、、もう一人の黒い衣の方はここからだと顔は見えないけど面白い構えだな。だがそれがしっくり馴染んでる』
「そうだ。俺がダイマだ」
おっさんの方が、ダイマと名乗る声が聞こえた。
『だいま?もしかして、あっちのおっさんは、あの人斬りダイマか?こいつは大当たりだ!!』
『なるほどな。おっさんの今の動き、尋常じゃなかったもんな。黒いやつの斬撃をかわして、一瞬で後ろに回り込んじまった』
『おれにも出来るか?いや、おそらくかわす事は出来る。でもそこまでだ、、、』
『まぁ、かわせなくてもその場で反撃ぐらいはするだろうけどな、、、』
強い者への好奇心が、青年の頭の中を駆けていく。
「見て・・やつが・・・・・」
!?
『何と言った?黒いやつがこっちを見た気がしたけど、気がつかれたのか?』
青年は、この場を去るべきかと一瞬考えたが、すぐに好奇心の方が上回った。
『こんな面白そうなもん、最後まで見ていくに決まってるだろ』
このまま観戦を決めた直後、黒いやつが動いた。
「少し強引にいかせてもらうぜ!!」
ふしゅっっ!!
暗がりの中、青年は横一線に光る斬撃を確かに見た。
「速い!!」
青年が思わず驚嘆の言葉を発したとき、すでにダイマと名乗った男が黒いやつの胴を横一文に斬り捨てた後だった。
その太刀筋は青年がこれまで見てきた、どの斬撃よりも速く鋭く、そして美しく、そこだけが永遠の一瞬を切り取った別世界のようであった。
青年は、その場にただ立ち尽くし、記憶に焼きついた一瞬を何度も反芻するように思い返していた。
「おもしれぇ、、、」
どれくらいの時間が経ったのか、あるいは経っていなかったのか。
止まった映像が動き出したように、青年が口を開いた。
ダイマと名乗った男は既に立ち去った後であった。
そこには、物言わぬ二つの肉の塊だけが、立ち去ることも出来ずに取り残されている。
「おもしれぇ!!」
青年は自分の身体の中心から溢れ出してくる高揚を抑えきれずにいた。
「おもしれぇっ!!!」
気がつくと青年は走り出していた。
「おもしれぇ!あんなやつがいるなんて!!あんなに強いやつがいるなんて!」
その表情は、新しい遊び相手を見つけた子供のように真っ直ぐとした喜びに溢れていた。
「まだ近くにいるはずだ!おっさん!あんたについてくぜ!勝手になっ!!」
走っている。
もう行き先は決まっていた。
青年は走っている。
吹き上げてくる喜びが身体を追い越していく。
月光を全身に浴び、頬を掠めていく風がとても心地よかった。
「うぉぉぉぉーーーーっ!!」
青年は深い夜を突き上げるように、疾駆しながら天に向かって声を高らかに吼えた。
獣にも似た咆哮が鳴り響く。
吼夜、それが青年の名であった。
読んでいただきありがとうございます。
少しづつ更新していく予定です。
厳しくても構いませんので、感想をいただけたら嬉しく思います。




