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P3

 それからシズナはまるで生きている人間のように過ごした。


 いつ死んで、何年間あの御札のせいで真っ暗の空間とやらに閉じ込められていたのか分からないが、シズナはスマートフォンを見て「なにこれ、折りたためないの?!」と驚き、テレビを付けると「知らない番組ばっか。あれ、この人だいぶ年取ったね。前はもっとイケメンだったのに」と食い入るように見ていた。その様子を私は、タイムリープ系のドラマみたい、と眺めていた。


 最初こそ、私は初対面の他人だというのに距離感の近いシズナに戸惑い、傍若無人にも思えるふてぶてしさに、何も言えないままに苛立った。しかし、徐々に慣れてきたのか、気にすることに疲れてきたのか、夕方になる頃には隣に座る彼女の顔をまっすぐに見られるようになっていた。


 テレビを見ながら座っていると、シズナが少しずつ距離を詰めてきて、服と服が擦れ合う気までに近づいていた。私が少し離れても、追ってきてぴったりと隣に座る。また少し離れても、ぴったりと横に座る。その繰り返し。


 そんな近い距離感で他人と接したことのない私は、落ち着かないどころか、自分の部屋だというのに、居心地の悪さまで感じてしまう。


「近くないですか?」


 痺れを切らして、私は尋ねる。


「あはは……、やっぱり嫌だった?」

「嫌ってほどじゃないですけど……」

「そっか、じゃあ、もう少しこうしてたいな」


 ニコニコと嬉しそうにしながら、シズナは更に身を寄せてくる。こんなにも他人と密着した記憶が小さい頃まで遡っても見当たらない私は、背中のあたりがゾゾゾと粟立つのを感じる。緊張と嫌悪感が混ざった気持ちの悪いもの。


 だめだ、やめてもらおう。


 そう心に決めた瞬間、シズナがポツリと呟いた。


「ずっと独りで居たから、誰かに一緒に居てほしいの。人恋しいていったら良いのかな。離れてると、また独りに戻っちゃいそうで、不安でさ」

「そう……」


 まただ。


 そんな言い方をされると、離すのが悪い気がしてしまう。


 私が御札を剥がすまで、彼女は一人で真っ暗な空間に居たらしい。会社での人間関係にほとほと疲れ切っている私は、誰にも干渉されない、自分一人になれる空間は羨ましいくらいだ。


 でも、それが自由に出入りできなくて、何年先に出られるか、もしかしたら、ずっと出られないとしたら?


 想像するだけで、ゾッとする。


 それなら、シズナを少しばかり甘やかしてあげても良いんじゃないかと思う。緊張も嫌悪感も、ぐっと呑み込んで。

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