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第17話 庭園と二人


 リリアは皇太子の答えを待っていた。

 それは、長い時間のように感じられた。


 皇太子はリリアの瞳を見つめ、微笑みながら返した。


「貴方が気になっていたからですよ、リリアお嬢様」


「私の名前もご存知なのですね」


「ふふっ、面白いことを言いますね。名前も知らない令嬢と踊るとお思いですか?」


 皇太子は涼やかな瞳を細めて笑った。


「そうですね、私が間違っていました」


 リリアも美しい双眼を三日月にしてそう言った。


「ラウゼンベルク伯爵をご存じですよね」


 皇太子は美しく咲く花を見つけると、それに触れた。


 ラウゼンベルク伯爵と言えば、私が市民たちへの寄付をお願いした伯爵のことだわ。何か悪いことでもしたのかしら?それで私のことも怪しんでいるのでは……。

 もう首を切られるのは嫌なのだけれど。


 リリアが訝しげに見ると、皇太子は微笑んだ。


 「あぁ、大丈夫ですよ。最初に言ったでしょう。僕は貴方が気になっているんです。まだ成人もしていないのに寄付をするだなんてなかなかできることではありません」


 「そのことですか。えぇ、まあ、そうですね。街の様子を見た時に、私にできることは何かあるだろうかと考えたのです。そこで家庭教師をしてくださっているウェストモア子爵夫人にラウゼンベルク伯爵を紹介していただきました。伯爵は寄付を熱心になさっているそうで、私も勉強させていただいているのですよ」


 リリアは警戒心を解かないまま、皇太子の疑問に答えた。


 「なるほど。勉強熱心なのですね」

 

 「ええ、市民の一人として、できることはしたいですから」

 「そうですか……。ふふ、それは良い心掛けですね」

 

皇太子がそう呟いたときだった。会場に流れていた音楽が終わった。ダンスホールにいた人々は足を止めて拍手をした。リリアたちもそれに合わせて、互いに礼をとった。

 

「今日はとても楽しかったです。またお会いできると嬉しいですね」

「そうですね。私も殿下にお会いできて光栄です。今日はありがとうございました」

 

リリアは礼をした。皇太子は「では、また」と言って、去っていった。

 

皇太子がいなくなったことにより、会場の雰囲気が一気に変わる。リリアのもとにも貴族たちが続々と挨拶にやってきた。その一人一人とリリアは会話を交わす。

 

 「まさかあの噂のリリア嬢にお会いできるとは……、ぜひ今度我が領地へおいでください」

 「お嬢様。私からも贈り物があるのです。どうか受け取っていただきたい」

 「本日はとても美しいですよ。よく似合っています」

 

リリアは押し寄せてくる貴族一人一人に笑顔で対応した。

挨拶の列も短くなったころ、ソフィアがリリアに声をかけた。


 「リリアお嬢様!」


 「ソフィアお嬢様!では、私はソフィアお嬢様とお約束がありますので失礼します。またお会いしましょう」


 リリアはここぞとばかりにソフィアの助け舟に乗っかった。

 こんな人数相手してられないわ。リリアはほっと一息ついた。


 

 宮廷の中庭で噴水のそばに座るリリア。青い空と緑の庭が彼女を包み込む中、心地よい風が微笑むように吹き抜けた。リリアの表情には疲れが交じっていた。


「リリアお嬢様、お疲れの様子ですね」


 リリアは微笑みながらソフィアに頷いた。

 

 「男性たちとの会話、時には疲れちゃうんです。彼らの中で私はただの令嬢です」


 ソフィアは共感を込めて言った。

 

 「それは辛いことだわ。でも、お嬢様はただの令嬢じゃない。だからあのように話しかけられるのですよ」


 リリアは感謝の気持ちを込めてソフィアに微笑んだ。


「ソフィアお嬢様、ありがとうございます」


 二人は噴水のそばで穏やかなひとときを過ごし、友情が彼女たちの心をほんのり温かくしていた。


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