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プロローグ1.5

幕間の話です。1話に書ききれなかったけど、2話に入れるほどでもない。ひょっとしたら埋没してかまわない、そんな話です。

 ヒメナリ城奪回後、いつかの夕餉。

「そういえばストラくんは私をお姫様ってたまに言いますよね?なんでですか?」

「え?四天王って言うから……つまり高貴なご身分であらせられるんでしょ?」

「なるほど、そういう勘違いでしたか。外国の方はそう思うのでしょうね。私の血筋は武家、あなたたち風に言うなら騎士団長なのです。」

「ええ、そんなにも綺麗な振る舞いなのに?その丁寧さと気品で王族じゃないなんて……。」

「まま、お上手ですこと。ふふふ」

シオリは口元に笑みを浮かべながら下唇に指を当てた。つられてストラの視線は口元に行き、見惚れたようにその唇が次に言葉を紡ぐのを待つ。

「四天王は守護神になぞらえた武士の最高階級で、任命制でなるものです。当代でもっとも特化、突出した能力を持つ者が任命されます。」

「シオリなら防衛能力?」

「はい。驚きました。城壁を下から出す勢いで吹き飛ばしてばっかりだったので突破力とか言われるかと。」

「ちょっと迷った。」

「義姉さまの一太刀を見せてあげられれば、そんな迷いも晴れるでしょう。選ばれた四天王は酒を酌み交わし、義理の家族になります。私のときは甘酒でしたね。」

「聞いたことがある、四天王の長女は七魔殿・第四位を初撃で切り裂いたって。」

「肝心の義姉さまがその戦闘後に行方不明になってしまいましたがね。ええ、強大な魔力を持った魔族の死体が、その戦いの地に残されていました。七魔殿の何者かで間違いないでしょう。」

四天王のうち男性二人は戦死が確認されている。実質シオリが最後の一人で、国防は今や彼女一人の肩に掛かっている。家族同然の人々を失くしながら、だ。

「義姉さまは必ず生きています。一人で国を背負うのは合流するまで、です。」

「じゃあ、背負うのに邪魔な魔族は僕らで追い払うよ。」

「頼もしいですね、年下なのに。」

綻ばせた頬、細められた目は、言葉とは裏腹に信頼と安堵に満ちていた。あるいは2歳ほど年下の男の子に心を預けてしまうほど、いっぱいいっぱいなのかもしれなかった。

「実は四天王になる前、ストラくんと同じ年齢くらいだったころまで、婚約者がいたんです。」

「へえ!?」

ストラの一番高い声が出た。我法でかき消してしまいたかった。

「ただその殿方は大病を患ってしまい、絆が深まり始めた段階で縁談はご破算になりました。私も我法に目覚めてしまったこともあり、それっきりです。」

「四天王になって有名になったんだし、その人の方から会いに来たりは?」

「彼は常々、こんな病気を治して四天王になるんだ、国を守る最強の武士になるんだ、と言っていました。……私は彼の想いまで背負って四天王を引き受けたつもりでしたが、彼からすれば病で床に臥せっている間に限られた役割を奪われた形ですから。」

顔を合わせるのがこわかったのだと、年相応の悩みを彼女は打ち明けた。

「どうしているのかな、その人。」

「……先日取り戻した地域の中に彼の屋敷もありました。彼の自室には死体はありませんでしたが、飾られていた刀もありませんでした。きっと病んだ身体に鞭打って、魔族に歯向かっていったのでしょうね。」

膝の上で、シオリは拳を握り占めている。涙は流さない彼女の精一杯の救難信号だった。

「……どうしてでしょう、ここまで話すつもりはなかったんですけど。」

「大丈夫、その人が選択した闘いを、僕らで引き継ごう。そうすれば弔いにも、清算にもなると思う。」

「……きっと君なら情けない自分でも許してくれると思って、話しちゃったんだろうね。」

上手く答えられたのだろうか?ストラは未熟でも、難しい問いかけに沈黙で流す日和見主義者ではなかった。

「お姫様呼び……。」

「え?」

「二人きりのとき、たまにしてくださいね、初めてだったので。以前の婚約者様は武芸百般に憧れてばかりでしたし、そんなこと言われたことなかったんです。」

「あわわわ」

ストラは狼狽えて

「戦争ばかりで、戦士である以外の私を、忘れそうなんです。」

次いでシオリの言葉に冷静になる。

戦争にヒトの自我は呑まれるものだ。彼女にとってはお姫様だなんてそんな言葉が、大きな流れへの、一種の抵抗だったのだろう。

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