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聖女は嘘が言えません

作者: 紅霞
掲載日:2023/07/13

ずっと頭にあった内容を書いてみたかっただけ。

設定を書き出しておきたかっただけなので、文才や小説のお決まりに関しては私には全く無いものと思ってください。

良かったら最後までお付き合いください。


※誤字報告ありがとうございます。

※伝えることが下手な人間なので、感想の返信は7/15 11時52分の時点から行っておりません。


聖女により、魔王が封印された。



その喜ばしい報せは瞬く間に広がり、城へ続く大通りには聖女と、魔王封印の旅から帰ってきた勇者達の帰還を祝う人々で溢れかえっている。

道をゆっくりと進む馬車の中から、笑顔と歓声で染まる民衆を聖女はただ微笑みながら眺めていた。





++++++++++++





聖女は異界より召喚された者である。



永きに渡り魔族からの侵攻を受けていた王国が、魔族への対抗手段として召喚を行ったのだ。

国の人間にも魔力はある。だが魔族へ対抗するまでの力はなく、抵抗だけで精一杯だった。

このままでは国が消耗し、いつか飲み込まれてしまうだろう。

藁にも縋る思いだった。


召喚陣の中心に立つ人物はまだあどけなさの残る少女だった。真っ白の装束を身に纏い翠の宝石が光る杖を持っている。杖を持つ手も小さく細く、力を加えたら折れてしまいそうだ。


想像していた聖女と違う少女の姿に、召喚の場にいた人々は不安を抱いた。

こんな少女に我々を救う力があるのだろうか、多々な労力をかけた召喚は失敗だったのだろうか…。

貴族や魔導士を中心に不穏な空気が漂い出す。


そんな空気を物ともせず、少女は長い銀髪をさらりと揺らし深い紫の瞳でゆっくりと周囲を見渡し、声をかけた。



「初めまして、私は世界を渡る者。こちらに喚び出されたということは私の力が必要でしょうか」


「私の力は封じるもの、討ち滅ぼす事はできません」


「封印は永久ではありませんが、代が替っても続くほどの時間が可能であり、またとても強固なものです。力が漏れることもありません。その間に、再度封印を施すか、相手に対抗する術を身に着けると良いでしょう」



少女の言葉に、周囲の者達は息を呑んだ。


やっと救いが訪れたという実感、あの苦しみから解き放たれるのだという歓び。


先程の不安など瞬く間に消え、その場は歓喜に湧いた。

歓びに泣く者や少女を拝む者が並ぶ中、少女は再び声をかけた。



「一つ、私について気にとどめていただきたいことがあります。


私は嘘が言えません。真実しか話せないのです。


それだけは、絶対に忘れないでください」






++++++++++++






魔王封印の旅には、聖女と護衛の騎士団、魔導士部隊、そして国の王子と王子の婚約者である令嬢が同行することとなった。

王子と令嬢は封印する力は無いが魔力が非常に多く、聖女と共に居ることで魔族と拮抗するほどの力を得ることができると判明したため、自ら志願したからだ。

国としても手柄が異界の聖女一人に偏るのは良くないという意見が貴族から出始めたため、二人の同行を許可することとなった。聖女も特に反対せず、喜んで二人を受け入れた。


聖女による強化効果は王子達だけでなく、周囲の者達にも与えられた。

騎士団は守護の力が増え防げる攻撃が多くなり、魔導士は普段の倍の威力の魔法が放てるようになった。

令嬢と魔導士部隊による牽制と王子と騎士団による追撃、傷を負い弱ったところに聖女により魔族が杖へ封印されていく。

旅は順調に進み、魔王のいる城まであと僅かというところになった。





魔王との闘いの前夜、王子は緊張した面持ちで聖女に声をかけた。


「聖女よ、この魔王封印の旅への協力、誠に感謝している。貴女無しではこの旅も、その後の平穏も無かっただろう」


「私は成すべきことを成しているだけです。感謝は私をこの世界へ誘った神へ伝えてください」


柔らかく微笑む聖女へふと気を緩めた王子は、一度首を横に振ると再び張り詰めた空気を纏い口を開いた。


「一つ、頼みがあるのだが。魔王の封印に私の婚約者の令嬢の協力があったと、令嬢も聖女の資格があるのだということにしていただけないだろうか」


王子の言葉に、聖女はきょとんとした表情で首を傾けた。


「令嬢様も、王子様も、皆様にもお力添えいただいているではありませんか」


「確かに我々は魔族の弱体を行っている。

ただそれだけでは足りないんだ、我々では魔族は倒せていない、無力化しているのは貴女だけだ。

協力してくれている方にこのような事を言うのは間違っているのはわかっている。だが、我々には王族、貴族としての体裁がある。

どうか、どうか弱体ではなく相手を無力化する『魔王の封印』に、令嬢が携わった事にしていだきたい」


「……こちらに喚ばれた時にもお伝えしましたが、私は嘘は言えません」



頭を下げる王子に聖女は悲しげな顔をして答え、そのまま踵を返して王子から離れていった。

頭を下げたままの王子の表情は悔しさから歪み、手は爪が掌に喰い込むほどに握りしめていた。






++++++++++++






王城にて、魔王封印の成功を祝うパーティーが行われている。

魔族の脅威の無い新たな時代の始まりの時だ。

今までになく綺羅びやかに飾られた会場は、国中の貴族が集まり、平和を祝う者や今までの苦労を語り合う者でいっぱいだった。


会場に、王族入場の音が鳴る。


賑やかだった会場は一瞬静かになり、国王を始めとする王族と、今回の旅の功労者である聖女たちを大きな拍手で迎え入れた。


国王は玉座まで辿り着くと、ゆっくりと会場を見渡した。



「我が国は永きに渡り魔族から平穏を奪われていた。今ここに至るまで前線を守ってくれた者達、またそのための基盤を支えてくれた者達に心より感謝する。


また此度の魔王封印は異界よりの聖女の力無くしては成し得なかった。

聖女と、旅を支えた王子始めとする全ての者に、感謝を。


此度の功労者からも言葉を貰いたい、前へ。」



国王の言葉で聖女と、王子と令嬢が壇上へ上がっていく。

会場全ての目が集まる中、まず口を開いたのは王子だった。



「魔王封印の旅は順調ではあったが、とても過酷なものだった。だがそれを行なうことができたのは聖女と、皆の協力があったからこそだ。私だけの力ではない、皆の力で成し得たのだ」


王子の言葉に会場の貴族から、啜り泣く声が聞こえ始めた。聖女はその人々を微笑みながら見つめている。

そんな聖女の様子を横目で見ながら、王子は声を張り上げた。


「皆に一つ報告をしたい、異界の聖女の影響を受け我が婚約者が聖女の力に目覚めたのだ、魔王を封印したのは彼女の力だ!


我が婚約者は魔力に秀でており聖女の影響を一番受けていた、それ故に魔王と対峙した時には私が贈った指輪を媒質に聖なる力を使い、封印を行ったのだ!」


王子は令嬢を抱き寄せ、令嬢の左手を掲げた。

令嬢の左手には王族の婚約者の証である宝石が埋め込まれた指輪が光輝いている。

魔王封印の成功に続き自国からの聖女の誕生の報せに、貴族達からは大きな歓声があがる。




会場の興奮が最高潮に達したときだった。




「王子、私は嘘が言えません。」




聖女の声が静かに、だが声を張り上げてもいないのに歓声にも負けぬ大きさで響き渡った。

皆が聖女を見ると表情は先程と変わらず微笑んだまま、顔は王子を見つめている。微笑んだまま、困ったかのように首を傾けた。



「王子、お伝えしていた通り私は嘘が言えません、真実しか話せません。それでも宜しいのですか」


聖女は王子をの眼を見つめながら再度口を開いた。問いかけるのではなく、確認するかのように。


「聖女よ、何を言っているのか私にはわからない。封印をしたのは彼女だ、そうだっただろう」


王子は聖女を真っ直ぐに見つめ返して答えた。

その瞳は縋るように、話を合わせてくれと語りかけながら。

そしてその様子を国王も、重鎮達も静かに見守っていた。


聖女は確かに嘘は言ったことはなかった。だが、言っていないだけで本当は言えるのではないかと皆思っていたからだ。



暫くの間、王子と見つめ合った聖女は溜息を吐くと、悲しげな表情を浮かべた。




「………それが貴方の、貴方がたの答えなのですね。」




聖女は目を閉じ、会場の人々へ顔を向けると杖を掲げた。

祈るように跪くと、その身体から柔らかな魔力が溢れてくる。



「魔王の封印は王子の婚約者である令嬢が行いました。


()()()()()()()()()()()()()。」



聖女の宣誓とともに杖の翠の宝石が眩く光り出した。また聖女自身からも暖かな光が溢れ、会場を満たしていく。

満たされた光は少しずつ柔らかくなり、令嬢へと集まっていった。




「……言えるではないか」




その光景を目にしたぼそりと呟いた国王の言葉に、重鎮達は小さく頷いた。

聖女が嘘を言った。嘘を言った上で、令嬢に力を譲ったのか。


王子と令嬢も、聖女が嘘を言えた事に驚きつつも令嬢を聖女として認めた事を喜び合っていた。






聖女が再び口を開くまでは。






「それではこの度の魔王封印に関しては聖女ではない私の力は全て無意味な物となります。


よって私の行いは無かったものに。


全てはあるべきものの姿に。」






少女の言葉と共に、翠の宝石から今度は膨大な瘴気が発せられる。瞬く間に会場に広がり、空気が重く苦しいものになった。

瘴気は魔族の魔力だ、人間にとっては悪影響しかない。

そんなものが会場いっぱいになってもまだ溢れ続けている。あまりにも膨大な魔力の圧に貴族達は慄き焦り、会場は一気に混乱状態に陥った。


翠の宝石、それは少女が魔族を、魔王を封印している物だ。

そこから漏れ出る瘴気の意味を、王子はいち早く理解した。


「異界の聖女よ、瘴気を止めてくれ!止めなければそこに封じられた魔族が解き放たれてしまう!

封印は強固なものではなかったのか?!」


令嬢を抱え叫ぶ王子を見て、少女は優しく微笑んだ。


「残念ながら、止めることはできません。

言ったではないですか、私は嘘が言えませんと。


私は()()()()()()()()()()


私が言ったことは()()()()()()()()のです。」



王子は、少女の言っている意味が理解できなかった。

理解できない、だが嫌な予感しかしない。冷や汗が頬を伝っていく。



「私は真実しか話せません、それが実際に起こったものではなくても、私が言えばそれが世界の真実となるのです。


私はやっていないと言えば私の行いは消え、無かったことになるのです。世界にとっての真実ではありませんので。」


絶望の表情で固まる王子を見つめたまま、やはり微笑みながら少女は語り続けた。


「今回は、そちらの令嬢様がこの世界の聖女となりました。ゆえに、私のこの世界の聖女としての資格は失われました。


先の旅では私が封印してしまいましたので、資格が無くなると共に封印も無かったこととなります。


()()()()()()()()()()()()()()()()。」


そこまで語って、少女は令嬢へ目線を移す。

先程の喜びとは真逆に顔を青褪めさせた令嬢が、王子に抱かれて茫然としていた。



「聖女様、誠に申し訳ございませんが私はただの渡り人、この世界では封印の力はありませんので貴女様のお力にはなれそうにありません。


封印の力は、人の身の貴女にとっては耐え難い力かとは思います。


ですが、願って手に入れた力ですもの。きっとその身を犠牲にしてでも、魔王を封印してくださるのでしょう?」







「成功を、他の世界より願っております、聖女様」






悪意の欠片も無く、普段と変わらない微笑みを携えたまま少女は一礼すると、瘴気に飲まれるように消えていった。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


聖女が嘘をつけないという話はありますが、「聖女として喚ばれた人が言ったことが世界にとっての本当になってしまうため、嘘が言えない」という物は見かけなかったなぁと。

既にあったらすみません。

でもずっと頭の中でぐるぐるしていたので、書き出せて満足です。


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