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事実の開示

夜会の裏で。

大勢の貴族が舞踏に興じるなか、私たちは別室で向かい合っていた。


私、エルヴィス、リアさん。

テーブルの向かいにはスリタール子爵家の三名が座っている。

そして間には……威厳のある老年の男性が座っていた。


あの方こそエッカルト大公閣下。

この夜会の主催者だ。

エッカルト大公閣下は重々しく口を開く。


「さて、話は聞かせてもらった。どうやらひと悶着あったようだな。エルヴィス、説明を」


この場で大公閣下に次いで位が高いのはエルヴィスだ。

彼が説明を求められるのも当然のことだろう。


「スリタール子爵令嬢……ドリカ嬢が暴力行為を働いたようです。俺の妻であるディアナが被害に遭うところでした。本人は言い訳を並べていますが、大勢の目撃者もいます」


「……それは真か」


エッカルト大公閣下がお父様に目を向ける。

お父様は粛々とうなずいた。


「……はい。娘がとんだご迷惑を」


「ちょ、ちょっとお父様!? 私よりも赤の他人のことを信じるの!? 娘の言い分を信じてよ、私はディアナを殴ろうとなんてしてないわ!」


お姉様は抗議するが、誰も反応する様子はない。

お姉様とお母様の悪評は社交界でも話題になっている。

いまさら彼女たちの言い分を信じる者はいないだろう。


エルヴィスがお姉様の主張を遮って、周囲に訴える。


「……今回のような出来事を頻繁に起こされても困りますね。侯爵家に連なる者として、不適切な言動が先の夜会でもあったようです。気品に欠ける振る舞い、侯爵家の後ろ盾を使った脅迫まがいの行為。スリタール子爵は、それについてどうお考えで?」


「おっしゃるとおりです。これ以上、アリフォメン侯爵家の方々にご迷惑をかけるわけにもいきません。ゆえに……わがスリタール子爵家は、夫人ロイーズと娘ドリカに対して離縁を言い渡します」


お父様の言葉に衝撃が走る。

主にショックを受けているのは――お母様とお姉様だ。

だって、私たちやお父様はこの展開を知っていたから。

大公閣下は興味深そうに片方の眉を上げた。


「ほう……」


お母様は急に机を叩いて立ち上がる。


「ちょっと、どういうことかしら!? いきなり離縁なんて……無理に決まっているでしょう、あなた!?」


「そ、そうよ! どういうことなの、お父様!」


相変わらずやかましい二人だ。

私はただ固唾を飲んで事態の成り行きを見守っている。


「……ドリカ。お前は先程『私よりも赤の他人を信じるのか』と言ったな。だが、お前は私の実の子ではない。血がつながっていない……貴族ですらない、それこそ『赤の他人』なのだよ。スリタール子爵家の血を継いでいるのはディアナだけだ」


「…………へ?」


瞬間、お姉様が間の抜けた声を上げる。

同時にお母様の顔色が真っ青になった。


「儂も知らぬ事実だ。詳細の説明を」


「はっ。ドリカは、妻が平民の男と浮気して生まれた娘です。妻がドリカを身籠った当時、すでに私と妻の婚姻は決定していました。やむを得ず、ドリカをスリタール子爵家で引き取ることにしたのですが……今まで娘を傷つけまいと、ドリカにその事実は言わずに過ごしてきたのです。しかし、こうして好き勝手に振る舞われては……妻と離婚し、ドリカと縁を切ることもやぶさかではありません」


お父様は大公閣下に詳しく説明する。

この十何年間、よく秘密を隠し通したものだ。

私だって気づくことができなかった。


「嘘……嘘よ! そんな証拠、どこにもないじゃない!」


「――証拠ならある」


そこで事態を傍観していたリアさんが口を挟む。

彼女はあくまで事務的に論拠を並べていった。


「アリフォメン侯爵家は、スリタール子爵夫人の浮気相手の身元を調査した。浮気相手の身元を押さえ、証言もいただいた。夫人が浮気していた時期に仕えていたスリタール子爵家の使用人の証言や、出入りの記録も押さえてある。数多くの証拠から見て、ドリカ嬢は間違いなく浮気相手との子だ。夫人は貴族ではなく、商家の出身……つまり平民の浮気相手との間に生まれたドリカ嬢は、貴族とは言えない。間違いないだろうか、スリタール子爵夫人」


お母様は黙り込んでいる。

その額には玉のような汗が浮かび、体は小刻みに震えている。

しかしリアさんは口を閉ざさずに、さらなる追求を行った。


「そして……ドリカ嬢が貴族でないとすれば。彼女が行っていた『ディアナ嬢への虐待』も問題となる。貴族に対して平民の子が、暴行や陰湿な嫌がらせを行っていたのだから」


「……!」


え、待って……この話をするのは聞いていない。

私に対する実家での嫌がらせ……それは事実だけど。

ここでその話を持ち出すとは言っていなかった。


「わ、私がディアナにいじめを……? あ、愛する妹に、そんなことするわけないじゃない……!」


お姉様は必死に首を振って否定した。

もう自分が信用に値する人間ではないと、気づいていないのだろうか。

否定しても信じる人なんて誰もいないのに。


「義姉上。この際、後ろ暗い過去はすべて取り除いた方がいい。ここで憂いを断たねば、きっと後悔することになる」


……息苦しい。

でも、リアさんの言うとおりだ。

勇気を……出さないと……


「ディアナ」


ふと、温かいものが指に触れた。

エルヴィスの手が……私の手を包み込んでいる。

彼は柔らかい笑顔を私に向けてうなずいた。


そうだ……私には彼がいるんだ。

誰よりも優しくて心強い、愛する夫が。


「私は……実家でお母様とお姉様から、いじめを受けていました」

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