帰宅、そして噂を聞く
帰宅したころには、辺りはすっかり暗くなっていた。
デートはすごく楽しかった……!
はしゃいだぶん、疲労も少し溜まっている。
今日はゆっくり休もう。
エルヴィスと夕食後に談笑する。
今日はたくさんのことがあった。
買い物を楽しんだし、おいしい食事も楽しみ、そして新たな友人たちも作ることができた。
また都に出かけよう……なんて話をしていると、リアさんとオーバンさんがやってくる。
「兄上、少しいいか」
「あ、あぁ……ディアナ、少し席を外すよ」
「はい」
エルヴィスはリアさんを見た途端にソワソワし始めた。
いつも自信がないように振る舞うエルヴィスだが、今日は一段とリアさんに気まずそうに接している。
なにかあったのだろうか……?
二人の兄妹が出て行った後、オーバンさんが疲労回復するハーブティーを淹れてくれる。
「ありがとうございます」
「今日は長いこと歩いてお疲れでしょう」
「はい。でも楽しすぎて疲労なんて気になりませんでした。エルヴィスも普段は見せてくれないような一面を見せてくれたり、もっと彼のことに詳しくなって」
「それは喜ばしいことですな」
微笑みながらオーバンさんは茶菓子を並べていく。
できればエルヴィスと一緒にお茶を囲みたいけど……何の話をしているのだろう。
「エルヴィスとリアさんは何を?」
「私にはわかりませんな。それよりもお茶を飲んでおくつろぎくださいませ」
「……私の実家に関することですか?」
尋ねた瞬間、オーバンさんの動きが少し止まった。
彼は何も答えない。
「すみません、さっき使用人の立ち話を聞いてしまって。私の実家から使者がやってきたとか……」
「ふむ……隠していても仕方ありませんか。たしかに、旦那様とディアナ様がお出かけになっている間に、スリタール子爵家から使者が参りました。しかし、スリタール子爵の使者ではなく『ドリカ嬢の侍女』だったのです」
「お姉様の……」
スリタール子爵家で、私はろくな扱いを受けていなかった。
お母様とお姉様が権力を握っていて、使用人たちも私をいじめていたのだ。
実家からの使者が私の悪評を吹き込んでいないか心配になる。
「ご安心を、ディアナ様。アリフォメン侯爵家の者は、みなあなたの味方です。使者は非常に礼節を欠いた態度でしたが……お嬢様がうまく対処してくださいました」
「姉はどういう用件で?」
「その……ドレスをアリフォメン侯爵家に買ってほしい、と……」
「?」
意味がわからない。
どういうこと……?
首をかしげる私に同調するように、オーバンさんも困惑していた。
「侯爵家の親族となったのだから、ドレスくらい買ってしかるべきだ……との言い分でした。もちろん誕生日や祝いの日には親族に贈り物もいたしますが、そう易々と金を出していては侯爵家の格が落ちます。お嬢様は適当な返事だけして、使者をお返しになりました」
「ほ、本当にお恥ずかしい……当家の者がご迷惑をおかけして……」
あまりの恥ずかしさに耳の端まで真っ赤になる。
エルヴィスの語っていた『お母様とお姉様は侯爵家の親族に不適格』という理由がわかった。
こんな人を親族にしておけば、アリフォメン侯爵家の名誉が大きく揺らぐことになる。
やっぱり……逃げてばかりじゃいられない。
このままでは侯爵家の方々に迷惑をかけ続ける。
私の実家の問題には、私が向き合わないと。




