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質問責め

「あら、来てくださいましたのね! ささ、こちらへどうぞ」


セレスト様が貴族街にもつ別荘を訪れると、彼女は笑顔で私たちを迎えた。

食事会……ということで、そこまで大規模な社交ではない。

ロビーにいるのは十名にも満たないくらいの貴族たち。

よかった、これくらいならあまり緊張しない。


グイグイとセレスト様に引っ張られる私たちを、食事会の参加者は物珍しそうに見ていた。

普段は滅多に社交場に出てこない私。

そして見慣れない赤髪の殿方……彼が『陰険侯爵』と気づいている人は、まずいないだろう。


いちばん目立つ壇上に立たされた私とエルヴィス。

隣をちらと見ると、青い顔をして絶句するエルヴィスの姿があった。


「みなさま! こちら、私の友人のお二方ですわ。さ、自己紹介を」


気を遣ってくれたのだろう。

主催者であるセレスト様が最も位の高い人だ。

そんな彼女が『友人』と言ってくれたのだから、私たちも面目は潰れない。

……というか侯爵が気軽に参加しているけど、いいのかな。


「ディアナ・スリタールと申します」


まあ、私のことを知っている人は多いだろう。

ほとんど夜会に顔を出さないとは言っても、まったく出席しないわけじゃないし。

いつも流行遅れのドレスを着ていたから、悪い意味で印象に残っていると思う。


私が古ぼけたドレスを着ていないことに驚いているのか。

それともセレスト様の友人として扱われたことに驚いているのか。

はたまた婚約者らしき男性が隣にいることに驚いているのか。

参加者のみなさんは目を丸くしてこちらを見ていた。


そして、私の隣に立つ方は。


「エ、エ、エルッ……エルヴィス・アリ、アリフォメン……です。い、以後お見知りおき」


平常運転。

でも自己紹介できただけ進歩していると思う。


アリフォメン侯爵――そう告げた瞬間にざわめきが起こる。

この反応も予想どおりで、注目された結果ますますエルヴィスが委縮してしまうのも知っている。

だから私はそっと彼の手を握った。


「大丈夫ですよ。堂々と」


「あ……あぁ。すまない、情けないところを見せたな」


少しずつ場慣れしていこう。

べつに焦らなくてもいい、彼のペースで。


「ここは自由に歓談する場です。みなさまもお二人のことが気になるでしょうから、お話ししてあげてくださいまし」


セレスト様にうながされ、私たちは壇上を降りる。

瞬間、大勢の令嬢が私に押し寄せた。

その勢いに押されてエルヴィスが遠ざかる。


「わわっ!?」


「ディアナ嬢、お久しぶりです! そのドレス……すごく綺麗ですね! 最新の流行のものではありませんか?」

「あの殿方は本当にアリフォメン侯爵なの!?」

「ねえ、お二人はどういう関係? もしかして婚約者?」


一斉に複数の令嬢方から質問されて戸惑ってしまう。

こ、これが社交界の洗礼……!

注目の的になると、こんな感じで囲まれてしまうのだ。


「お、落ち着いてください。みなさま、スリタール嬢が困っていらっしゃるではありませんか!?」


セレスト様が慌てて横入りする。

それから一人ひとりの令嬢と交流できるように取り計らってくれて、すごく頼りになった。

セレスト様は身分が高くて怖い人だと思っていたので、あまり交流はなかったけど……今回をきっかけに人柄を知ることができた。


そして何より……友人、と言ってもいいのだろうか。

おこがましいと思われるかもしれないけど、この食事会でたくさんの方と交流できて。

この調子で友好の輪を広げていきたいな。


 ***


ディアナは上手くやれているみたいだ。

この食事会は多くが女性で、かなり肩身が狭い。

……俺は情けないことに隅で居心地悪く過ごしていた。


俺のことを聞きたい貴族は、直接俺ではなくディアナに尋ねている。

やはり見た目が変わったとしても、『陰険侯爵』の二つ名は伊達ではないか。

俺から陰気なオーラが漂ってたりするのだろうな。


「あの、恐れ入ります」


「ん」


隅でそんなことを考えていると、一人の青年が話しかけてきた。

青い髪と瞳をもつ青年で……笑顔を俺に向けてくる。

なんだ彼は……俺に近づくとは奇特な人だな。


「お初にお目にかかります。僕はエヴリニー子爵レグウィフと申します」


「そうか。ええっと……すまない、聞き覚えがないな」


「昨年、ネシウス伯爵家の領地を継いで子爵となった者です。新興の貴族なのでアリフォメン侯爵閣下のお耳には入っていないかもしれません」


「ああ、いや……知っている。俺の従弟のアルバン子爵と領地を分割した者だろう?」


帝国に裏切ろうとしていた伯爵が領地を没収され、新たにそこの領主となった人か。

俺の従弟は相変わらず優秀で、国の腫瘍となる貴族を見抜いていたという。


「その節はありがとうございました。アリフォメン侯爵閣下が大公閣下に取りなしてくださったおかげで、僕も爵位を得ることができたのです」


「いや、あの……アレは妹が勝手にやったことなんだ、すまん。俺は書類に印を押しただけで、何も知らん、すまん」


我ながら恥ずかしい。

妹と従弟に領地経営や社交は任せきり……ディアナのことも考えると、領主として自立すべきなのも自覚しているんだが。


「妹さんといえば……リア先生はお元気ですか?」


「リア?」


「はい。僕はリア先生の元教え子なんです。数か月前に卒業して、それきり先生とはお会いできていませんが……」


「そうなのか。まあ、いつもどおりだ。俺のことがよほど嫌いなのか、毎日のように嫌味を言われているよ」


俺の言葉を聞くとエヴリニー子爵は小首をかしげた。

なにか変なことでも言っただろうか。

いや、俺は常に変なことを言っている気がする。

やっぱり社交界になんて出るべきではないな。


「リア先生はアリフォメン侯爵閣下のこと、とても心配されていました。先生は寡黙な方でしたが、常に閣下や領地のことに気を配っていました。『兄上には幸せになってほしい』……そう語っていたこと、今でも覚えています。先生は閣下のことを嫌いではないと思いますよ」


そう、なのか……?

それにしてはいつも辛辣な態度だがな。


俺に幸せになってほしい……か。

幸せって、何だ?


だって、俺の未来を奪ったのは。

俺が存在意義を見失った理由は……。

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