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明かされた事実

夕方、応接間で私はエルヴィス様に向かい合っていた。

部屋の端ではリアさんが退屈そうに欠伸をしている。


「そ、それでだな。庭園の土をそろそろ入れ替えようと思うんだが……」


「……兄上。そろそろ縁談の話をしてはどうかな。園芸の話は結構だが、義姉上もそろそろ聞き飽きただろう」


かれこれ趣味の話をすること三十分くらい。

私としてはまだまだ付き合えるのだが、今は縁談の話を聞きたいという気持ちも強かった。

エルヴィス様としては話しにくい部分もあるのだろう。


「エルヴィス様。私のことを気遣って婚姻の話が切りだせないのなら、心配は不要ですよ」


「……わかった。『最初からディアナ嬢が嫁いでくることは決まっていた』と以前に話したと思うが……」


「ですが、元々は姉のドリカにきた縁談ではありませんでしたか?」


「ああ。ドリカ嬢が『陰険侯爵』である俺との婚姻を断ることは目に見えていたからな」


エルヴィス様の釣書を思い出す。

たしかに、面食いのお姉様があの釣書を見てうなずくとは思えない。

今にして思えば、エルヴィス様よりもかっこいい男性なんて思い浮ばないけど。


「ドリカ嬢は未婚だろう? ディアナ嬢よりも年上で、社交界でも目立っているドリカ嬢に縁談を出さないのは不自然だからな。建前としてドリカ嬢に縁談を出したが、スリタール子爵との談合で君を嫁がせてもらうことは決まっていたんだ」


そうか……あのとき私に決定権がなかったのは。

お父様がお姉様ではなく、私をアリフォメン侯爵家に嫁がせたかったから?

『アリフォメン侯爵様に、ドリカを嫁がせるつもりは……』とお父様が言っていた気がする。


「ドリカ嬢ではなく君に嫁いでもらったのは、ドリカ嬢と君の母上が『侯爵家に連なる人間』として不適格だからだ」


「……? 不適格ってどういう意味なのですか?」


「ドリカ嬢は、スリタール子爵と血がつながっていない。そもそも元は貴族ですらない人間なんだ」


――え?

何を言われているのか、一瞬理解できなかった。


お姉様に子爵家の血が流れていない……?

たしかに私は地味で、お姉様はすごく派手で……髪と瞳の色も違うけれど。

まさか、そんなことって……。


「スリタール子爵の正当な子はディアナ嬢だけ。君の母上は平民の男と浮気し、ドリカ嬢を身ごもった。スリタール子爵はそれを知っていたようだが、世間体も考えて秘匿することにしたようだな。ドリカ嬢に子爵家の正式な継承権はない」


「なぜお父様は今になって暴露をしようと?」


「……さあな。そこまでは聞いていない。社交界でも悪評高いわがまま母娘に嫌気が差したか、それとも実子であるディアナ嬢の結婚が決まって安堵したのか。そこまではわからない」


しばらく説明を聞いていると、腑に落ちる部分もあった。

母上があんなに私のことを嫌いなのも、お姉様が私を邪険にするのも。

淑女らしからぬ浪費癖があるのも。

そして見た目があんなに違うのも。


「この婚約に乗じてスリタール子爵は、夫人とドリカ嬢を離縁するつもりだ。『侯爵家とつながりを持つからには、夫人とドリカ嬢を貴族として扱うわけにはいかない』……こういう口実でな」


「し、しかし……そんなことお父様からは聞いていません」


「スリタール子爵はひとりで全てを背負うつもりだと語っていたよ。今まで娘につらい思いをさせていたのに、助けられなかった私の責任だと……そう嘆いていた」


お父様……もしかして、何もかも私の知らないところで始末をつけるつもりだったの?

たしかに私も苦労したけれど、あの母と姉を持って苦労していたのはお父様も同じなのに。


「しかし、お母様とお姉様が正当な子爵家ではないと……どうやって証明するのでしょう?」


私の問いに、傍観していたリアさんが答える。


「それに関しては私から証しよう。アリフォメン侯爵家の情報網を使い、スリタール子爵夫人の不貞の証拠は掴んだ。浮気相手の平民の身元も明らかになっている。今から十五年以上も前の書類だったので、閲読に難儀したがね」


「縁談を出したのは、リアがスリタール子爵から相談を受けて証拠をすべて集めた後だ。ディアナ嬢の母上と姉上は離縁に抵抗するだろうが、すでに揺るがぬ証拠は持っている。心配はいらない。君を傷つけさせはしない、もちろんスリタール子爵も」


……エルヴィス様の言葉に少しだけ胸が軽くなった。

短い間だけど、彼の優しさはわかっている。

だから信じよう。


「君はもう俺の大切な家族だ。家族を守るのは当然のこと……そうだろう?」


エルヴィス様は柔らかく微笑んだ。

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