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「俺、違った。私は、女なんです」 


 初めて女に見えるようにしてもらって、浮かれていたのか、俺は何にも考えてなかった。

 だから皆んなの前でわざわざ宣言。

 リアム様が説明してくれたけど、逆効果だった。

 その日からピーターとも何だか距離が置かれて、メイドや侍女から呼び止められて、イヤミを言われたりする事が多くなった。

 どうやらリアム様に取り入る為に男装していたと思われたらしい。

 メイドたちは俺には当たりが悪いけど、仕事はサボらない。だから俺が騒いでも仕方ない。だから俺が、私が我慢すればいい事だ。

 そう決めて、俺は何を言われても黙って耐えた。

 そんなある日、いつもの様にメイドにネチネチと全然身に覚えのない事で叱られてると、ピーターが助けてくれた。


「ありがとうございます」

「メルギア。悪かったな。こんな目に遭ってるなんて知らなかった。なのに俺まで距離を置いて。これからは、こんな事がないようにいつも側にいるからな」

「あ、はい。ありがとうございます」


 それからピーターは前みたいに、いや、前よりなんだかもっと優しくなった。

 いつも側にいてくれるようになったせいかと絡まれる事も少なくなった。


「どうだ?作ってみるか?」


 あの騒動から一か月。

 調理長から炒り卵を作ってみるかと言われた。

 家ではよく作っていたけど、こちらでは初めてだ。


「はい!」


 手順はピーターが作るのを見ていたから知ってる。


「ピーター。教えてやれ」

「はい」


 ピーターの監督の元、俺は炒り卵を作る事になった。卵の殻を割るところから始まる。

 この日から俺は少しづつ料理を教えてもらい、見習いから一端の調理人になった。それでも俺が一番若いので主な仕事は皿洗いと野菜洗い、下拵え。ピーターも同じでで俺達二人は一緒に仕事をした。

 ピーターと行動を共にする事が多くなって、嫌がらせ、やっかみがなくなった。

 心配してくれたキャロルさんとアリッサさんは複雑そうなんだけど、どうしてだろう?

 リアム様は見掛けると声をかけてくれて、本当に面倒見のいい方だ。

 数年後には当主になって、ご結婚も。そう噂が流れてくるけど、まだ婚約者もいないらしい。

 それはそうだよなあ。

 女だもん。俺と同じで。俺は女だって宣言出来たけど、リアム様は違う。

 弟のノア様が成人してかなあ。

 だけどリアム様は男として社交の場に出られてるので、女性に戻った時難しいだろうな。



 ☆


 それから二年が過ぎ、十六歳になった。私の体は丸みを帯びて、女の服を着ればちゃんと女に見えるようになっていた。


「メルギア。俺はこの屋敷を出て調理人として外で働きたいと思ってる。一緒に来ないか?」


 ある日、ピーターに話があると誘われた。


「ありがとうございます。でも、行きません」


 誘われて最初に思ったのが、リアム様の事だった。ピーターと同じで今年で二十歳。今だな浮いた話もない。それはそうだ。本当は女だもん。

 女の婚約者なんて作れるわけがない。

 リアム様はまだ男のフリを続けている。私は彼女の負担を減らしたい。私が()()()()()()()機会を与えてくれたリアム様に何かお礼をしたい。

 だからお屋敷に残りたい。


「やっぱりダメか。引き抜きは諦めた。でも、俺はまだ諦めたくない。メルギア。俺と結婚しないか?」


 け、結婚!?


 それは私が、諦めたものだった。男っぽい自分が結婚出来るわけがない。だから独り身でいても笑われないように村を出てきた。この屋敷には、女でも独身で胸を張って生きている人がいる。結婚しなくても誰も笑わない。

 ピーターはずっと一緒にいてくれた。結婚しても彼は変わらず優しいだろう。だけど……。

 私は結婚するために村を出てきたわけじゃない。

 一人でも生きていけるように出てきた。

 そして今の自分、調理人としての自分。独身でも生きていける。そんな自信がついていた。


「ピーター。ありがとうございます。でも結婚は出来ません。ごめんなさい」

「謝るなって。答えは予想していたからさ」


 ピーターがポンポンと頭を優しく叩く。


 それから一ヶ月、彼は屋敷を出て行った。


「メルギア。大丈夫?寂しくない?」

 

 ピーターが辞めてから、リアム様が気にかけてくれる様になった。そうなるとまたメイドからの嫌がらせが始まってしまった。

 リアム様に特別扱いされている。そんな風に受け取られているようだ。


「リアム様。心配しなくても大丈夫です!」


 寂しくないというのは嘘だ。でもピーターが抜けて担当する仕事や覚える事が多くて、毎日忙しく働かせてもらっていて、寂しさも紛らわされる。

 意地悪されたり、物が紛失したりするので寂しく思う暇も無くなってしまった。



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