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「あ、忘れてた。部屋にリアム様が来る予定があったんだ。会わなかったか?」


 調理場に戻るとピーターからそう聞かれた。


「あ、会ってません」


 会うっていうのは言葉を交わしたりすることだ。

 あれは目があっただけだから、「会う」じゃない。

 そう頭の中で言い訳して答えると、ピーターはあっさり「そうか」と言って、野菜を再び洗い始める。罪悪感たっぷりにその隣に並んで水に浸した野菜をちぎった。


 それから数日、俺の心臓はバクバクしていた。


 性別を誤っていない。嘘はついていない。

 だが、誰も彼も俺のことを男だと思っている。

 だから俺が本当は女だってわかった時、きっと嘘つき呼ばわりされる可能性がある。


 二週間くらいすぎて、もしかしたらリアム様は気が付いてなかったかもしれない。そんな前向きに考えていたら、呼び出しを食らった。


「大丈夫か?俺も一緒にいってやろうか?」

「いや、大丈夫です。ありがとうございます」


 リアム様と俺の接点はまったくない。

 ピーターは年齢が同じくらいなのでよく話をするみたいだけど。


 これは絶対、あのことだ。

 やっぱり見られていたか。

 重い足を引き摺ってリアム様の部屋へ。そして扉を叩く。


「メルギアです」

「入っていいよ」


 声がして、俺は扉を開ける。

 初めて入るリアム様の部屋だ。

 まあ、俺は調理見習いだから、食堂と調理場と自分の部屋しか知らないんだけど。


「さあ、かけてくれ」

「え、あの」


 椅子に座るように勧められるが、革製のソファはとても高そうなものだ。汚してしまっては大変だと俺は躊躇してしまった。


「うーん。じゃあ、いいや」


 リアム様が椅子から立ち上がって、近づいてきた。

 身長は、女にしては少し高めだ。

 だけど女っぽい美しさが滲み出ている。

 綺麗だなあ。

 これこそ、本当の男装。

 男装の麗人ってやつだ。

 俺とは違う。


 リアム様は座ることなく、立ったままだ。


「君が座らないなら私も座らない。さあ、話をしようか」


 礼儀なんてわからない。

 だけど、立って話すのはちょっとおかしい気がする。

 というか、部屋に俺と二人っきりなのもおかしい。

 男装しているとはいえ、女であるリアム様と男だと思われている俺二人。

 まだ少年だから、それともリアム様が女性であることは侍女とか従者にも隠されているのか。


「えっと、この間は本当にごめん。扉を開ける前にノックもしなくて、本当に」

「いえ、あの、別にいいです」


 ピーターに用があったみたいだし。

 用事はなんだったのかな?


「……それで、君のことなんだけど、女の子なんだよね?」

「は…い」


 一瞬嘘をつこうか迷ったけど、素直に答えることにした。

 見られているはずだから、性別を聞いてくる。

 ここで嘘をつくのはよくない。


「ああ、やっぱり。ごめん。本当に私は」

「いえ、気にしないでください。お目汚しってヤツです。こっちこそすみません」

「お目汚しって。淑女の着替えを見てしまうなんて本当にごめん。貴族であればお詫びに結婚すべきなんだろうけど」

「け、結婚?!」

「君は平民だし、だから、あの」


 たかが裸のようなものを見られただけで、結婚か。貴族って大変なんだな。

 平民だったら、妾とか?ありえんし


「気にしないでください。減るものじゃないですし」


  責任を感じる事なんて何にもない。


「減る……。そうだけど。何かお詫びをさせてくれない?」

「お詫び……。あ、そうだ。リアム様。俺が女である事を皆んなに話す時に助けて貰えませんか?今はいいけどいつかわかってしまうので、その前に皆んなに話そうと思うんです」

「いいけど。皆に話すつもりなの?」

「はい。アッサム斡旋所では性別を聞かれなかった。雇用条件にも性別のことはなかったみたいです。俺は誰にも自分が男だって言ってないです。だからクビにはならないと思うんですけど」

「うん。そうだね。大丈夫。解雇はしないよ。それで、どうして男の子のフリしてるの?私たちは男の子でも女の子でもよかったのに」


 男装してるリアム様にそんな事を聞かれるとは思わなかった。


「俺は顔も体もガッチリで男っぽいです。スカートとか穿いたら女装した男にしか見えないじゃないですか。だから変に思われない男の服を着てるんです!」


 ちょっとキツめの言い方になってしまった。だってリアム様とは違う。リアム様はスカートを着ても似合ってしまうだろう。だから俺の気持ちがわからないんだ。


「そういう事。だったら今日皆んなに話そう。メルギア、君は女の子だよ。私の侍女に任せて。君を素敵な女の子にしてあげる。皆を驚かそう。君の部屋も女性部屋にするからね」

「リアム様」

「そんな泣きそうな顔しない。安心して」


  にっこりとリアム様に微笑えまれ、俺は頷くしかなかった。


 お昼過ぎ、俺は皆んなの前で自分が女である事を告白する事に。

 その前にリアム様の侍女に捕まって、色々顔と体を捏ねくり回された。そしてメイドの制服を着せられる。


「え?」


  鏡を見て驚いた。健康的で元気そうなメイドが俺を見ていた。

 口を歪めるとそのメイドも同じように笑う。


「お、俺なんですか?」

「そうよ」

「はいはい。メルギアちゃん、俺じゃなくて私ね。今日から私と女の子しましょ」

「あんたはもう女の子じゃないけどね」

「ひどい。アリッサ!」


 キャロルさんとアリッサさんはリアム様の侍女で、今日、俺を女の子にしてくれた人達だ。

 二人とも優しくて面白い。


「さあ、メルギアちゃん。行きましょう」

「本当は違う服を着せたかっただけど、やっかみとありそうだからね」

「うんうん。アリッサ。あなたの判断は正しいと思うわ」


 やっかみ?

 そうだよな。仕事しなくててこんな事してもらって


「あら、メルギアちゃんは気にしなくていいのよ。意地悪されたら教えてね」

「そう。このキャロルさんが二倍にして返すから」

「アリッサ。それじゃ私が怖い人みたいじゃない。酷いわ」

「私は頼りになるからと思って言ってるのよ」


 ほほほと笑うアリッサさん、頬を膨らませるキャロルさん。

 頼りがいのある二人に連れられて、俺は皆んなが待っている使用人の控室へ足を踏み入れた。






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