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男装したら美少年。
女は可愛いとチヤホヤし、男はその中性的な魅力に惑わされ、道を外してもしまう輩もいる。
それが男装、男装麗人。
だが、俺の男装は違う。
俺は男みたいだが、小さいながらおっぱいもあって、アレもない。肉体的には女だ。
だがスカートを履けば女装だ、変態だと思われてしまう。
なので仕方なく男装するのだが、女も騒がないし、男も惑わされたりしない。
女には口の悪い少年だと、男には生意気な小僧だと思われている。
そんな男装の凡人、俺の名をメルギアという。
兄が一人いて、兄の服を小さい時から着せられていたら、いつの間にか男だと思われるようになった。少し成長して、お母さんの服を仕立て直してきてみたら、女装かと揶揄われた。
悔しくて、恥ずかしくて、それ以来女の服は着ていない。
今、俺はまだ十四歳で同じ年でも結婚しているやつはいない。
だけど、村では十六歳から大概の奴らが結婚していく。男で独り身の奴がたまにいるけど、女ではいない。家族は今から心配しているみたいで、俺を女らしく飾り付け、女であることを村の奴らに宣伝しようとしている。だが俺は嫌だ。
だから、村を出ることにした。
村には独身の女はいない。
だが、外に出ればいるのではないか?もしかして、俺を女だとわかって、好きになってくれる、いや、いないな。
期待しない。
村の外は広い。女一人でも、結婚しなくても生きていけるかもしれない。
そんな期待を持って、街に出てきた。街には仕事を斡旋する場所があって、俺はそこで、ある貴族の家、ハシュワード家の調理見習いの仕事を紹介してもらった。
村で唯一文字が書ける長から、推薦状をもらっていて、それが決め手になって俺は採用されたようだ。
街にきてから二日で仕事を見つけた俺はとても幸運だ。
しかも住み込み。
斡旋所の職員が書いてくれて地図を頼りに歩いていると、ぼんやりしていたみたいで、悪人面の男にぶつかってしまった。
「すみません!」
「ああん?謝ってすむと思っているのか?」
虫の居所が悪かったらしい。
俺にぶつかってきたのはそっちなのに。
文句をいったらもっと酷い目に遭いそう、逃げようとしたら、さっと現れた人がいた。
「君がぶつかっていったように見えたのだが?」
声は男性にしては少し高め。
背は男性にしては少し低め。
顔は女性的。だけど服装は男性のもの。身なりからして貴族様のようだ。
「こ、これはリアム様!し、失礼いたしました!」
悪人面の男は飛び上がるように驚いた後、逃げてしまった。
「あ、あのありがとうございます」
「礼を言われるようなことは何もしてないよ」
助けてくれた人はにこりを微笑む。
それはとても可憐で、胸がどきどきした。
ときめきってヤツだ。
目の前の美しい人は、俺のような男装と違って、完璧だった。
これが世に言う男装の麗人っていう人なんだろうな。
村の奴らは俺を含め文字を読めない。だから本なんて読めなかったが、御伽話は親から聞かされた。街で流行っている物語なども、時折村を訪れる商人から教えてもらう。
その中で一番好きな話が男装麗人の話だった。
王子を守る護衛騎士は実は女で、性別を偽って、騎士として生きていた。ある日、王子が襲われ、庇った男装騎士は怪我を負ってしまう。それで性別がバレてしまうのだ。だけど王子がその騎士を自分の妃にすることでその場を治める。
実は性別がわかる前から王子は男装騎士への気持ちを持て余していた。そこにきて、女だとわかり、王子は大喜びで結婚を申し込んだということだ。
男装騎士は、女から持て囃され、王子のように同性という壁がありながらも懸想する男が多かったようだ。
綺麗だからな。
俺みたいに、男装しても男にしかみえない。美しくないヤツには無縁の話だ。
だけど、憧れてしまう。
「メルギア?」
「あ、すみません!」
俺は案内を買って出てくれたリアム様に謝る。
助けてくれた男装麗人はリアム・ハッシュワード様。
俺が働くことになったお屋敷の次期当主だった。
当主は男が主になる。だから、この方はきっと性別を偽って育てられらたのだろう。
本当はドレスとか着たいだろうに。可哀想。
ドレス姿、とても綺麗だろうな。
「メルギア、聞いている?」
「あ、聞いてません!すみません」
色々考え込んでしまって、リアム様の話を聞いてなかった。なんて失礼な態度をとってしまったんだろう。
「いいよ。そんなに恐縮しなくても。我が家の新しい調理見習いの子なんだね。うちの料理長は厳しいけど、本当は優しい人なんだ。だから頑張ってね」
「は、はい!」
俺が誰かのお嫁さんになるなんてあり得ない。
だから、ここで働いて、立派な調理人になるんだ。そうすれば一人でも生きていける。ちゃんと働けば追い出されるもないだろうし。
母さんの手伝いで料理もしていたから、得意なほうだし。
さて、頑張るぞ。
「ああ、ついたよ」
リアム様の言葉で俺は足を止め、目の前の大きな屋敷を仰ぎ見る。
えっと、お城ですか?
俺が今日から勤めるお屋敷は、お城みたいに立派だった。