藤色のおふだ 大和ふみか二十歳の秋
大和ふみかは、すさまじく後悔した。こんな物を拾わなければ、地味につましく大学生活を送れたのに。担任が落とした三枚の札は、私を呪うためにあったのだ。
「お札事件を解決したんは、ふみちゃんやって? 文月のハバネロ事件といい、ふみちゃんは名探偵さんやねぇ」
ふみかの数少ない友人、本居夕陽がほんわかと誉めた。長月某日、午後一番の講義が行われる教室でご飯をいただきながら、とりとめのない話をしていたところだった。
「どうして広まるのかな……私は推理したくてやっているわけじゃないんですけど」
ふみか達の担任、安達太良まゆみが講義を終えて教室を出た際に、藤色の短冊みたいな物を落とした。三枚あり、それぞれ「山」「川」「火」と流麗な筆で書いてあった。
「拾って届けに走ったら、安達太良先生が、このおふだが示す場所を当ててみぃ、て仰ったんやろぉ」
「そうですよ。よりにもよって人混みの中でね。好奇の目がもうつらい。恥ずかしいってばありゃしない」
単純に、山に登り川辺で火を焚く……キャンプ場かと言ったら、両手を交差して「はずれ!」と返された。
「山、川、火て、まるで『さんまいのおふだ』のようやね。お札の効果は諸説あるけれど」
「さすが物知り女王だね。でも、関係なかったんだよなあ。あれこれ考えすぎたのがばかばかしいくらい」
「川」の札に、しみがついていた。黄ばんだ油? 食べながら書いたのか。上品な先生にあるまじき汚れだった。「山」には、米粒。だいぶ時間が経っていて、こびりついている。「火」には唐辛子の粉がかかっていた。
「食べこぼしがヒントなんやな。飲食店やろか……学外やったらえらい選択肢広がるで」
「かなり答えに近いよ、夕陽ちゃん。いや、事件なんかじゃなかったんだ。あんまり期待させたくないから、結論ね。学生食堂だよ」
夕陽は両手で口を押さえた。
「あらま、ふみちゃんは、なんで分かったん?」
水筒のお茶でのどを湿らせて、ふみかは答えた。
「食べこぼしの正体は、先生の好きなカレーだったんだよ。ほら、食堂でしょっちゅう頼んでいるでしょ。しみから独特なにおいがしたの。それと、文字の意味。『山』は青垣山盛り、『川』は佐保川級ルー増量、『火』は飛火野スパイス強化を指していたんだ」
「そうやったんや! 全部、安達太良先生のためにできたオプションやわ」
見事正解したふみかは、担任と同じカレーを食すこととなり、生来の負けず嫌いにより完食したのだった。
あとがき(めいたもの)
改めまして、八十島そらです。
カレーライスを飽きるほどいただきたい夢を抱いております。某電気街のマドラスカレー店の辛口看板娘様に認めてもらうのです。
まゆみ先生の容姿は、惜しくも自ら命を絶たれた女優さんをイメージしているのです。昼食のクイーンや、苺の夜(初代)で主演を務め、塩ラーメンの宣伝にて母親役をされていました。あの人の笑顔は、まさに傾城でした。