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かわいさに悶える

 レイヴィスは一体何をしたのか。


 先ほどの現象は、彼の持つ魔力属性によるものなのは確かだろう。

 ものすごーく気になるのだけれど、青ざめて俯いてしまった彼の姿から、話したくないということは明白だ。


 どうしようか。見てしまった以上、聞いて良い気がするし、これ以上詮索しない方がいい気もする。


 正直言うと、気になりすぎて今夜眠れないんじゃないかなってくらい気になる。


(え……どうしたらいい? めっちゃ気になるんだけど)


 などと考えながら、しばらくレイヴィスを見つめる。

 すると、気まずそうな顔でちらりとこちらを伺うレイヴィスと目があった。



 じーーーっ。


 無言で見つめていると、レイヴィスの顔が少し赤くなった。

 しまった、圧をかけてしまったようだ。


 私は謝罪の言葉を口にしようとしたが、その前に、レイヴィスが先に口を開いた。



「……吸い込んだんだ」


 彼は消え入りそうな声で言った。


「吸い込んだ? 手の中にですか?」

「手の中と言うか、俺の体の中に……」

「体の中……」


 火焔弾がレイヴィスの体の中に入っていく想像をする。

 さっきの火焔弾がレイヴィスの体の中に入っている……


 それって、つまり……


「体の中燃えちゃっていますね!? すぐに癒さないと!」


 大変だ。

 全然痛そうには見えないけれど、この子は弱音を吐いたことが無いから、物凄く我慢をしているのだろう。


 慌てた私はレイヴィスのお腹に手をあてた。

 勢い余って押し倒してしまったけれど、気にしている場合ではない。


 (とにかく早く癒さないと!)


 そうして癒しの光を注ごうとした私は、押しやられるようにレイヴィスに両肩を掴まれた。


「ちょっ、待って! 大丈夫、燃えていないから大丈夫だよ! 奪っただけだから。俺は他者の魔法を奪えるんだよ!」


 大きな声で矢継ぎ早に言い終えると、レイヴィスはしまった、と言う顔で固まった。



「他者の魔法を……奪う?」


 瞬時に理解できなかった私が首を傾げて呟くと、レイヴィスはまた俯いてしまった。


 奪う……

 奪うってことは、人から魔法を奪い取って、自分の物にするということかな。

 さっきの火焔弾によるダメージが無いのは、そういうことだろう。


 何それ。そんなことができるなんて────



「レイヴィス! あなたすごいじゃないの!!」

「えっ?」


 興奮して声をあげると、レイヴィスはびくっとなり、顔をこちらに向けた。

 そして至近距離に私の顔が迫っている事に驚いたようで狼狽えている。

 だがしかし、そんなことに構っている場合ではない。


「どんな魔法でも?? どんな魔法でも吸い込めますか?」

「えっ? あ、うん。多分」


 私はドキドキが止まらない。手のひらに聖なる光を出した。


「ねぇっ、これは? これも吸い込めますか?」

「えっ……うん、できると思うけど」


 レイヴィスはそう言って、私の手のひらに自身の手をかざす。

 光は彼の手に吸い込まれていった。


 私は感動してため息が漏れた。


「凄い……こんなの見たことがない。どうしてこんなに凄い能力なのに隠すのですか?」


「どうしてって、嫌悪感はないの? 他人の力を奪うんだよ」


 ……嫌悪感?

 どうしてそんなものを抱かなくてはならないのか理解ができない。

 ただひたすらに、凄いとしか思えないのだけれど。


「その人が持つ能力そのものを全て奪うのですか? それとも放出したものだけですか?」

「放出したものだけだけど……」

「それならどうして嫌悪感を抱かなくちゃならないのか分かりません。ねえ、皆さん」


 私とレイヴィスを囲むように集まっていた騎士達に尋ねた。


「おう、俺の出した火炎弾を吸い込まれてびっくりしたけど、別に嫌悪感はねえぞ。むしろ怪我させちまわなくて安心したぞ」

「オマエすっげぇなぁ!」

「オレ、そんな力初めてみたぞ。なぁ、オレの風も吸い込めるのか?」

「俺の水は?」

「土魔法はどうなるんだ?」


 レイヴィスは興奮気味の騎士達にもみくちゃにされだした。

 気持ちはとてもよく分かるが、自分達の体格と力強さを考えてほしい。


「はいはい、皆さん離れてください。レイヴィスが潰れちゃっていますよ」


 両手をパチンと鳴らして騎士達を散らし、鍛練へと戻ってもらう。

 レイヴィスと向き合い、再び二人で話を続けた。


「ねぇ、レイヴィス。あなたの力は本当に凄いです。自信を持って使ってください」

「でも……」

「でもじゃありません。私なんて攻撃系の力が欲しかったのに、よりにもよって癒しの力ですよ?」

「君の力は人のためになる。俺のとは違うよ」

「一緒ですよ。もしあなたの近くにいる人が魔法で攻撃されたとしても、あなたは手を差し出すだけで助けられる。それって凄くて素敵な事です。だからもう、卑屈になってはダメ。分かりましたか?」


 私の言葉を俯きがちに聞きながら、レイヴィスはまだ肩を竦めている。


「だって……穢らわしい力だって……」


 弱々しい声で、小さく呟いた。


「穢らわしい? 誰かに言われたのですか? ちょっとその人、殴りにいきましょうか?」

「え、いや、それはいいよ」

「そうですか。とにかく、あなたの力は素敵なものです。自信を持ってください。分かりましたか?」


 レイヴィスの両肩を掴み、真っ直ぐ顔を覗きこむ。

 彼は少し怯んだ様子だけれど、お構い無しに、目をそらさずに見つめ続ける。

 卑屈にならずに自分の持つ力を受け入れて欲しい。そんな気持ちを込めて。


 さぁ、その素晴らしい力を受け入れるんだレイヴィスよ。


 じーーーっと見つめ続けてしばらくすると、彼は観念したように目尻を下げ、口角を少し上げた。


 ふーっと息をひとつ吐くと、穏やかな表情で口を開く。


「わかった」


 レイヴィスの目に光が戻った。

 良かった、もう大丈夫かな。

 彼の憂いは晴れたようだと安心して立ち上がり、腰に手を当てた。


「よろしい。それじゃ、鍛練の続きといきましょう」

「うん!」



 一時間ほど筋力トレーニングをして、素振りをして、今日のところはこれで終了とした。


 

 邸内に戻り、シャワーを浴びて着替えてから、レイヴィスと待ち合わせをしている騎士寮の談話室へと向かった。


 そこで彼の持つ能力を詳しく聞いた。

 レイヴィスは他者の放った魔法や魔力そのものを体の中に吸い込めるらしい。

 吸い込んだ魔法は、なんと自由自在に使えるそうだ。

 なにそれ、それこそ最強では。


「本当にすごい……正直うらやましいです」

「そんな風に言ってもらえるなんて、思ってもみなかったよ」

「それなら、私の癒しの光を多めに注いだら、しばらくは瘴気を自分で外に出すことができるのでしょうか? もしかしたら、そもそも溜まらなくなるかもですね」


 体の中に癒しの光があれば、瘴気が入ってきても自動的に浄化されそうな気がする。


「そっか、それなら毎日リアーナの手を煩わさなくてよくなるかな」

「いえ、別に煩わしくなんてないですからね」

 

 面倒ぐさがりだと思われては心外だ。

 それにしても、本当に凄い。攻撃魔法も癒しの魔法も使えたら敵なしだよ。


 (格好いい力だな……他の特殊属性も吸い込めるのかな……)


 いろいろ考えていると、ふと、あることに思い至った。


「ねぇ、あなたの瘴気を溜め込んでしまう体質って、その能力のせいだったりしませんか」

「え?」

「魔法を吸い込むなら、瘴気を吸い込んだっておかしくないでしょう。瘴気は自分の意思で外に出せずに、どんどんと溜まり続けてしまう、とか」


 私がそう言うと、レイヴィスはハッとした顔になった。


「本当だね。そんなこと考えたこともなかったけど、そうかもしれない」

「もし、自分の意思で体の外に出せるようになったら、もうその体質に苦しまなくてよくなりますよね」

「そっか……うん、そうだね」 

「あなたの魔力操作のトレーニングでの目標ができましたね」


 にっこり笑ってそう言うと、レイヴィスは瞳を輝かせ、両手に握りこぶしを作った。


「うんっ!」


 明るい声で力強く返事をした彼は、満面の笑みを向けてくれた。



「っっかっっ……!」


(かわいいっ! かっわいい!!)


 笑った。 レイヴィスが笑ったよ。

 出会ってから初めて笑顔を見せてくれた。

 なにこれ、すっごくかわいいんだけど。破壊力がすごい。

 

「リアーナ?」


 ぷるぷるしながら耐えていると、レイヴィスは不思議そうに首を傾げて見てきた。

 可愛さが数倍に膨れ上がる完璧な角度だ。


 何だこのかわいい生き物は。


 日を追うごとにかわいさの破壊力を増していくこの少年に、胸がきゅっとなってしまった。


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