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鍛えましょう

 教会の人間をたっぷり絞め上げてから帰宅した。


 父の執務室に向かって、今日のことを話す。


「なるほど、それならここで過ごすのが一番だろうな。いいぞ。騎士見習いはやる気と根性さえあれば、来るもの拒まずだからな」

「ありがとうございます!」


 良かった。

 勢いで勝手に決めてしまったから、これでダメだと言われてしまったら終わっていた。

 父の了承も得たので、騎士団長にもすぐに話をしに行った。


 あとはレイヴィスが決心して来るのを待つだけだ。

 ……来ないかもしれないけど。その時はまた考えたらいいだろう。




 そんなことを思っていたが、翌日にはレイヴィスと妹のマリーちゃんが辺境伯家を訪ねてきた。

 早々に決意が固まったようで良かった。



「今日からよろしくお願いいたします」


 レイヴィスは父に深く頭を下げた。

 隣で見ていたマリーちゃんも、兄の真似をしてぺこりと頭を下げた。


(かっ、可愛い! 可愛すぎる!)


  あまりの愛らしさに抱きしめたくなるが、今は我慢する。


「リアーナから話は聞いたぞ、大変だったな。ここの連中は気のいい奴らばかりだから、困ったことがあったら遠慮なく言うといい。もちろん一生懸命働いてもらうがな」

「はい! 精一杯がんばります!」


 レイヴィスは背筋をピンと伸ばす。

 タンザナイトのように綺麗な青紫色の瞳には熱意がこもっている。やる気満々のようだ。


 彼らはメイドのミリアに寮へと案内されて行った。


 私は騎士団の鍛練場へと向かい、騎士達と共に鍛練に励む。

 筋力トレーニングや素振りをしていると、私と同じ紺色の騎士見習い服に着替えたレイヴィスがさっそくやってきた。


「はじめまして。レイヴィスといいます。本日より騎士見習いとなりました。よろしくお願いいたします」


 ハキハキと礼儀正しく挨拶するレイヴィスに、騎士達が寄ってきた。


「おう、よく来たなボウズ、よろしくな」

「みっちり鍛えてやるから覚悟してろよ」

「さっそく手合わせするか?」

「とりあえず外周100周からじゃねぇか?」


 屈強な騎士達が次々と口にする。

 どう見てもひ弱そうな少年にかける言葉ではないと呆れる。

 

「やめてください。初日から潰すつもりですか。ある程度の体力が付くまでは私が見ますから」


 彼らに任せてしまったら何をさせるかわからない。加減というものを知らない人達だから。

 今まで何人の騎士見習いが辞めていったことかと、遠い目になる。

 

「さぁレイヴィス、準備運動をしたら一緒に走りますよ」

「はいっ!」


 手始めに、軽く走ることにする。

 こうして、新たに騎士見習いとなったレイヴィスの騎士団生活が始まった。




 …………のだけれど。





「えー……」



 走り始めて十分足らず。

 レイヴィスはゼエゼエと息絶え絶えで、今にも倒れてしまいそうに見える。

 まさかこんなに早くバテるとは思いもしなかった。


 いや、今まで送ってきた生活を思えば、十分も走れて上出来なのかもしれない。


(悪かったな……)


 無理をさせてしまったことを反省し、一旦休憩することにした。


「…………はあっはあっ、すみま……せん……はあっ、俺、体力無さすぎ、ますよね……」


 休憩だと言った次の瞬間には、レイヴィスは地面に倒れこんだ。

 本当に限界だったようで申し訳ない。


「仕方のないことです。無理しすぎず、確実に体力を付けていきましょうね」

「……はい」


 彼の呼吸が落ち着いてきたところで、ちょっとした疑問を尋ねた。


「ところで、どうしてそんなに丁寧な口調なのですか? 昨日は普通に話していたのに」

「それは、だってあなたは貴族のご令嬢ですから。そうとは知らず、昨日は失礼しました」


 ああ、そうか。彼が私のことを知ったのは、昨日の帰り際だった。

 その後は言いたいことだけ言って、さっさと帰ったし。


「気にせずに普通に話してもらえますか」

「いや、でも……あなたこそ丁寧な口調ですよね」


 そう言われても、それは仕方ない。

 私は思ったままをそのまま口にしてしまったら、貴族の娘らしくなさすぎるから。

 だからせめて、丁寧に話すように心がけている。


 性格が悪いのは自覚しているし、それはどうしようもない。


「私はこれが通常なのでいいのですよ」

「でも」

「しつこいです」

「……」


 レイヴィスは少し困り顔になった。けれど、すぐに諦めたようだ。


「えっと、分かったよ」

「いい返事です。さぁ、立てますか? 少し歩きましょう」

「うん」

 

 あと十五分ほど歩いたり、たまにゆっくりと走ったりしてから鍛練場へと戻ってきた。


 体力を使うトレーニングは少しずつした方が良さそうなので、休憩してからは魔力操作のトレーニングをしよう。



「レイヴィス、あなたの魔力の属性は何ですか?」


 私がそう尋ねると、彼の表情は明らかに曇った。


「えっと、言わないとダメだよね」


 言いたくないようだ。

 自身の属性をよく思っていないのだろう。ということは、四大属性以外の特殊属性なのだろう、多分。


「言いたくないのなら無理にとは言いませんが。魔力操作のトレーニングはできないですね。まぁ仕方がないのでいいです」

「え? いいの?」

「いいですよ。騎士達と連携をとって模擬試合をするようになったら、さすがに言ってもらわないと困りますけど。そんなのまだまだ先の話ですし」

「そっか……」


 レイヴィスはホッとしたような顔になる。


 魔力操作のトレーニングの代わりに、軽めの筋力トレーニングをすることにし、様子を見ながら休憩を何度かはさんでいった。


 一時間ほどして、今日のところはこれで終わりとした。まだ初日なので、無理をさせてはいけない。





  * * *





 次の日も、鍛練場でレイヴィスに付き添った。


「レイヴィス、手を出してください」

「……? こう?」


 前に差し出された彼の右手を両手で覆い、魔力を流していく。


 レイヴィスの体の内部を癒しの光で満たして癒すように、全体に満遍なく行き渡らせた。

 少ししてから、彼の体から黒い靄がうっすらと出てきた。


「なるほど。一日経つともう、少し溜まるのですね。できるだけ毎日こうやって外に出しましょう。体が少しでも楽になるなら、その方がいいに決まっていますから」

「うん、ありがとう」

「それでは今日も少し走りましょうか。行きますよ」

「うんっ!」


 昨日よりも遅いペースで走る。

 彼の様子を見ながら慎重に。今日は軽く走ったり歩いたりしてから、その後は筋力トレーニングだ。


 人を鍛えるのって何だか楽しいな。



 ***



 レイヴィスは体力が無いながらも、必死に鍛練を続けている。

 弱音は一切はかない。一生懸命しているのが分かるので、やりがいがあった。

  日を追うごとに徐々に時間を伸ばしていき、彼の体力もどんどんついていった。



 三週間経った頃には、すっかり健康的な顔色になり、目の下の隈も頬のこけも完全に消えた。

 痛んでいた金色の髪は、輝きを取り戻していた。


 そう、彼はとてつもない美少年へと変わったのだ。

 元々整った顔だちだと思っていたけれど、想像を遥かに超える変貌ぶり。

 私は動揺している。


 正直言って、すっごく可愛い。可愛すぎる。

 可愛いものが好きな私にはたまらない。


 レイヴィスとマリーちゃんの兄妹が揃うと、身悶えてしまう。


 さすがにレイヴィスを抱きしめるわけにはいかないので、我慢はしている。

 もちろんマリーちゃんは抱きしめるけれど。



 あと一ヶ月程すれば、たまになら騎士たちにトレーニングを任せてもいいかもしれない。

 そう、たまにだ。

 潰されないように慎重にしなければいけない。脳筋どもを信用してはいけない。


 (今日のトレーニングは何にしようかなぁ)


 ストレッチをしながら考えていると、近くで魔法のぶつけ合いをしていた騎士が声を発した。



「危ないっ!!」



 顔を上げた時にはすでに、火炎弾がレイヴィスに当たろうとしていた。


「レイ────ッ!」



 だめだ、間に合わない。


 そう思った瞬間、レイヴィスは自身の右手を火炎弾に向かって差し出した。


 右手に当たった瞬間、火炎弾は消滅した。

 消滅したというより、手のひらに吸い込まれたようにも見えた。




「…………え? 今あなた何をしたのですか?」



 私の質問に答えることなく、レイヴィスの顔は青ざめていった。



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