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叩き潰そう

 二回戦は一撃で相手を気絶させることができた。


 三回戦は攻撃を寸止めし、殺気と共にお願いしてみると降参してくれた。

 傷付けずに済んでホッとする。


 そして四回戦。

 相手は、始まる前からひたすらずっと睨んでくる。

 感じの悪いグループの一人だ。


 この人もなかなかやる気満々のようで、開始の合図と共に勢いよく向かってきた。

 勢いよく剣を振り回し、火炎弾を沢山放ってくる。


 もちろん攻撃は全てひらりひらりとかわしていく。


 辺境伯家の騎士のように広範囲の魔法攻撃ではない。

 速さもなく、余裕で全て躱せた。


「っっくそっ、くそがっ!」


 この人も口が悪いな。


 いい感じにイライラさせ、満足したところで、ふとあることを思いついた。


 両手で上に構え、思いきり振り下ろされた剣。

 すかさず私の剣でくるりと絡め取り、彼女の手から剣を奪った。


 奪った剣を肩に担ぎ、自身の剣の切っ先を向けて問う。


「まだやりますか?」

「…………降参だ」


 やった。また攻撃することなく終われた。

 初めからこうやって相手の武器を奪えばよかったよ。


 決勝戦を前にして気づいたのだった。






  * *







 剣術大会決勝戦。

 私の相手は、感じの悪いグループのリーダー的な存在と思われる。


 対戦場の真ん中で向かい合って立つ。

 他の人達に比べてずいぶん背が高く、更に体格がいい。


 蔑むような目で私を見たかと思えば、フッと鼻で笑われた。

 馬鹿にしたような態度にイラッとなる。


 人一倍努力して鍛えたのだろうから、それは尊敬に値するけど、態度が悪すぎる。


 それはさておき、この人は本当に同年代なのだろうか。すごく年上に見える。


「あの、あなたおいくつですか?」

「アァ? 十四歳だよ」

「わぁ! とても大人っぽいですね」


 まさかの年下だったよ。

 凄いなぁ。どれだけ努力したのだろうか。


「ふん、オマエちょっとはやるようだけど、そんな細腕の攻撃はアタシには効かないからな」

「ほそ……うで?」

「そんな弱っちい身体では、強化魔法の使い手であるアタシには傷ひとつ付けられやしないよ!」

「…………え?」

「ハハッ! ビビって満足に言い返せもしないか」



 ……強化魔法?

 つまりは、その立派な筋肉は強化魔法の賜物。

 さほど努力せずとも、手に入れられたということだ。


 何だよそれ。

 こっちの努力も知らないくせに。



「それでは、やりましょうか」


 叩き潰そう。手加減は必要なさそうだ。




 


  * *






 あ、リアーナが切れた。


 彼女を纏う空気が一瞬にして変わった。

 きっと、細いとか弱そうとか言われたんだろうな。相手の人はすごく体格がいいし。


「彼女、怒ってる?」

「ぞくぞくしますわね、ふふっ」


 隣にいる殿下とローズマリー様は、リアーナが殺気を放った瞬間、笑顔になった。

 対戦を心からを楽しんでいるようだ。


「そうですね。おそらく気に障ることを言われたのだと思います」

「あら、それならやっと本気が見られるのかしら、ふふっ」


 ローズマリー様はすごく嬉しそうだ。

 リアーナがこの大会に出場するように仕向けた張本人だもんな。



 リアーナは身を低くして剣を構えた。

 攻めのスタイルで行く気だ。本当に遠慮は捨てたみたい。


 開始の合図と共にリアーナは攻めていく。

 圧倒的に早く、それでいて流れるような剣さばき。


 相手は為す術もなく、何度も打たれ、地面に倒れる。

 その間、一切の反撃も許さない。


 相手はどれだけ攻撃を受けてもすぐに立ち上がる。

 きっと強化魔法の使い手だろう。リアーナが切れるわけだ。


 圧倒的過ぎる戦いぶりに、ローズマリー様は目を輝かせて見入っている。



「素敵……欲しいわ……」


 彼女の口から思わず漏れた小さな呟きを、俺は聞き逃さなかった。


『欲しい』か。

 やっぱりそういうことなんだな……






  * *






 試合開始直前。目の前の女からふんわりとした雰囲気が消えた。

 突き刺さるような殺気に、身体が一瞬硬直する。


 ムカつく程に整った顔から表情が消えていた。


 その薄紫色の瞳はアタシを見据える。

 これは獲物を狩ろうとする捕食者の目だ。


 食われてたまるか。

 大して鍛えてもいない柔らかそうな身体で何ができる。

 力の差を思い知らせてやる。


 始まりの合図と共に強化魔法を体全体に行き渡らせた。

 先制攻撃で仕留めてやる。


 そう思っていたのに。


 次の瞬間には間合いを詰められ、刃が放たれていた。


(っっはっや! 早すぎるだろっ!)


 為す術もなく打たれ、地面に叩きつけられた。

 太刀筋を全く追えなかった。


 でもいくら早かろうが、ダメージにならなければ意味はない。私の強化魔法の敵ではない。

 コイツに一撃でも当てられたら私の勝ちだ。


 それなのに、打ち込む隙ができない。


 (クソっ……クソがっっ!)


 何度地面に叩きつけられただろう。


 じわじわダメージが蓄積されていく。

 強化魔法にも限界はある。いつまでもかけ続けていられるわけではない。

 早くコイツを仕留めないと。




「…………何だ?」


 急に女の攻撃がピタリと止んだ。

 間合いを取り直し、立ち止まってこちらを窺っている。

 攻撃してこい。そう言っているようだ。


 ────舐めやがって。 お望み通りくらわせてやる!


 渾身の一撃を打ち込んだ。

 女が前に構えていた剣に確かに打ち込み、二人の剣は重なった。


 力では負けるはずがない。負けるはずがないのに。


 目の前の女は高く剣を振り上げ、アタシの手からは剣が消えた。

 遠くへ弾き飛ばされ、アタシは武器を失った。


(……ここまでか)


 次の攻撃を覚悟していると、女は再び間合いを取り、なぜか木剣を後ろにポイっと投げた。


「ハァッ!?」


 何してんだコイツ。どうして武器を捨てた!?


 わけが分からずじっとしていると、女は右手を前に出し、手のひらを上に向けた。

 そして、くいくいっと手招きをする。


「ッ、このやろっ!! 舐めるなよ!!」


 挑発されるがまま、拳を握りしめて顔面に殴りかかった。

 全力を込めた一撃だ。


 しかしそのムカつく程に美しい顔に拳は届くことはなく、いつの間にか地面に顔面から打ち付けられていた。


 …………素手でも敵わないのかよ。


 完全に心が折れた。

 もうこれ以上は意味がない。そう思い知らされた。



「……降参だ」



 起き上がって負けを認めると、ピリピリと張りつめていた空気がなくなる。

 無表情だった女の表情が和らいだ。


「ありがとうございました」


 そう言って、ふんわりと笑う。

 先程まで全身から殺気を放ち、アタシを狩ろうとしていた女は、柔らかなとした空気を纏うただの可憐な少女に戻った。


 その瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる感覚を覚えた。

 鼓動が早くなる。


 何だよコイツ。

 さっきまでと雰囲気が違いすぎるだろ。ムカつくな。


 何だよ、そんな柔らかそうな体のくせに、デタラメな強さしやがって。

 アタシみたいに強化魔法を使えないくせに、どうやったらあれだけ強くなれるんだよ。


 一切の隙もない流れるような動き。

 思わず見入ってしまった。美しいと思ってしまった。

 ムカつく。ムカつくはずなのに、抗えない感情が沸き上がってくる。



 待機エリアへと戻ると、女は再び声をかけてきた。


「あの、怪我はしていないように見受けられますが、念のため、癒してもよろしいでしょうか?」

「アァン? そんなの必要ねぇよ」


 本当は体のあちこちが痛いんだけどな。

 こんなに痛いのは久しぶりだけど、意地でも救護室には行きたくない。


「まぁそう言わず。すぐ済みますから」

「ッッ、オイっ」


 勝手にアタシの右手を掴んだかと思うと、すぐに体が温かいものに包まれた。


(……何だコレ。スッゲー気持ちイイ)


 あっという間に体の痛みが消えると、女は満足気に笑った。


「これでよしと。では、お疲れさまでした」


 そう言って去っていく後ろ姿がなぜか名残惜しくて。

 右手に残った温もりが消えないように、そっと左手で包みこんだ。



「…………クッソ。勝手なことしやがって」



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