一網打尽
流血、残酷描写有り。
次の日、鍛錬場にて。
リアーナとダグラスさんに事の経緯を話した。
そして、放課後は殿下の執務を手伝いながら襲撃を待つこと。
警戒されてはいけないから、リアーナとダグラスさんは手を出さないでほしいことを伝える。
昨日で一年生の前期が終了し、今日から五日間休みだ。
殿下の立太子の儀まであと十五日。
休み明けすぐに襲って来てくれるとありがたいな。
面倒なことはさっさと終わらせたい。
「事情は分かりました……すごく心配ですが、レイなら大丈夫だと信じています。休みの間は私の光をたっぷりと渡しておきますね」
そう言って、リアーナは俺の右手を両手で包み込み、癒しの光を流してくれた。
「ありがとう、リア」
「レイヴィス、万が一があってはいけないからな、俺の力も渡しておこう」
「えっ! 本当ですか!?」
まさかの申し出に驚く。ダグラスさんからも力を受け取れるだなんて。
そうして、さっそく左手に力を流してもらった。
ダグラスさんの硬化の力……!
うわぁ、すっごく嬉しい。どうしよう、早く使いたくてうずうずする。
「早く使いたいという顔だな。慣れない力をいきなり使う事は危険だ。ここで使って慣れるといい」
「ありがとうございます!」
ダグラスさんと硬化の力を存分に使いながら手合わせすることになった。
嬉しすぎる。
喜びを隠せずにいると、何やら考え込んでいたリアーナが、胸の前で両手をぱちんと合わせた。
「それでは休みの間、私は襲撃者になりきりますね! レイのことを襲うので覚悟してください」
「え?」
何それ、楽しそう。
リアーナに襲われるなんて、ただのご褒美では。
むしろ襲ってもらえるように待ち構えちゃうと思うんだけど。
……なんて期待したけど、普通に木剣で攻撃してくるだけのようだ。
当たり前か。
ダグラスさんと手合わせし、襲っているつもりのリアーナと木剣で打ち合いし、休憩する。
座って水分補給を済ませ、さぁ鍛錬の続きをしようと立ち上がった瞬間、背後からリアーナの拳が襲って来た。
振り向きながらさっと避け、怪我をさせないように腕を優しく掴むと、リアーナの顔が俺の胸にポスッと沈んだ。
そして睨んでいるつもりの上目遣いで俺を見上げる。
「こら! ちゃんとしなきゃダメでしょう。私が左手にナイフを持っていたら刺されていましたよ!」
そう言いながら、彼女は左手で俺の胸元を刺すような仕草をする。
「うん、そうだね」
「そうだね、じゃありません」
「分かった、気を付けるよ」
「……本当に気を付けてくださいね」
リアーナは刺す仕草をやめ、胸元にぴったり手を当ててきた。
ぞくぞくしてしまう。
何これ。やっぱりただのご褒美では?
* * *
一週間後の放課後。その日はやってきた。
胡散くさい爽やかな笑顔の男が殿下の護衛担当の日。
「疲れたから、少し気分転換しよう」
執務の合間、殿下が休憩したいと言いだし、護衛の男を含めた俺たち三人で外に出る。
のんびり歩き進め、学園の裏庭の奥までやって来た。
殿下は力を使い、護衛の男と俺の心が読める状態で様子を窺っている。
俺は音の魔力を使って、近くの茂みに隠れている人達の会話を盗み聞きしながら、襲撃に備える。
殿下からも魔力を受け取っているので、いつでも心の中で意志疎通できる状態にしている。
そしてその時はやって来た。
────来る。
瞬時に目の前に土の壁を作り出し、前方から放たれた火炎弾を防ぐ。
「ッ、なっ」
殿下と俺、左右同時で護衛に殴りかかった。
俺の拳は顎下へ、殿下の拳は腹部にあっけなく入り、彼は気を失って倒れた。
油断していたとはいえ、呆気なさすぎてちょっとびっくり。
これで前方の敵に集中できるからいいんだけど。
護衛から剣を拝借して、ここまでは手筈通りだ。
「それでは、ここからは俺一人で頑張りますので、大人しくしていてくださいね」
殿下の体を光の膜で包む。
強いとはいえ、彼には守られる立場でいてもらわないと。
「ああ、頼んだよ」
全身に硬化魔法を施す。
殿下には後ろにさがってもらい、敵が出てくるのを待つ。
すぐに地面が盛り上がり、足元を土魔法で拘束された。
俺、さっき土の壁を出したんだけど。
土魔法の使い手にこんなことしても意味がないと思わないのだろうか。
わざと拘束されたまま動かないで待つ。
前方から数人の男子生徒がやってきた。
剣を手に持ち、殺る気満々なようだ。
人数、外見の特徴を確認する。
事前に聞いていた通りの七人がちゃんと来てくれたようだ。
確認を終え、さっさと足元の拘束を外す。
剣を構え、一直線に彼らに向かって走る。
彼らは一瞬怯み、すぐに前に手をかざした。
「さすがに全員の攻撃は防げない、行くぞ!」
掛け声と共に、一斉に四人が襲いかかる。
この四人はパーティーでヒソヒソ話をしていた奴らだ。
放たれた火炎弾と風の刃に左手をかざし、ありがたくいただく。
魔法攻撃は全て、俺の手の中に誘導されて吸い込まれていった。
「は?」
「へっ?」
自分の放った魔法を吸い込まれ、ポカンとしている。
────ザンッッ
間抜け面を横目に、一切の躊躇いなく二人の両手首を切り落とした。
「っぁあぁあぁぁッッ!」
「ああっ……っっ、手っ……!!手がぁぁぁ!!」
頬に少し血がかかってしまった。
耳障りな声に顔をしかめてしまう。
「煩いな。彼女に触れようとした汚い手は必要ないから切り落としただけなのに」
ジュウウゥッ
鮮血が吹き出す切り口を火魔法で焼いて止血する。
周りに咲いているリアーナが好きな花や木が汚れたら困るから。
二人はそのまま気絶したようだ。静かになってよかった。
……あぁ、そうだ。おぞましいことを口走ったその口もいらないよね。削ぎ落とそうか。
でも、口がきけないと、自白させる時に困るのか。
それなら我慢しないと。
そんなことを考えていると、後ろから二人が剣を振り下ろしてきた。
「っっくっそ!!」
「死ねっ!」
余裕で避けられるが、せっかくだから硬化魔法を施した身体で受け止めた。
ガキンッッ
頭と背中に当たった剣は弾き返された。
パキンと折れて欲しかったけど、彼らの攻撃には折れる程の威力がない。
弾き返されて怯んだ二人も同じように手首を切り落とした。
だって必要ないから。
「うわあぁあぁァァ……!!」
「ヒッ……あぁっ、あぁぁぁぁぁ」
同じように切り口を焼いたけど、いつまでも耳障りな声を上げている。
煩いので剣の柄で頭を打って気絶させた。
「っっの野郎ッ!!」
残りの三人のうちの一人が斬りかかってきた。
意味のない水の玉での攻撃は左手で吸い込み、剣の攻撃は受け流す。
よろめいたところで、後頭部に蹴りを食らわせ気絶させた。
その隙をついて二人が殿下の方へ走って行く。
「行かせるわけないでしょ」
氷の刃を出し、二人の背中に投げつけた。
ドスドスッ
氷が刺さり、二人はそのまま顔面から倒れる。
そして動かなくなった。
とっさに放ってしまったから、深く刺さりすぎたかもしれない。死なれたら困るんだけど。
慌てて駆け寄り、二人の背中に癒しの光をあてた。
本当はこんな奴らにこの力を使いたくはないけど、仕方ない。
「━━っっ、ごほっげほっ」
「かはっ、っっかはぁっ」
息をふき返したようでホッと息を吐く。さすがにちょっと焦った。
安心したところで、二人の頭を後ろから掴む。
地面にめり込ませて気絶させ、これで返り討ちは完了だ。
「……ふう、ちょっと疲れたな」
返り血で汚れた顔を袖で拭う。
相手を殺さずに無力化させるのは、こんなに疲れるんだ。
ダグラスさんの凄さを実感した。
数人を相手に剣でやりあったのは初めてだったけど、汚い手を切り落とすという目的は達成できた。
殿下の元に敵を寄せ付けなかったからよしとしよう。
(殺す事はちゃんと我慢できましたし、上出来ですよね!)
殿下の方に笑顔を向けて、心の中で話しかけた。
ひきつった笑顔を返されたけど、気にしない。





