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パーティーは少しだけ頑張る

 今日で一年生の前期が終わる。


 授業は午前中だけで、午後からは前期終了を記念するパーティーが三学年合同で開かれる。

 わざわざパーティーを開かなくていいと思うのだけれど、全員参加を義務づけられている。

 面倒でも出席しないといけない。


 面倒と言いつつも、実は楽しみにしていることもある。


 寮の自室へ戻ると、クローゼットを開いてドレスを取り出した。

 マダムモリスンに新しく作ってもらったものだ。

 色もデザインも全て丸投げにしたら、何とも大人っぽくて素敵なものに仕上げてくれた。


 変態なのに作る物は一流だから、辱しめを受けても文句を言えないのが困る。


 数着作ってくれたが、今日はその中で一番気に入ったドレスを着ることにした。

 青紫色のそのドレスは、まるでレイヴィスの瞳の色のよう。

 一目見て気に入り、着れる日を心待ちにしていた。


 恥ずかしい気持ちもあるけれど、あの時はレイヴィスも一緒にいたから、私自身が選んだ色ではないと知っているはず。


 寮の使用人に着付けを手伝ってもらい、髪のセットと化粧もしてもらう。

『これだけは塗らせて下さい!』と強くお願いされ、唇には艶々きらきらの淡いピンク色のグロスを塗られた。


 もっとベタッとするものだと思い敬遠していたけれど、そうでもなかった。

 さすが使用人のプロだ。


『どうかうなじを!』とよく分からないお願いをされ、髪は編み込んでふんわりと一纏めにしてくれた。


 基本的に私の世話や着付けは同じ人が担当してくれているのだが、この人は日が経つにつれて押しが強くなっている気がする。


 いつも素敵に仕上げてくれるので、全てお任せするようになった。



 準備を終えて、ダグラスと共にホールへ向かう。

 入口近くで待ち合わせをしていたレイヴィスの元へ行くと、彼は目を見開いた。


 やっぱり凄く恥ずかしくなってきた。


「リア、いつもかわいいけど、今日は大人っぽくてすごく綺麗だよ」

「えへへ。ありがとうございます。マダムのドレスのおかげですね。えっと、レイも凄く素敵です」

「ありがとう」


 いつになっても彼のストレートな言動には慣れない。

 嬉しいけれど恥ずかしい。

 そして、こちらが褒める側になるのは更に照れるけれど、素敵だと言えて安心した。


 レイヴィスは今日は前髪をほんの少し前に垂らし、残りは後ろに撫で付けている。

 格好良さがはね上がり、色気もあってドキドキしちゃう。


 何とか気持ちを落ち着かせながら、会場内へ足を踏み入れた。


 やっぱり香水やいろんな匂いが混ざりあっていてすごく臭いけれど、今回はレイヴィスの力を借りなくても大丈夫そうだ。

 たまに誘われて行っていたお茶会で、少しずつ慣れてきていたようだ。


 今回もできるだけ目立たないようにしようと思っていたら、前から目立つ二人組が来た。

 一人はウィルフレッド殿下。そして隣にいる茶色の髪に水色の瞳の美人さんは、殿下の婚約者のメアリー様だ。


「やぁ!」

「ごきげんよう、オルコットさん、リアーナさん」


 殿下は右手をあげていつも通りの気さくな挨拶、メアリー様は赤いドレスをふわりと持ち上げてご挨拶してくれた。

 見惚れる程に美しい所作だ。


「こんにちは、殿下、メアリー様」

「こんにちは」


 私もドレスを持ち上げて挨拶する。


「ダグラス叔父様もごきげんよう」

「ああ」


 メアリー様はダグラスの姪である。


 同じ学園内にいても、二年生とは校舎が離れているため、あまり会う機会がない。

 メアリー様はローズマリー様とも仲がよく、『今度三人でゆっくりお話ししましょうね』と言ってくれた。


 挨拶を終えると二人は去っていった。

 後を追うように移動する人が多数いるので、今から交流を深めようと意気込む人達に囲まれるのだろう。


 それにしても、メアリー様もやっぱりお胸がたゆたゆんだ。

 制服姿しか知らないので、ドレスになるとその迫力が増していた。


 やっぱり大半の男性は好きなのではなかろうか……

 隣のレイヴィスをちらりと見る。


「ん? どうしたのリア」


 目元を和らげて小首を傾げる仕草に、胸がときめいてしまう。


(格好いいなぁ……)


 数年前まではその仕草をされると、かわいさに悶えていたのに。


「何でもありません」

「そっか」


 ルーディ様には質問できたのに、なぜか恥ずかしくて聞けない。

 もじもじしているところに、ティナさんとローズマリー様がやってきた。


 二人の姿を見た瞬間、小さな悩みなど吹き飛んでいった。


「────かっっ……」


 かわっ、かわわわわ!

 大変だ。いつも天使な二人が更に天使だ。

 なんてこった。


「あらあら、どうなさったの?」

「リアーナさん?」

「……いえ、何でもありません」


 心の中で悶えながら可愛さを堪能し、話をしているとパーティーが始まった。


 ローズマリー様は他の人達とも交流するため、去っていった。


 皆さん大変だなぁ……

 他人事のように思うけれど、私も今回は少しくらい他の貴族達と交流しようと思っている。


 とは言え、こちらをちらちら見ている人達全員とはさすがに話したくない。

 今は、ダグラスにいつも以上に眼光鋭く睨みをきかせてもらっている。


 どうしようかなぁ……

 数人と話すだけで止めたいと考えていると、オリビアさんが真っ赤な髪を靡かせながらやって来た。


 彼女は以前は派手なドレスに宝石をこれでもかと身につけていたけれど、今日はシックなダークグリーンのドレスに、小ぶりの宝石のネックレスを身につけている。

 何とも品のいいお嬢さんに見え、相変わらずお胸はたゆんたゆんだ。


「オリビアさんは落ち着いた色が似合いますね。赤髪が映えてとても素敵です」

「そう言っていただけて嬉しいですわ。リアーナ様とティナさんもとても素敵です!」

「ありがとうございます」

「はわわ、恐縮です」


 ティナさんとオリビアさんは、どんどん仲良くなっている。

 いつの間にか『麗しき薔薇の友の会』という同好会を結成しており、充実した毎日を送っているようだ。


 私も入会を勧められたけれど、丁重にお断りした。

 生身の人間を相手に妄想して楽しむ会にはさすがに恥ずかしくて入りたくない。


 さっそく、オリビアさんとティナさんはターゲットを見つけたようで、何やら小声で語り合っている。

 楽しそうで何よりだ。


「あの二人は相変わらずだね」

「ふふっ、そうですね。ねぇレイヴィス、今日は私も少しだけ他の貴族達と交流してみようかと思います」

「そっか、それじゃ俺も一緒に付き合うよ」

「わぁ! ありがとうございます」


 コミュニケーション能力の高いレイヴィスが側にいてくれると心強い。


 暫くの間、ダグラスには少し離れてもらうことにすると、すぐに数人が寄ってきた。

 聖女様と言われてはやんわり否定しつつ、何とか淑やかに振る舞う。


 うふふ、おほほ、と笑顔でどうにか頑張る。

 頑張ったけれど、数人を相手にしてもう疲れてきた。


 目で合図を送り、ダグラスを呼び寄せた。


「では、これで失礼します」


 その場から立ち去り、ジュースを飲みながら休憩する。

 なかなか頑張った。今日はもういいだろう。


「リアーナ様っ!」


 一息ついていると、今度はルーディ様が手を振りながら軽やかな足取りでやってきた。


「こんにちは、ルーディ様」

「こんにちは。リアーナ様のドレス姿を拝める日がくるとは、感動で胸がいっぱいです。なんて美しい。まるで────」

「それ以上は言わないでいただけますか。またおかしなことを言うおつもりでしょう」


 ぞわっとする前に阻止させていただいた。


「それでは何も言えませんな! はっはっは」


 やっぱり言うつもりだったようだ。

 でも、お願いをしたらちゃんと聞いてくれるし、何だかんだで優しいんだよなこの人。


 丁度いいので、近くにいたティナさんを呼んで、ルーディ様と二人でお話しする機会を作らせてもらった。


 ティナさんは相変わらず『はわわわわっ』となっているが、ルーディ様がうまく会話を繋げてくれるだろう。


 今日のティナさんは眼鏡を外し、髪をおろしているので可愛さが半端ない。

 ルーディ様もキュンとしているに違いない。


 さてと、いろんな人と会話をすることに疲れてきたので帰ることにしよう。


「それではお先に失礼します」

「うん」


 レイヴィスと手を振って別れた。

 彼は殿下にまだ帰るなと言われたらしく、渋々残った。






  * *






 リアーナが帰ってしまった。

 もっと一緒にいたかったけど、彼女のドレス姿を他の男どもが見ることを思えば、よかったのかもしれない。


(綺麗だったな……)


 今日の彼女はいつもに増して美しかった。

 大人っぽいデザインの青紫色のドレス。あれはマダムにデザインも色も丸投げで作ってもらったドレスだろう。


 あの日、俺はマダムにいろいろ質問をされた。


 リアーナとの関係や、彼女をどう思っているかなど。

 差し障りのない返事をしたけど、マダムはずっと意味深な笑みを浮かべていた。


 あれは、俺をリアーナのパートナーとみなした笑みだったのかもしれない。

 とてつもない勘違いだけど、マダムには感謝を伝えたい。


 この国では、自分の瞳の色のドレスを恋人や婚約者に贈る風習がある。

 リアーナはあの色のドレスをどんな気持ちで着たのだろう。

 俺のことを思ってくれていたのかすごく知りたかったけど、さすがに聞くことはできなかった。



 ***



 パーティーは中盤に差し掛かった。

 なぜ俺はまだ参加しているのかと言うと、殿下に帰るなと言われからだ。

 命令ではないけど、わざわざ断る理由もないので渋々参加している。


 リアーナが居なくなったことにより、女性が話しかけてくるようになった。


 代わる代わるやってくることにうんざりしてきたところで、殿下の元へ避難することにした。


 そろそろ帰っていいかお伺いをたてよう。


 彼は婚約者と共に沢山の人と交流をしていたけれど、メアリー様は友人の元へ行ったようだ。

 テーブル席に一人で座っている殿下を見つけ、向かった。


 殿下の護衛騎士がテーブルの前に立っているため、誰も近づこうとはしない。

 今は一人でゆっくり休憩したいようだ。


「やぁ、レイヴィス」


 近くまで行くと殿下がにこやかに声をかけてきた。


 何だか様子が変だ。

 机の上の右手が小刻みに震え、唇が少し青紫色に変色している。


 …………毒か。


 護衛騎士に目配せすると、彼は小さく首を横に振った。

 大事にしたくないようだ。


「ここで休憩させていただいてもよろしいですか」

「ああ、座ると良いよ」


 俺は殿下の奥の席に座った。

 辺りを漂う魔力を少し吸い込んでみると、音の魔力を吸収した。

 また盗聴しているようだ。


 机の下で殿下の左手を握り、心の中で話しかける。


(殿下、今から癒しの光を流します。盗聴されているようなので、殿下の魔力をいただけますか? そうしたら、心の中で会話ができるようになります)


 握った手から癒しの光を流し終えると、すぐに彼の魔力が流れてきた。


(助かったよ。それにしても君、本当にとんでもない能力だな)


 殿下の心の声が届くようになった。


(それは殿下も同じでしょう。それで、どうするおつもりですか)

(どうもしないさ。まだ泳がせるつもりでいるよ)


 心の中の会話により、理由をつけて二人で会場を出ることになった。


「さてと、今から執務の残りを片付けようかと思っていてね、手伝ってもらえると助かるなぁ」

「分かりました」

「では、行こうか」


 二人で立ち上がり、ホールの出口へ向かう。

 会場を出る直前、盗聴される際に少しずつ頂戴していた音の魔力を使って、相手の様子を窺った。


 どうやら数人で愚痴りあっているようだ。



『くっそ、この毒が効かないなんて……リスク承知で猛毒を仕込んだっていうのに』

『もう実力行使しかないよ。大丈夫、あの人もいるから成功するはずだ。あの養子が襲ったように見せかけるんだ』

『アイツうざいからそろそろ消えてほしいんだよな。それにしても聖女サマにはなかなか近づけないな。いつもあの護衛がいて、パーティーもすぐに帰っちゃったし』

『でもあの子は殺すには惜しいって。表舞台から消えたらいいんだろ? 俺たちで監禁したらいいんじゃないか』

『おっ、それいいね。たっぷりと可愛がってあげようよ』

『聖女サマ汚せるとか最高だな、賛成』

『うっわ、たまんねーなソレ。興奮してきた。俺も賛成』

『でもどうやって拐うかが問題だよね』

『だな』



 会場を出ると、彼らの声は聞こえなくなった。


 …………今すぐに全員の息の根を止めてもいいだろうか。


 ちらりと殿下に目をやると、首を横に振られてしまった。

 煮えたぎる感情をどうにか閉じ込めながら歩き、彼の執務室に入った。


 殿下の護衛は扉の外に待機している。


「気持ちは分かるけれど、こちらから手を出すのも殺すのもダメだ。自白剤を使う時に不利になるからね」

「……大丈夫です。さすがに我慢しますよ」


 ギリギリだけど。

 彼らにリアーナを拐うことは無理だから大丈夫だ。


「それは良かった。毒には慣れているとはいえ、なかなか強めのものだったから助かったよ。治癒ポーションを飲もうか悩んでいたところだったのさ」

「悩んでいないで、さっさと飲んでいただけますか」


 本当に困った人だ。


「毒ごときで使うなんて勿体ないだろう。今回で彼らは私に毒は効かないと諦めたようだから、次からは実力行使でくるだろう。私の立太子が近いからだいぶ焦っているようだが、それにしてもやることが雑だよね、ははっ」

「学園内で直接狙ってくるようです。俺の仕業に見せかけて俺も一緒に殺すつもりのようで、『あの人もいるから成功する』と言っていました。あの人とは誰でしょうね」

「ああ、それはおそらく私の護衛の一人のことだね。私の護衛は三人が交代で行っていてさ、一番細身で爽やかそうな茶髪の男がいるだろう、彼は敵の派閥の人間なんだ」

「何故そのような男を護衛に付けているのですか……」


 ちょっと嘘くさい爽やかな男だと思っていたけれど、まさか敵だったとは。


「彼程度なら素手で対処できるから問題ない。もういつでも過激派を捕らえられる証拠は集まっているが、どうせなら愚かな子息達も一緒に捕らえたくてね。仕掛けてくる日を待ちわびているんだ」


 殿下は全く問題なさそうに、むしろ楽しげに見える。

 確かに、殿下は護衛の誰よりも遥かに強い。

 日常的な動きを見ているだけで、それは分かる。


「学園内は護衛以外は武器の持ち込みが禁止されていますよね。多人数相手でも、隠し持っているナイフ程度の攻撃なら殿下一人で返り討ちにできると思いますが、さすがに危険では」

「あぁ、彼らは今日連れてきた従者にこっそり持たせた剣を学園内に隠したようだ。いやぁ、剣を持つ数人を相手にできるか心配だ。さすがに難しいかもしれない。困った困った」


 全く困っているように見えないんだけど。

 普段なら、学園内には許可を得た護衛騎士しか剣を持ち込めない。

 今日はパーティーで従者を従えている者も多い。

 学園の門をくぐる時に持ち物検査をわざと行わなかったようだ。


「殿下……最初から俺を巻き込む気でいましたね」

「ははっ、無理にとは言わないよ。でも君なら簡単に彼らを無力化できそうだから、手を貸してもらえると助かるな」

「もちろん最後までお付き合いしますよ」

「さすが、頼りになるね」


 初めから俺に出来ることはするつもりでいたし、奴らは俺にとっても害のある存在になった。


 おぞましい考えを持つ者達は、まとめて排除しないといけない。

 


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『聖なる加護持ち令嬢は、騎士を目指しているので聖女にはなりません。』コミカライズ連載中です

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