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一ヶ月後

 

 魔力覚醒の儀式を受けてから一ヶ月が過ぎた。


 毎日訓練していたこともあり、魔力操作はわりとスムーズに行えるようになった。


 軽い切り傷程度なら瞬時に癒せる。

 深い傷はものすごーく時間をかけたら何とか癒せる程度だ。


 私は今日も体力作りのため、日課の走り込みをしている。

 屋敷の敷地内には、広い庭園と鍛練場、騎士寮、使用人寮、別棟があり、敷地は高い塀にぐるりと囲まれている。


 今までは塀の外周を走っていたけれど、敷地外に出てしまうとダグラスに護衛をしてもらわないといけなくなってしまう。

 彼も自分の鍛練があるため、走っている間つきっきりでいてもらうのは気が引けるので、塀の内側をひたすら走ることにした。


 屋敷の裏手の方まで走ってくると、庭師のおじいさんがせっせと土を耕していた。


「ジルおじいさん、こんにちは」

「こんにちは、お嬢さま。精がでますな」

「はいっ」


 おじいさんは、私が花を楽しみながら走れるようにと、どんどん花壇を増やしてくれている。

 暖かい時期がきて花が咲くのが、今まで以上に楽しみになった。

 


 一時間程走ってから鍛練場へと行った。

 今日は新しいことに挑戦するつもりだ。


 手のひらに出した聖なる光を他人に向けて飛ばし、効果があるのか検証する。

 もし効果があれば、傷ついた仲間に直接触れなくても、遠距離から癒すことができるようになる。


(えっと、丸く、まるーく……こんな感じか?)


 両手を前に出して、手のひらサイズの光の玉を作りだす。

 遠くに飛ばすイメージで、えいっと放出。

 ふよふよとゆっくり飛んでいった光は、近くで待ち構えていた騎士にキャッチされた。


 光を受け取った騎士は程なく瞳を輝かせながら左腕を上げた。


「お嬢、腕の傷が無くなったっす!」

「ほんとですか! やったぁ」


 期待していた効果があり、両手を合わせて喜んだ。

 彼にはさっきまで左腕に大きめの傷があったのに、跡形もなくきれいに消えていた。

 飛ばした光も直接手を当てて癒すのと同程度の効果があるようで安心した。


「おおー! すげぇ!」

「お嬢すごいっす。次は俺に飛ばしてください!」

「オレっ! オレに飛ばしてくださいよ!」

「俺も!」


 一連のやり取りを周りで見守っていた騎士達が、瞳をキラキラとさせながら迫ってきた。


「はいはい。急かさないでくださいね。あと暑苦しいので離れてください」


 一緒に喜んでくれるのは嬉しいが、詰め寄られるととにかくムサくて暑苦しい。

 きちんと順番を決めさせて、一人ずつ訓練に付き合ってもらうことにした。


 早く遠くまで光を飛ばせるように頑張ろう。

 目指すはシュンッと目に捉えきれない程の速さである。



 鍛練場で一時間ほど過ごし、今日の鍛練はこれで終わりにする。

 勉学を疎かにしてはいけないので、ラウンジで少し休憩した後は、夕食の時間まで部屋で勉強する予定だ。


 私は町の中等学校には通っておらず、週に四日来てくれる家庭教師から勉強を教わっている。

 私は勉強が苦手なため、一対一で自分に合った授業をしてもらえてとても助かっている。


  十五になる年からは、王都の高等学園に通わなくてはいけないけれど。




 シャワーを浴びて着替えてからラウンジに行くと、一人の男性が寛いでいた。


 金色の髪に金色の瞳の、高貴さ溢れる佇まい。

 優雅な仕草でティーカップを口に運ぶ、三十代半ばとは思えない程の若々しさを持ったこの男性は、ここにいるはずのない人物である。

 後ろには白い騎士服を着た護衛二人が控えている。


「あっ、やっほー! リアーナちゃん」


 私の姿を見つけた男性は、嬉しそうにぶんぶんと大きく手を振った。

 優雅さなんてものは一瞬で消え去った。


「お久しぶりです、陛下。また執務を放り出してきたのですか?」


 ジト目で挨拶をすると、この国一番の権力者である国王陛下は、満面の笑みで得意気にピースをした。


「だーいじょうぶ! 五日分は前倒ししてきたから」

「……そうですか。少し足りないようですが、いつもよりは大丈夫そうですね」

「でしょ」


 王都と辺境伯領は往復六日の距離である。

 いつもは執務を宰相達にぽいっと丸投げしてくるので、その度に叱ってきた。


 この人も私の兄と同じく、公私の差が激しい性格をしている。

 陛下と母はいとこ同士なので、そういう血を兄は受けついだように思う。

 そんなふざけた高貴な血はいらないんだけど。



「どう? 聖なる力はいい感じかい?」

「はい。最初は不満はありましたが、何とか実戦でも使えるように鍛えています」

「ははっ、そうかそうか。しかしまぁ聖なる加護の力に目覚めて不満とか言うの君ぐらいだろうね」

「そうですか?」


 そんなことはないと思いながら、力について聞かれたことに答えていった。

 陛下と話していると、メイドのミリアが私の分の冷たい飲み物とクッキーを持ってきてくれた。


「リアーナ様、どうぞ」

「ありがとうございます」


  受け取ったアイスティーを一口飲み、ほっと一息つく。

 陛下はミリアに顔を向けた。


「ラナは起きたかい?」

「申し訳ございません、陛下。ラナは今日は沢山走り回っていたので、まだまだ起きそうにありません」

「そうかそうか、一緒に遊びたかったのだが仕方がないね。夕食の時間までに起きたら教えてくれるかい?」

「承知いたしました」

 

 ミリアは臆することなく、慣れたように陛下と会話する。

 彼女は私の護衛のダグラスの奥さんである。

 二人の間にはそれはそれはかわいい天使がいて、陛下はその子とあそびたかったようだ。


 私は陛下とお話ししながらクッキーを食べ、ミリアの淹れてくれたアイスティーを飲みほした。

 予定外の客人がいたため、ずいぶん長く休憩してしまった。

 そろそろ自室に戻ることにする。


「それでは、私は勉強があるのでこれで失礼しますね」

「えー、もうちょっとゆっくりしていったらいいのに。もっとお話しようよ」


 口を尖らせて不満そうな顔をされてしまった。

 一国の王とは思えない、威厳も何も感じられない姿だ。


「充分休憩しましたのでお断りします。お話なら夕食時にできるでしょう」

「むー、そうだね。分かったよ」

「では、失礼します」


 頭を下げて、私はラウンジを後にした。

 陛下の扱いが雑なのは、いつものことなので気にしない。





  * * *





 数ヵ月後の雲ひとつ無いすっきりとした青空の下。


 兄のマーロウは護衛一人と共に馬車へと乗り込んだ。

 『護衛なんていらない、一人気ままに行きたい』と直前までずっと文句を言っていたが、さすがにそれは却下された。


 辺境伯家の息子が護衛を伴わずに一人旅だなんて、外聞が悪すぎる。



「そいじゃ、行ってくるわ」

「くれぐれも気を引き締めて頑張ってくるんだぞ」

「分かっているとは思うけど、おかしな事をしでかさないよう気を付けるのよ」

「本当にちゃんとしてくださいね。私が通うときに、うしろ指をさされないようにしてくださいよ」


「ははっ、分かってるって」


 家族全員から精神面、健康面ではない心配をされながら、兄は王立学園に通う為に王都へと旅立っていった。


 何だろう、寂しさよりも不安の方が大きいこの気持ちは。



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『聖なる加護持ち令嬢は、騎士を目指しているので聖女にはなりません。』コミカライズ連載中です

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