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友達っていいな

 アーネットさんのお茶会は、ティナさんのお陰で充実したものになった。


 帰りの馬車の中では、どうぞどうぞと言うティナさんのお言葉に甘え、思う存分ブルーゾーラを触らせてもらえた。もう大満足だ。


 寮に戻ると、ドレスから部屋着のワンピースに着替えた。


 さて、宿題を済ませないと。

 まだギリギリ理解できている数学の宿題を、唸りながら何とか終わらせる。

 頭をフル稼働させることは、なぜこんなに疲れるのだろう。


 鍛練で体を動かした後よりも疲労を感じ、ベッドにごろんと寝転がった。

 二つのぬいぐるみを抱きしめてしばし癒される。


 レイヴィスと一緒に家庭教師から学び、分からないところを彼に教えてもらっていた頃がすでに懐かしい。


 しばらくぼーっとしていたら、夕食の時間になっていた。

 使用人が運んできてくれた食事を受け取り、夕食を済ませて一息つく。


 しばらくして、夕食後に一緒にお茶をしようと誘っていたティナさんがやってきたので部屋に招き入れた。


 私は紅茶を二人分淹れて、ティナさんの前の席に座った。


「はぁ……今日は本当にリアーナさんがいてくれて嬉しかったです」


 ティナさんは紅茶を一口飲み、ほうっと一息ついた。丸眼鏡のレンズが白く曇る。


「私の方こそ、あなたがいて嬉しかったです。初めてお茶会に出席したのですが、いつもあんな感じなのでしょうか」

「そうですね……アーネットさん主催のお茶会は自慢話や流行りの話、あとは……その場にいない令嬢の悪口などですね……」


 曇った眼鏡を外してじっと見つめるその表情は物憂げだ。


「なるほど。それではもう今後は誘われても断ることにします」

「ええっ? もう出席しないのですか?」


 ティナさんは前に身をのりだした。

 捨てられた子犬のように、大きな瞳は揺れている。

 庇護欲をそそられる可愛さに一瞬たじろいだ。


「彼女とは仲良くなりたいと思いませんから。ティナさんも気が進まないのであれば、断ればいいのですよ」

「うぅ……でも、アーネットさんの方が爵位が上ですし……家族に迷惑をかけたくないです……」


 なるほど、家の為に嫌々参加していたのか。優しい子だ。


「心配しなくて大丈夫ですよ。爵位なんて関係ありません。国における重要性はあなたのお家の方が上ですから」


 シャーリー伯爵家は、ブルーゾーラが採れる国内屈指の鉱山を持つ。

 難しい加工技術を守り続け、職人の育成と支援に力を入れており、国にとってなくてはならない存在だ。


「シャーリー伯爵家の後ろには、王立騎士団とプレストン公爵家がついていますし、我が辺境伯家にとっても大事な取引相手です。アーネット侯爵家にどうこうできるわけがありません」


 もし手を出そうものなら、うちの父は容赦しないだろう。

 その場合、アーネット侯爵家そのものがなくなるかもしれない。


「そっか……そうですよね。私、次からは断ってみせます……!」

「その意気です。何かあっても私やダグラスを頼ってください」

「はいっ!」


 ティナさんは眼鏡を持ったまま手を握りしめた。

 大丈夫? 眼鏡折れてない? と心配になったところで、聞こうと思っていたことを思い出した。


「ところで、ティナさんは視力が悪いんですよね。もし良ければ治しましょうか」


 視力低下は治癒ポーションで治せるのに、なぜ治さないのだろうと疑問に思っていた。

 ティナさんのお家は、ポーション代を出し惜しむような家ではないはずだから。


「……ありがとうございます。ですが、その、お気持ちだけで十分といいますか、眼鏡があると、その、守られている感じがして何となく落ち着くといいますか……」


 ティナさんは申し訳なさそうにしながら、ゆっくり眼鏡をかけた。


「そうでしたか。落ち着けるのが一番ですね。確かに眼鏡は透明な壁で周りの視線から守ってくれそうです」

「そっ、そうなんです……!分かっていただけますか」

「ふふっ、人の視線って本当に煩わしいですよね」

「はひぃ……」


 毎日、周りから向けられる視線にはうんざりしているので、ティナさんの気持ちは何となく分かる気がする。

 私も眼鏡をかけようかな、なんて思った。






  * * *






(ダメだ……全く分からん)


 恐れていた事態に陥り、私は頭を抱えている。


 数学の授業について行けなくなってしまったのだ。

 ポンコツなこの頭が恨めしい。


(何で? 何で数学なのに数字じゃないものばかり登場するんだ。そして増えたよ。おかしいだろ。数学なんだから数字だけで勝負しろよ)


 どこにもぶつけられない苛立ちに、重く長い溜め息を吐く。


「あの……リアーナさん、どうかしましたか? 悩みごとでしたら……その、聞きましょうか? 聞くことだけしかできませんが……」


 ティナさんが後ろの席から声をかけてくれた。

 引っ込み思案なのに、私のために頑張って積極的になってくれている。

 その優しさに感動して、目頭が熱くなってきた。


「ほえっ!? りっ、リリリリリアーナさんっ、どっ、どどどど、どうしましたかっ?」


 私の涙を見たティナさんは尋常じゃないほど狼狽えた。

 周りの人達は何事かと注目しだした。


「実はさっきの授業で分からなかったところがありまして。教えていただけると嬉しいのですが……」


 悩みを打ち明けてお願いしてみると、ティナさんはホッとしたように目を細めた。


「そうでしたか……! それならお役に立てそうです」


 ティナさんは胸に手を当て、どこか得意気に笑った。

 天使だ。天使がいたよ!


 私の悩みは、後ろの席の天使によって解消されることとなった。


 もちろんギリギリだけど、大丈夫な方のギリギリなので問題ない。


 ティナさんから勉強を教えてもらえるようになり、他の人からも『教えようか?』と声をかけられるようになった。

 いつからだろう、クラスの皆が気軽に話しかけてくれるようになっていた。


 居心地の悪さなんてもう感じない。



「エヴァンズさん、今日の放課後一緒に町へ行きませんか」

「すみませんが、放課後はいつも予定がありますので、ご一緒できません」

「そうですか……残念です」


 男子生徒からお誘いいただくことが増えたが、毎回丁重にお断りしている。

 そんな暇があったら鍛錬場に行くし、そもそも行きたいと思わない。



 剣術の授業では、相変わらず私とレイヴィスは端の方で手合わせをしている。

 こちらでも、気さくに話しかけてきてくれる人が少しずつ増え、数少ない女子の二人は私を慕ってくれるようになった。


 レイヴィスといえば、いつの間にか演習場の地面を修復する係になっていた。


「オルコット君、修復頼めるかい?」

「分かりました」


 今日も魔法ででこぼこになった地面を、レイヴィスが綺麗に整えている。

 一度彼の方から申し出て整えてから、その後は頼られるがままだ。


 元王立騎士団の講師達は、私達に指導してくれないのに、そういうところはちゃっかりしている。



 何だかんだありながらも、学園生活は楽しくなってきた。

 だけど、確実に足りないものがある。


 そう、レイヴィスの手料理だ。

 剣術の授業の後なんて特にお腹が空いていて、無性に食べたくなって仕方がない。


(あぁ……あの味が恋しい……)


 机に突っ伏しながら懐かしんでいると、ローズマリー様がやってきた。


「あらあら、どうしたの。まだ二時限目が終わったばかりでしてよ」

「……ちょっとお腹が空きまして、レイの手作りクッキーが食べたいなと考えていました」


 教室内では休み時間の飲食が許されているが、私は寮暮らしなので持ってこれるものがない。

 寮の使用人に頼めば用意してくれるだろうが、手間になるので言い出せない。


 今度町に出かけた時に、日持ちする食べ物を買わなければ。


「そう、ちょっと待っていてね」

「?? はい」


 ローズマリー様は自分の席に戻り、鞄の中をごそごそしだした。

 そして小さな紙袋を持って戻ってきた。


「クッキーでよければお食べになって。オルコットさんの手作りには及ばないでしょうが、お腹の足しにはなるでしょう」

「わぁ、ありがとうございます!」


 王女殿下から食べ物を頂戴するなんて恐縮ものだが、もちろん遠慮なく受け取った。

 袋を開けると、バターと何やら爽やかな香りがする。

 美味しそうな小ぶりのクッキーがいくつも入っていて、お腹が小さく鳴ってしまった。


「すごく美味しそうです。いただきます」


 一つ取って口に入れた。

 サクッと歯切れよいバター風味のクッキーは、優しい甘さだ。


 アーネットさんのお茶会で食べた高級スイーツはもちろん美味しかったけれど、どちらかといえばこういったお菓子の方が好きだ。

 鼻を抜ける爽やかな香り。これはミントだろうか。

 美味しすぎて顔がとろけてしまう。


「とても美味しいです」

「ふふっ、それは良かったわ。少しミントの葉を入れすぎたように思ったけれど、大丈夫そうね」

「…………もしかしてこれ、ローズ様の手作りですか?」

「ふふっ、そうよ」


 ローズマリー様はふわりと笑う。

 何てこった。私が食べているのは王女殿下の手作りクッキーだよ。

 国宝級のもので小腹を満たせるだなんて、こんな幸せがあるだろうか。


 感動していると、ティナさんが移動教室から戻ってきた。


「ローズ様、この感動をティナさんと分かち合ってもいいですか」

「ええ、お好きになさって。そんなに喜んでもらえて嬉しいわ。また作ってこようかしら」

「それは是非とも!」


 ローズマリー様が天使の微笑みと共に魅惑の言葉を紡いだので、前のめりで答えた。

 嬉しいな。レイヴィスの手料理ロスが少し解消された。


 そしてなぜか、次の日からクラスメートからやたらとお菓子を貰うようになった。


 嬉しいけど、そんなに物欲しそうに見えたのかと思うと、少し恥ずかしくなった。



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