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魅惑のお茶会

 私は今日、人生初のお茶会に誘われた。


 クラスメートでも剣術の授業が一緒の令嬢でもない。

 オリビア・アーネット侯爵令嬢にお茶会に誘われた。


 なぜだ。


 ダグラスのことで文句を言って喚きちらされた日から、地味な嫌がらせをされたり、睨まれたりしているというのに。

 普通に誘えるなんてメンタルが凄すぎる。

 ちょっと羨ましい。


 そして当日に声を掛けるのも凄い。

 二人きりではなく数人が参加するようだから、数日前から決まっていたはずだよね。


 人数合わせだとしても、なぜ私なんだろう。

 これも嫌がらせの一種だろうか。


 それはさておき、お茶会、それは田舎育ちの私には縁のなかったもの。

 一度体験してみたかったし、断っても煩そうなので参加することに決めた。


 服装は自由と言われたが、これはきっと罠だ。

 ラフなワンピースではさすがにダメそうなので、上質な生地の藍色のドレスで行くことにした。

 寮の使用人に着付けを手伝ってもらい、髪はサイドを緩く編み込んでもらった。


 侯爵邸は比較的近くにあり、歩けない程の距離ではない。

 だけど歩くことはダグラスに却下されてしまったので、馬車で向かうことになった。


「うぅぅ……行きたくないですぅ……」


 馬車の中、前方からか細い悲痛な声が聞こえてくる。

 今にも泣きそうな顔で俯いているのはティナさんだ。


 彼女はアーネットさんにお茶会に誘われていると朝から嘆いていた。

 私も行くことになったと伝えると、すごく喜んでくれたけど、それでもやっぱり嫌なものは嫌みたいだ。

 そりゃそうだよね。



 ティナさんを慰めている間に侯爵家に到着した。


 着いて早々、華やかなドレスを纏う少女達に驚く。

 ここは夜会ですか? 

 皆これでもかと着飾って、ばっちり濃いめの化粧を施している。そして香水の臭いがとてつもない。


 お茶会というよりガーデンパーティーだ。

 室内でなくて本当に良かった。また気分が悪くなるところだった。


 アーネットさんが私達の到着に気づき、近づいてきた。


(うわぁ、めっちゃニコニコしてる。逆に怖い)


 赤いドレスに、これでもかというほど着けた宝飾品。似合っているが、とにかく派手だ。


「エヴァンズさん、シャーリーさん、ようこそお越しくださいました」

「お誘いありがとうございます」

「よっ、よろしくお願いいたします……」


 挨拶を済ませると、五人ずつ二つのテーブルに分かれて座った。

 私のテーブルには、ティナさんの他に、アーネットさんと取り巻きの子爵令嬢二人が座った。

 この三人はいつも一緒のようだ。


 ダグラスはあまり近くにいると他の令嬢が怖がるので、離れた所にいてもらう。


 私達が最後の到着だったようで、すぐにお茶会が始まった。

 テーブルの上には、小ぶりで繊細なお菓子が沢山並び、紅茶も注がれた。

 紅茶は最高級茶葉を使用し、お菓子は全て有名店の高級スイーツだそうだ。


 アーネットさんは、机に並ぶ品について丁寧に説明してくれる。

 皿や茶器に至るまで、とにかく貴重で価値のあるものらしい。


 そんなものを惜しげもなく提供してくれるだなんて太っ腹すぎる。さすが侯爵家だ。



 お茶会は、アーネットさんを中心として、持ち物自慢やファッションの話などで盛り上がっていった。


「まぁ、さすがオリビア様。入手困難な東の国の品を入手されただなんて」

「さすがですわぁ!」

「父の知り合いの商会長に頼めば造作もないことですわ、おほほ」

「なんて羨ましいんでしょう」


 皆ひたすらアーネットさんを褒め続けている。

 まるで接待を見ているようで、本心なのか持ち上げているだけなのか分からない。


「エヴァンズさんはこの練り香水はご存じかしら?」

「いえ、全くこれっぽっちも知りません」

「ふふっ、そう。そうでしょうね、田舎である辺境の地で流行するはずがないわよね」

「そうですね、おそらく」


 流行っていたとしても、興味がないから知らない。そもそも香水は苦手だ。


 アーネットさんは会話の合間にたまに話をふってくれるけど、知らない話ばかりだから答えようがない。

 話を膨らませることができなくて申し訳ないし、あまり楽しくない。

 そう思っていたら、アーネットさんが不意に立ち上がった。


「では、そろそろ各自で持ち寄った自領の自慢の品を出し合いましょうか」


 そう切り出すと、各自手荷物をごそごそとしだした。

 そんなの聞いていないけど。


「あの、アーネットさん、私知らなかったもので、何も持ってきておりません」

「ええ、今日いきなり言われても無理でしょうから、言わなかっただけですわ。そもそもそんな品はないでしょうし、お気になさらないで」

「そうですね。ありがとうございます」


 そりゃそうか。言われたとしても、用意する暇なんてなかった。

 私は見ているだけでいいようだ。


 座っている順に、それぞれの領地の特産品などを紹介していく。

 これはなかなか面白い。

 各自、革製品や陶磁器、オルゴールなどを見せてくれた。


 そしてティナさんの番になった。

 実は一番この時を楽しみにしていたので、胸が高鳴る。

 ティナさんはテーブルの上に、手のひらよりも大きな石をことっと置いた。


「あの……私の領地の特産品といえば武器なのですが、この場に持ってくるには相応しくないと思いまして、原材料であるこの鉱石をお持ちしました……」


 ティナさんが震える小さな声で説明すると、周りから微かな笑い声が聞こえてきた。


「ふふふ……さすがシャーリーさんね。そんなものを持ってくるなんて、本当に面白いわ」


 アーネットさんは肩を震わせて笑っている。

 どこかに面白い要素があっただろうか。


 私は首を傾げ、そしてティナさんが置いた石をじっと見つめた。

 一見普通の黒い石のようだけれど、光の加減によって、深緑や深紫、鮮やかな青色にも見える石。


 ────ああ、これはまさしく……


「ねぇ、エヴァンズさん、あなたもおかしいと思わない?」

「…………だ」

「え?」


 感動して、つい立ち上がってしまった。


「本物だ! すごい! 初めて見ました!!」

「えっ!?」


 おっと、いけない。興奮しすぎて大きな声が出てしまった。淑やかに淑やかに。

 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、ティナさんに話しかける。


「ティナさん、すごいです。本物のブルーゾーラを見られるなんて感動しました。ありがとうございます」


 貴重な原石をこの目で見られるだなんて。

 騎士を志す者にとって憧れの存在、それはこのブルーゾーラから作り出された剣だ。


「えっ……あの、どういたしまして?」


 ティナさんは疑問形で答えた。

 本当に嬉しい。今日ここに来られてよかった。

 アーネットさんに感謝だ。


「エヴァンズさん、なぜこんな石ころを喜んでいるのかしら? ほら、わたくしの自慢の品をお見せしますわ」

 

 アーネットさんは訝しげな顔でそう言って、使用人に目配せをした。

 そうして持ってこさせたのは黒塗りの大きな箱だ。


「我が領地の鉱山から採れる宝石の数々ですわ」


 テーブルの上にずらりと並べられたのは、赤、緑、水色と、色とりどりの宝石。


「わぁ、とても綺麗ですね」

「そうでしょう。あんな石ころよりもよっぽど価値がございましてよ」

「??」


 アーネットさんはふふんっと鼻息あらく胸を張る。

 この人は何を言っているのだろう。


「あの……アーネットさんはブルーゾーラの価値をご存知ないのでしょうか」

「え? どういう意味ですの?」


 周りのご令嬢達も、何言ってるの? というような困惑した表情で私を見ている。

 そうか。私の中では常識でも、騎士を志していないと知らないことのようだ。


「そうですね。ここに並んでいる宝石全てで、あの鉱石から作り出された武器一つと同価値といったところでしょうか」

「なっ、何をおっしゃっているの? そんなわけないでしょう……」


 アーネットさんは顔を赤くしてワナワナ震えている。

 信じてもらえないようだ。

 野暮だけど、ダグラスの力を借りよう。

 ダグラスに手招きして近くに来てもらった。


「ねぇダグラス、あなたのその剣はおいくらでしたか?」

「一千万ゴールドです」

「え? そんなに!?」

「これは特注ですので、普通のブルーゾーラ製の剣の三倍ほどです」


 わぁ、特注だったんだ。

 普通のものより大きいからお値段がするとは思っていたが、一千万とは。さすが公爵家。


「いっせんまん……」


 アーネットさんは固まってしまった。

 本当のことを教えただけなのだが、気を悪くさせてしまったようだ。


「それにしても、アーネットさんの領地で採れる宝石は本当に綺麗ですね」

「え、そう、そうでしょう。手にとってご覧になってよろしくてよ」


 もう得意気な顔に戻った。切り替え早くて本当に凄い。


「エヴァンズさんの領地には、これといった特産なんてないでしょうね」

「えっと、そうですね……特産といえば、このドレスなどでしょうか」


 私は身に纏っている藍色のドレスの肩のあたりを軽くつまみ上げた。


「そのドレス? ずいぶんと地味……いえ、シンプルなドレスだこと」


 今、地味って言ったよね。言い直しても遅いから。

 そっか、地味か。


「皆さんに比べると華やかさには欠けますよね。マダムモリスンという方が、『見る人が見れば分かる』と言っていたのですが……」


 シンプルだけど、生地は超高級、仕立ては超一流なはずなのに。

 どこへ着ていっても大丈夫よ! というマダムのお墨付きだが、大丈夫じゃなさそうだ。


「……マダムモリスン?」

「はい、ご存知ですか」

「もちろんよ。王都一のデザイナーですもの。わたくしはマダムの店の常連ですから」


 わぁ、さすがマダム。侯爵令嬢がお得意様なんだ。


「そうでしたか。ありがとうございます」

「どうしてあなたがお礼を言うのかしら?」


 アーネットさんは首を傾げた。お得意様なのに知らないのかな。


「マダムのお店のオーナーは私の母ですけれど、ご存知ありませんか」

「…………オーナー?」

「そうです。マダムの店で扱っている布地は全て、エヴァンズ辺境伯領で作られたものです」

「そ、そうなのね……知らなかったわ」


 王都では辺境伯領の織物が高値で取引されているが、そんなに有名ではないようだ。

 今日は知ってもらうことができて良かった。

 お茶会って、情報交換の場でもあるんだな。


 でも、もう当分はいいかな。疲れるし。


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『聖なる加護持ち令嬢は、騎士を目指しているので聖女にはなりません。』コミカライズ連載中です

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― 新着の感想 ―
[良い点] マウントを取ろうとしたら、無自覚に叩き潰される侯爵令嬢。 がんばれ(棒読み)。
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