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お出掛けするよ

 放課後になると急いで寮へ行き、焦げ茶色のワンピースに着替えた。


 青みがかった銀色の髪は一纏めにして、鍔の広い帽子の中に入れる。

 これでじろじろ見られずに済むだろう。


 どちらにせよ、王都では珍しい黒い騎士服姿のダグラスがいる時点で目立つけど。

 彼にも目立たない服に着替えてもらうべきだったと今気づいたので、次からはそうしてもらおう。


 迎えに来てくれたダグラスとレイヴィスと共に王都の中心の町へ向かって歩きだした。


 やっとだ。やっと町へお出かけだ!

 ずっと楽しみにしていたから嬉しくて仕方ない。


 テンションが上がって、歩きながらふんふん鼻歌が漏れてしまうのも仕方ない。

 だからレイヴィス、慈愛に満ちた表情で見つめるのをやめてくれ。



 二十分ほど歩いて到着した場所は、これでもかというほど賑わっていた。


「人が多いですね……」


 辺境伯領の町の大通りとは比べ物にならない人の多さ。そのぶん通りの幅も広い。


「リアは何が見たい?」


 レイヴィスに聞かれてきょろきょろと辺りを見回した。

 お洒落な外観の建物ばかりが建ち並ぶ。


 店名も看板も洒落すぎていて、何の店だろう? というような店ばかり。

 シンプルに『ケーキ』とか『アクセサリー』とか書いてほしい。


「そうですね……どのお店も気になりますが、行列ができているお店は特に気になります。だけど並びたくありません」

「ふふっ、そうだね。俺も並んでまでは行きたくないかな」

「ダグラスは行きたいところはありますか?」

「俺は護衛として同行しているので、お気になさらず」

「そうですか……」


 相変わらず真面目だ。

 結局どこに行くかも決まらず、適当にぶらぶら歩くことになった。


 お洒落なスイーツ店はやたらと行列のできている店ばかりなので素通りし、人気のパン屋も一旦完売したらしく、次の焼き上がりを待つ列ができていた。


 アクセサリーは普段は付けないし、服も靴も沢山持っているので、今は買う予定がない。


 かわいらしい雑貨屋が気になって中に入ったけれど、女性がひしめきあっていたので、少しだけ見てすぐに出た。


 大きな噴水や見たことのない花が咲いている花壇を楽しみながら散歩する。

 活気があり賑やかなのはいいことだけれど、辺境育ちの私は人混みが苦手だ。


 静かで落ち着ける所に行きたくなり、自然と中心地から離れて町外れの方へと歩いて行った。


「お腹が空いてきました」

「俺も」


 スイーツやパンが焼ける香ばしい匂いをかぎながら歩いてきたので、すごくお腹が空いてきた。


「あ、あそこに焼き菓子のお店があります」


 小さな白いお店に『ハーマー焼き菓子店』と書かれた看板を見つけて指差した。

 やっぱり一目で何の店か分かるような看板はありがたい。

 分かりやすさって大事。



 カランカラン


 ベルの付いたガラス扉を開けて中に入ると、店内は香ばしい匂いが漂っていた。


 窓際に小さな丸テーブルが二つ並び、カウンターにはずらりと焼き菓子が並んでいる。

 今はちょうど私達以外に客はいない。


 客が来たことに気づいたコックコートを着た中年男性が、カウンターの奥から出てきた。


「いらっしゃいまー……」


 挨拶の途中、こちらを見たまま動きを止めた。

 どうしたんだろう。ものすごく凝視されている。

 私達というか、レイヴィスをめっちゃ見てる。



「…………レイヴィスぼっちゃんですか?」

「そうです。お久しぶりです、料理長」


 おや、この人はレイヴィスの知り合いのようだ。


 レイヴィスの返答に男性はカッ! と目を見開き、顔を紅潮させた。


「あぁあぁぁ! ぼっちゃぁあぁーーん!!」


 男性は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。

 涙と鼻水で凄いことになっていく。


 (えっと……これはどうすればいいのだろう)


 隣のレイヴィスをちらりと見て目で合図を送る。

 君がどうにかするんだ、と念を飛ばす。


 喜んでいるような困ったような表情のレイヴィスは、男性に歩みよった。

 近くにあった布を手渡したが、あれは台拭きだろうか。


 さすがに自分のハンカチを渡したくない気持ちは分かる。


 男性は布を受け取り、涙と鼻水を拭った。

 まだ止まらないようなので、しばし待つことにする。


 男性は落ち着きを取り戻すと、顔を洗いに行った。

 スッキリして戻ってくると、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「すみません、つい取り乱してしまいました」

「お気になさらず」


 男性は目と鼻を赤くさせながら事情を説明してくれた。


 彼は数年前までグレゴス伯爵家で料理長をしていたそうだ。

 引き取られてきたレイヴィスが厨房に遊びにくるたびに、料理を教えていたという。


 伯爵夫妻から無下に扱われていたレイヴィスをいつも気にかけていて、彼が家から追い出されたことが許せなかった。


 怒りのあまり、その日に伯爵に辞職願を突き付けて、その後すぐこの店を開いたらしい。

 元々お菓子作りの方が好きだったようだ。


 彼だけでなく、伯爵家のほとんどの使用人が辞めていったという。


 (おお。伯爵め、ざまぁみろだな)


 心の中でほくそ笑む。


 レイヴィスはそんな状況になっていただなんて知らず、申し訳なさそうに聞いていた。


 男性が話し終えると、レイヴィスも自分の近況をさらりと話した。

 男性はレイヴィスの話を聞きながら、また少し涙を浮かべた。

 だけど穏やかに目を細めながら、静かに話に耳を傾けていた。


 良かった。レイヴィスを心配していた人が何人もいたことが凄く嬉しい。


「ずっと心配していましたが、お元気そうで安心しました。さてと、今日は何をお買い求めですか。丁度ぼっちゃんが好きだったアップルパイが焼きたてですよ」


 カウンターの奥からアップルパイを乗せたトレーが運ばれてきた。

 レイヴィスは瞳を輝かせている。すごく嬉しそうだ。


 そして私もアップルパイに釘付けだ。

 こんがりきつね色に焼けた網目状のパイ生地に、隙間から覗く黄金色のフィリング。

 美味しいに決まっている。


「美味しそうですね。私はこれにします!」

「俺ももちろんこれにする。嬉しいなぁ」


 ダグラスにも無理やりひとつ選ばせて、三人で椅子に座った。

 しばらく待つと、店主が紅茶を運んできた。


 さすが元伯爵家の料理人で、紅茶も美味しい。

 焼きたてのアップルパイもいただくことにし、ナイフで切り分けてフォークで口に運んだ。


 バターが香るサクサクのパイ生地に、とろーり甘酸っぱいリンゴがたまらない美味しさ。

 なかなか大きめだったけど、難なくぺろりと食べきれた。


「本当に美味しかったです。ダグラスのチーズタルトはどうでしたか?」

「甘さ控えめでレモン風味が爽やかでした。今まで食べた中で一番です」


 おお、公爵家の人間から今までで一番という言葉が出るなんて凄い。


 なかなかの人気店のようで、私達が座って食べている間に、お客さんがどんどんやってきた。


 カウンターにずらりと並んでいた焼き菓子は、勢いよく減っていった。

 私達はすごく良いタイミングでここに来れたようだ。


「ごちそうさまでした」

「また来ますね」

「はい! いつでもお待ちしています!」


 持ち帰り用にクッキーやマドレーヌなどをいくつか購入して、店を後にした。


「素敵なお店に出会えましたね。レイが好きだったものを一緒に食べられて嬉しかったです」

「うん、まさか料理長に再会できるなんて、思いもしなかった」


 レイヴィスはとても幸せそうな顔をしている。

 お腹も心も満たされて、私も温かな気持ちになった。


 その後も町外れを散策し、小さな雑貨屋やガラス細工のお店などを見て回った。



「さて、そろそろ帰りましょうか」

「そうだね」


 名残惜しいが、暗くなる前に寮に帰らなければいけない。


 もうすでに次のお出かけが待ち遠しくて、日が傾きかけた空をもの寂しい気持ちで見ながら、学園の方へと歩いて行く。


 すると、前から王立騎士団の団員が走ってきた。


 険しい顔で私たちの横を通りすぎると、また前から数人が走ってくる。

 何やらただ事ではなさそう。

 ダグラスが彼らの足を止めさせて、事情を聞く。


「魔物の襲撃です! 何者かが魔物の呼び笛を使用したようで……!」

「魔の森周辺を巡回していた者から、数十体がこちらに向かってきているとの伝令が来ました。では!」


 早口で説明を終えると、騎士達は走り去って行った。

 ここ数年、王都でも魔物の襲撃が頻繁に起きるようになったという。

 王立騎士団は常に襲撃に備える日々を送っているようだ。


 せっかく楽しい気分で一日を終えたかったのに。

 気分が急降下していき、ふつふつと怒りがわいてくる。


「…………ダグラス、いいですか?」

「ダメと言っても無駄でしょう。少しでも危険と判断したら止めますから」

「分かりました」


 さすがダグラス。私の気持ちを一番に考えてくれる。


「楽しい気分を台無しにされちゃったし、スッキリさせに行こっか」

「はいっ!」


 レイヴィスも同じ気持ちだったようで、ちょっと嬉しくなった。


 三人で騎士達の後を追いかけ、町を出て草原までやって来た。

 前方、遠くの方から黒い生き物の群れが向かってくるのを確認できた。全て魔物だ。


 小型と中型が合わせて三十体ほど。大型は五体だ。


 王立騎士団の団員は十五名で、人数的にはずいぶん余裕がある。

 後からまた応援が来るかもしれないが、その前に片がつく。


 ダグラスが騎士団の人達に、私達も戦いに参加することを申し出た。

 彼らは一斉にこちらを向いて、『何言ってんだ?』というような顔をした。

 私とレイヴィスは私服姿なので無理はない。


「何があってもお守りできません。この場に留まるのでしたら自己責任でお願いしますっ!」


 そう言い捨てて、彼らは魔物の方に向き直した。

 もう目の前まで魔物が迫っているため、こちらにかまっている余裕はなさそうだ。


 一緒に戦うことを禁止されたわけではないので、彼らの邪魔にならなければ好きにしていい。そう解釈する。


 それではお言葉に甘えさせていただこう。


 レイヴィスと顔を見合わせてニヤリと笑った。


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