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護衛がつきました

 魔力覚醒の儀式から三日後。

 ずっと留守にしていた両親が公務から帰ってきた。


 居間にて、王都土産の焼き菓子を前に久しぶりの家族団欒をしながら、二人に覚醒した自分の力を報告する。


「まさか癒しの力だとはな。さすがに驚いたぞ」

「本当にすごいわ。願っていたものじゃなかったみたいだけど、素敵な力じゃない」 

「聖女様と言われてしまったのですが、私は教会に属さないといけないのでしょうか? 私は騎士になりたいのです」


 朗らかに話す二人に私は真剣な顔で詰め寄った。


「大丈夫だ、リアーナ。お前はお前の進みたい道に進めばいい。邪魔をする者たちは俺が相手をしてやろう」

「そうね、誰にも文句は言わせないわ。邪魔をしてきたら血祭りにあげましょう」


 穏やかな表情はそのままに、二人はそこはかとない圧を発した。

 気弱な人間ならその場にへたりこんでしまうような圧だ。


 両親が味方になってくれること以上に心強いことなんてない。そう、たとえ王が敵に回ったとしても。

 この国の王様が敵になるなんてことは、絶対にないと断言できるが。


「ありがとうございます。これからも日々精進いたします」

「相変わらず堅苦しいなぁ、お前」

「兄様は適当すぎるのでもう少しちゃんとしてくださいね。私はこれぐらいで丁度いいのですよ」

「ははっ、なんだそれ」


 隣でソファーの背にもたれ掛かりながら、兄は気だるげに笑う。

 辺境伯領の次期領主になるはずの兄は、少し……ではなく、とても自由奔放で適当な性格である。

 その上がさつでデリカシーが無いとか、終わってる。

 将来に不安しかない。


「リアーナの言うとおりだぞ。マーロウはもう少ししっかりしてもらわないと。王都に行ったら真面目に勉学に励むんだぞ。くれぐれもやらかさないようにな」

「そうね。次期領主としての自覚は持ってもらわないと」

「えー? 俺、外ではちゃんとやってるだろ? だから大丈夫だってー!」


 両親の小言にも兄は軽い言葉で返した。

 彼は半年後、王都にある王立学園に入学することになっている。

 ここから通うことは無理なので、学生寮に住む予定だ。


 確かに兄は屋敷の敷地外では、『あなたは誰ですか?』という風な優雅な立ち振舞いの貴公子へと変身する。


 その時だけは兄を尊敬するのだが、あくまでもその時だけ。

 外面を三年間維持し続けられるなら大丈夫だとは思うが、不安は尽きない。


 私も数年後には学園に通うことになるのだから、『あの子あいつの妹なんだぜ』『うわぁ、マジかよ』などと噂されるようなことだけはしないでほしいと切実に願う。

 




  * * *





 私が光の女神の聖なる加護の力に目覚めてから五日後。

 教会からの使者が我が家を訪れた。

 私を聖女として王城に招き、そのまま大事に囲いたいという。

 王命である。


 もちろん父は断った。王命を断るなんてどうかしていると使者は言ったが、それができるのが私の父だ。

 国の英雄であり、王のマブダチである父には王命なんてくそ食らえである。


 王も『どうせ断るよねー』という軽い感じなので問題はない。

 とりあえず教会に頼まれたから形だけでもとって、ちゃんとしたからね! というアピールをしただけのようだ。


 ただ、国にとって貴重な存在であることには変わらないので、護衛をつけて身の安全にはくれぐれも気を付けるようにとのお達しがあった。


 そういうわけで、私には護衛がついた。


 ダグラスという黒髪で金色の瞳のすごく背の高い騎士だ。

 射殺せそうなほどの鋭い眼光で、見た目だけでもう護衛として申し分ない。

 常に無表情で口数は少ないけれど、辺境伯家の騎士団の中でも特に信頼できる人だ。


 彼は五年前、王立学園を卒業後すぐに辺境伯領へとやって来た。

 彼にとって私の父は憧れの存在らしい。




「ダグラス、今日の鍛練では相手をしてもらえますか?」

「本気でですか?」

「あなたに本気を出されたら私死んじゃうでしょう。護衛対象を殺してどうするんですか。骨が折れない程度でお願いしますね」

「了解しました」


 手合わせの許可をもらえたので、自室に行って騎士見習い服にさっと着替える。

 鍛練場へと向かうため廊下を歩いていると、困り顔でうろうろとしている男性を見つけた。

 兄の家庭教師をしている気の毒な人である。


「シモンズ先生」

「あっ、リアーナ様、マーロウ様をお見かけしませんでしたか? 部屋にはご不在でして……」

「おそらく鍛練場ですね。声をかけておきますので、先生はラウンジでお待ちください」

「恐縮です……」


 先生をラウンジへとお連れして、メイドのミリアに先生を託した。

 

 鍛練場に行くと、兄は騎士二人を相手に二刀流で打ち合いをしていた。

 倍ほどの体格差のある騎士二人を相手に軽々と相手をしている。

 攻撃はまともに受け止めずに避けるか受け流し続け、ひたすら翻弄していく。

 そして相手の隙をついて、確実に急所への一撃。


(ムカつくけど本当にすごい。私もあんな風に動けるようになりたいな……)


 腹立たしいほどの実力を兄は持っていて、羨まずにはいられない。

 打ち合いが終わるまで待って声をかける。

 

「兄様! シモンズ先生を困らせてはいけませんよ」

「えー……だってさぁ、いっつも前回のおさらいだとか言ってテストさせるんだぜ? そんなのいらないっつーの。一回習ったら覚えるから次に進んでいいって言ってるのにさぁ」

「そんなこと言わないで行ってあげてください。あと少しの付き合いなんですから」

「あーもう、わかったよ」


 兄は不貞腐れた顔をして渋々といった感じだが、素直に屋敷へと戻って行った。


 頭がいいバカほど迷惑なものはない。

 脳みその無駄遣いも甚だしく、半分寄越せと言いたいくらいだ。


 さて、鍛練を始めることにしよう。


 私は準備運動をしてから、木剣でダグラスと打ち合いを始めた。

 

 男の人にはどうやっても力では敵わないので、私も兄のように受け流すスタイルだ。

 でも私はまだ兄のようにうまくはできないので、何度も何度も吹き飛ばされる。


 今の私の目標は、手加減をした彼とまともに打ち合えるようになること。

 先はまだまだ長そうだけれど、精進あるのみである。



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『聖なる加護持ち令嬢は、騎士を目指しているので聖女にはなりません。』コミカライズ連載中です

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・母の「邪魔をしてきたら血祭りにあげましょう」 [一言] 家族全員が脳筋? それとも戦闘能力がすごすぎて、ほかの能力が見えづらいだけ?
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