リアーナの噂
あらすじ、人物紹介を追加しました。
入学してからずっと、そこかしこでリアーナの噂を耳にしている。
男子生徒が主に言っていることはこうだ。
氷の貴公子の妹は月の妖精だった。美しすぎる。
聖女様にお近づきになりたいのに王家の瞳を持つ護衛が怖すぎて近付けない。
それにしても、公爵様の弟が護衛だなんてさすが聖女様。
完璧そうに見えるのにBクラスなんだ。Bクラスの奴羨ましすぎる。
歌声まで天使らしい。
何で男子は声楽の授業を受けられないんだ。
剣術の授業では見惚れるほど強くて格好よく、講師も教えることがないらしい。
その他にも噂は絶えない。
うん、想定内だ。
来年からは、意図的にBクラスになる人が増えるだろう。
次の進級前の実力テストは、リアーナにはもう少し頑張ってもらって、同じAクラスになってもらおうか。
……いや、それは無理か。
いっそのこと、一緒にCクラスになるという手もある。
それはまた進級前に考えることにする。
リアーナの歌声は俺も聞きたい。
上機嫌になるとたまに出る鼻歌でさえすごく可愛いんだから、ちゃんと歌ったら堪らないだろう。
女生徒からはひたすら憧れの声が聞こえてくる。もはや、やっかむ気すらおきないようだ。
一人だけ、あからさまに敵意を抱いてる人がいるが、エヴァンズ辺境伯家の息女に面と向かって文句を言うことはさすがにできないようだ。
当主様とダグラスさんの存在の有り難みをひしひしと感じる。
ダグラスさんにはこれからも睨みをきかせ続けて欲しい。
今日はリアーナと一緒に鍛練場へ行く予定だった。
しかし、アーネット侯爵令嬢の誘いを断りきれず、結局お茶会への参加を承諾することになった。
リアーナに伝えて、一緒に正面玄関へと歩いて行くと、前からルーディさんがやって来た。
彼はリアーナに一緒に出掛けようと誘い、彼女はそれを承諾した。
何てことだ。
彼女はまだ、王都の町を観光したことがない。
初めてのお出掛けは俺が一緒に行きたかったのに、ルーディさんに先を越されることになるなんて……
* * *
「リア、おはよう」
「おはようございます」
翌日の朝。
リアーナと話せる貴重な時間で、昼休みまでの癒しを補給する。
昨日はアーネットさんの自分アピールをひたすら聞かされて、うんざりしながら笑顔を作り続けた。
時折ふとリアーナとルーディさんのことを考えてはモヤモヤして、ルーディさんを頭の中で何度も何度も抹殺した。
精神的にどっと疲れた。
「昨日は楽しかった?」
本当は聞きたくないけど、聞かなくても結局気になってモヤモヤしてしまう。
「はい! ルーディ様は力強くて頑丈で、投げがいがあって楽しかったです」
リアーナは何ともスッキリした顔をしている。
よく分からない返事がきたけど、一体何の話をしているんだろう。
「投げがいって何のこと? 町に遊びに行ったんだよね?」
「行ってませんよ。鍛練場に行って手合わせしました」
「鍛練場?」
え? 何で鍛練場?
理由を聞くと、リアーナは周りの目とひそひそ声にうんざりしていて、ストレスが溜まっていたらしい。
俺と鍛練することを楽しみにしていたのに行けなくなったストレスも合わせて、ルーディさんに思う存分ぶつけたようだ。
「そっか……」
ルーディさんは、リアーナにとってはただのサンドバッグのような存在らしい。
魔の森に引き続き、またリアーナの初めての相手になったと思っていたから、ずっと殺意がわいていた。
安心して胸を撫で下ろしていたら、リアーナは俯きがちにこちらを見た。
「えっと……それにですね、王都の町に遊びに行く初めての相手は、レイがいいので……」
恥ずかしそうにそんなかわいいことを言われると、たまらないんだけど。
「そっか、嬉しい。俺も楽しみなんだ」
「えへへ……」
頬を染めながらはにかむ姿がかわいすぎて、抱きしめたくて仕方がない。
本当に勘弁して欲しい。
リアーナが素直な気持ちを恥ずかしがりながら伝えてくれるようになって、嬉しいんだけど、嬉しすぎてつらい。
いつまで耐えられるだろうか。
ダグラスさんの存在は、俺のストッパーの役割も担っている。
リアーナと別れて教室に向かった。
席に着くとさっそく女生徒に群がられてしまった。
せっかく朝から癒されたのに。
義父さんに迷惑をかけたくないので、印象が悪くなるような態度はとれない。
無心で笑顔で丁寧に対応することを心がける。
しばらく話をして、彼女たちは化粧室に集団で向かった。
ようやく解放されたけど、一部の男子生徒から恨みがましい視線を向けられる。
俺はリアーナと一緒にいることが多いから、それも相まってもはや殺気だ。
『オルコット侯爵の養子はどうしてあの子と一緒にいるんだ。まじウザイ、死ね』
陰でそう言われる始末。でもその気持ちは分かる。
昔と違うことと言えば、直接嫌味を言われなくなったことだ。
今、俺に殺気を向けている伯爵家の子息達は、昔はよくネチネチ嫌みを言ってきた。
養子とはいえ、侯爵家の息子となった今の俺にはさすがに面と向かって文句を言えないようだ。
ぐったりとしながら机の上で頭を抱えていると、誰かに肩をぽんっとされた。
「おはよう、朝から疲れているね」
「……おはようございます殿下。もう帰りたいです」
「ははっ、まぁ頑張りたまえ」
朝から美麗な王子スマイルが眩しい。
このクラスには類い稀なる美貌を持つウィルフレッド殿下がいるけれど、彼には二年生に婚約者がいるらしく、彼に言い寄る女生徒はいない。
側近候補になりたい男子生徒からのアピールはあるようだけど。
婚約者ガードが羨ましすぎる。
俺も婚約者が欲しいな……
もちろん相手はリアーナじゃないと嫌だけど。
殿下と話をしていると、ふと違和感を覚えた。
まとわりつくような嫌な感じ。これは誰かの魔力だろうか。
近くに漂う魔力を少しだけ奪ってみる。
吸収したものは音の魔力だった。
遠くにいる人に音を届けたり、離れた所の会話を聞くことのできる力。
つまり、誰かが俺達の会話を盗聴しているということ。
何のためだろう。
理由は分からないけれど、警戒した方がいいことは確かだ。
学園内ではうかつな会話もできないらしい。
本当に疲れる。
俺が音の魔力に気づいた後、殿下の表情が少し硬くなった。
彼も何かに気づいたのだろうか。
王族の持つ力は秘匿されているので、一部の限られた人間しか殿下の能力を知らない。
危険を察知する能力や、自衛に役立つ能力だったらいいのにな。
学園内も安全とは言えなさそうだから。





