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筋肉に夢中

流血はないけど残酷描写は少々あり。




 学園生活三日目の放課後。

 ようやく王立騎士団が所有する鍛練場へ行くことになった。


 早く体を動かしたくてうずうずする。


 学園から歩いて十数分の距離にあるらしく、ダグラス、レイヴィスと共に向かった。

 町の中心地から遠ざかって行くので、歩き進めるにつれてどんどんと人通りは少なくなっていく。


 それでもひしひし感じる道行く人達からの視線。

 王都では黒色と紺色の騎士服を着ている者は私達しかいないのでしょうがない。

 もう諦めの境地である。


 鍛練場に着きさえすれば、この視線から解放される……!

 そう思いながらも、ちょっとした違和感を感じながら歩いていく。


 もうすぐ到着かなという所、人気の無い道にさしかかる。それなのに無くならない気配。

 やっぱりつけられているようだ。それに結構な人数がいそう。


(くそう、ここに来て邪魔が入るなんて!)


 もうすぐ着くというのに。


「それでは、片付けてきます」


 ダグラスはそう言ってすぐに、腰の剣を抜いた。


「お願いします」


 私とレイヴィスは光の膜を張り、ダグラスとできるだけ距離をとる。

 巻き込まれてはたまらない。


「っっそ、いくぞ野郎ども!」

「死ねやクソがァァァ」

「くたばれや!」


 潜んでいた者達はこちらに気づかれた事を察し、一斉に襲いかかってきた。

 三十人以上はいそうだが、寄せ集めのごろつき集団に見える。そしてガラが悪い。


 パッと見た感じ、誰一人として強くは無さそうだ。

 私の方に向かってきても難なく対処できそうだけど。ダグラスはそんなことを許さない。


 手を出したら後で怒られるので、じっと我慢だ。


 一人たりとも私に近づけること無く最速で処理をするダグラスの動きは閃光のよう。

 一撃で仕留めることだけに集中し剣を振る。


 防御は一切しない。敵の魔法攻撃も刃も、いくらその身に受けようが止まらない。

 それでも心配は無用で、敵の刃はダグラスに当たるとガキンという音と共に弾かれ、欠けていく。


「相変わらず凄いね。どうやったらあんな動きができるんだろ」

「本当ですね。憧れます」


 レイヴィスと興奮しながら眺める。


 全員が地に伏して動かなくなるまで一分もかからなかった。

 うめき声すら聞こえてこない。


 全て剣の平らな部分で打ち付けたようで、大きな出血も見当たらないから全員かろうじて生きていそう。


(いや、何回かミシッとかゴキンとか聞こえたな……)


 以前はもれなく血の海に沈んでいた。

 全員首も胴体も繋がったままだなんて、ダグラスも優しくなったな。


 以前、その場に居合わせた子供を泣かせてしまったことが余程堪えたようだ。


 お片付け終了を確認すると、光の膜を解除し、ダグラスの元へと駆け寄った。


「お疲れさまです。怪我は……ありませんね」

「もちろんです」


 黒色の騎士服は所々がスパッと切れたり、焼けたり。本来ならかなりの出血を伴った傷をいくつも負っているはずの有り様だ。


 だけど、彼にはかすり傷ひとつ付くことはない。


 魔力を発動させたその身体は、鋼のように硬く強靭になり、並大抵の攻撃ではびくともしない。


 ダグラスの硬化魔法を見たのは久しぶりだった。

 さすが王都、襲撃人数も辺境の比ではなくて、護衛の大事さを実感する。


 襲撃者達を王立騎士団に引き渡してから、やっと鍛練場に辿り着いた。


 ダグラスの言っていた通り、鍛練場は荒れに荒れていた。

 地面はひび割れ、所々がでこぼこしている。


「土の魔力は沢山あるし、綺麗にならそうか?」


 レイヴィスの申し出にしばし考える。


「しばらくこのままでいきませんか? 足場が悪い場所での戦いの訓練になりますし」

「そっか、そうだね」


 準備運動をして軽く走ってから、ダグラスとレイヴィスと交代で木剣で手合わせをした。

 ここ数日でストレスがすごく溜まっていたから、おもいきり体を動かすのが楽しい。


 しばらく打ち合った後は、レイヴィスと組み手をすることにした。


「本気できてくださいね!」

「……うん」


 そう言いつつ、その顔は浮かない表情。

 本気を出すことを躊躇っている。


 ムッとなった私が先に仕掛けていく。

 突きは全て彼の手のひらに綺麗に収まっていき、蹴りは彼の手や腕によって衝撃を全て受け止められる。私に反動はなく、その優しさがもどかしい。


 むむむ……


「レイっ! 投げ飛ばしてくれていいのですよ。本気でやらないと鍛練にならないでしょう」

「ちゃんと本気で受け止めてるからさ、それで許して」


 困った笑顔でそう言われてしまい、更にむむむっとなる。


「レイからの攻撃がほとんどないのですが。あっても私が必ず受け流せるタイミングを狙ってますよね?」

「そんなことは……」

「ありますよね!?」


 じりじりにじみ寄る。

 じとーっと見つめるとふいっと目を逸らされて、負けじと更ににじみ寄る。 レイヴィスはくるりと後ろを向いた。


 逃がすか!

 追いかけようとして、足場が悪いことをすっかり忘れていた。


「わっ」

「おっと」


 地面の穴に足を取られ、そのまま前に倒れ込む。

 すぐに振り返ったレイヴィスに抱き止められた。


 両肩を彼の両手によってしっかりと支えられる。何だろう、このすっぽりと収まった感は。


 辺境伯家で一緒にダンスレッスンを受けている時にも思っていたが、本当に逞しくなったな。


 ふいに手を伸ばし、目の前の胸板に触れてみた。

 ……うん、いい手触りだ。


 やっぱり、細身なのに筋肉はしっかり付いているようだ。


「いいなぁ……筋肉」


 本当なら、私も今ごろはこんな感じだったのかな。


 しみじみ思いながら、しばらく感触を確かめる。

 私には無い硬さだ。

 いいな……羨ましい。


 すごい、腕もがっしりしてる。

 いいなぁ……

 

 わぁ、お腹もいい感触だ。

 どれだけ割れてるんだろ。見たいな。頼んだら見せてくれるかな。


 おしりはどうなんだろう。後ろに手を伸ばす。


 

「……リア、その辺で勘弁して……」

「え?」


 か細い声が聞こえて見上げたら、レイヴィスの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。


 私はおしりを確かめようと伸ばした手を引っ込める。


「えっと……ごめんなさい」


「……うん」



 どうしよう。やってしまった。

 勝手に体を触りまくり、おしりまで触ろうとするなんて。

 ただの変態ではないか。


 恥ずかしくて、熱くなってきた顔を手で覆った。


「気にしてないから大丈夫だよ。筋肉を触りたかっただけだよね」

「……そうです。勝手に触って本当にごめんなさい。お詫びに私の━━」

「待って! ダメだから! それ以上は言っちゃダメだから! 本当に気にしてないから」

「でも……」

「だからさ、俺のことも許してくれるかな?」

「俺のこと?」


 ……あぁ、そうか。

 彼が私に本気を出してくれないことを問い詰めていたのだった。

 筋肉に夢中で忘れていた。


「私は怪我をしても癒せます。なぜそんなに本気で相手をするのが嫌なのですか」

「ごめん。本気でやらないとリアに失礼だってことは分かってるんだ。癒せるから大丈夫だってことも分かってる……でも、どうしても君に怪我をさせたくなくて……」


 なるほど。本当に優しいな。

 そんな辛そうな顔で言われてしまうと、もうダメだとは言えない。

 

「分かりました。ダグラスに相手をしてもらえますし、もうそれでいいです」

「本当に!? ありがとう!」


 はじける笑顔でなぜかお礼を言われてしまった。

 そうか、そんなに嬉しいんだ。


 そんなに私のことを大事に思ってくれているなんて。

 嬉しくて、やるせない気持ちはどこかへ吹き飛んでしまった。


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『聖なる加護持ち令嬢は、騎士を目指しているので聖女にはなりません。』コミカライズ連載中です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 襲撃が「良いなぁ……筋肉」と、それに続く破廉恥行為で全部上書きされました。 脳筋の残念美少女は良いですね。
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