同じクラスにいたなんて
学園生活二日目が始まった。
女子寮まで迎えに来てくれたダグラスと共に校舎の方へと歩いて行き、途中でレイヴィスと合流した。
エドガーさんに付き合わされてげっそりしてるかと思ったけれど、いつも通りの爽やかさだ。
「おはようございます。昨日はどうでしたか」
「おはよう。風魔法を使っただけだから、三十分くらいで解放してもらえたよ。クロムウェル先生の授業を選択する予定だし、学園内でいつでも会えるしね。先生とはホールの外で話してたから、他の人に絡まれる前に帰れたよ」
「そうですか。それは良かったです」
そうか。他者の魔法を吸い込む力を知られたわけではない。
それにしても先生か。そう言えばここではエドガーさんは私にとっても先生だ。
今日から私もクロムウェル先生と呼ぶことにした。
「先生にレイが魔法を吸い込めることを知られたら、満足するまでつきまとわれたり拘束されたりすると思います」
「俺も何となくそう思ったから黙っておいたよ。でもこの学園では人目につく所では土魔法を使う予定だから、いつかはバレるかな……」
そう言えば、入学式が始まるまで仮眠をとっていたとき、起きたら目の前に土の壁があった。
目撃した生徒がいるはずなので、レイヴィスは土の魔力を持っていると思われているだろう。
クロムウェル先生は魔力を感知できる玉を持っているので、誤魔化すことはできない。
昨日はレイヴィスが操っていた風を辿ってきたようだ。
「その時は諦めて付き合うしかありません」
「うん……」
「そう言えば、殿下達とはもうお話ししましたか?」
「あー……実はまだなんだ。教室では身動きが取れなくて挨拶に行けなくて、パーティーでは殿下達が囲まれてて近づけなかったし。でもさ、自己紹介の時に王女殿下はいなかったんだ。欠席してたのかな」
「そうでしたか。急用があったのかもしれませんね。今日は挨拶できるといいですね」
「うん、さすがに今日はしたい」
私もできれば今日したいので、会えるタイミングがあることを願う。
途中でレイヴィスと別れ、自分のクラスへ向かった。
教室に入り軽く挨拶を済ませて、自分の席に座った。
今日もやっぱりひそひそ声が聞こえる。
どんな噂をされているのかな。
(普通に話しかけてくれたらいいのに……もう帰りたくなってきた……)
憂鬱になっていたら、後ろから声をかけられた。
「あっ……あの、エヴァンズさんっ……おっ、おおおはよう、ございます……」
先ほど教室に入ってきた女生徒が、消え入りそうなたどたどしい声で挨拶をしてきた。
小柄な少女で、小さく震える姿は小動物を思わせる。
きっちり左右に分けて三つ編みにした赤茶色の髪に長めの前髪。丸い黒縁眼鏡の奥の緑色の瞳は揺れている。
「おはようございます。あなたは……ティナさんですよね?」
「はわっ、はいぃ。そうです……覚えていてくださいましたか……」
後ろの席にいたのは、ミリアの妹のティナさんだった。
数年前のミリアの結婚式で一度会い、挨拶しただけの関係で、ミリアからは『妹と接する機会があれば仲良くしてあげてほしい』と言われていた。
まさか、後ろの席だったとは。
「昨日は気づきませんでした。声をかけてくださったら良かったのに」
「はわわっ、すみません……その、恥ずかしくてですね……」
ティナさんは両手で顔を覆ってしまい、耳まで真っ赤になった。
恥ずかしがり屋だと聞いていたが、本当のようだ。
「知り合いがいて安心しました。よろしくお願いします」
「はっ、はい……こちらこそ、よろしくお願いいたします……!」
指の隙間から覗く上目遣いにキュンとなる。
これはたまらない。
真ん丸な大きな瞳でミリアによく似た可愛らしい子だ。
しばらく二人で話をしていると、背後に気配を感じた。
後ろを見上げると、お人形のような少女がいた。
ふわふわと柔らかそうな金色の髪に金色の瞳で、とにかく美しい。
「ごきげんよう」
小さな口から発せられた声は何とも可憐で、胸を撃ち抜かれた。キュンとしながら立ち上がり挨拶を返す。
「おはようございます」
「お……おはようございます」
ティナさんも立ち上がり頭を下げた。
この容姿だ。この方は王女殿下で間違いなさそう。
「王女殿下、Aクラスからご挨拶に来てくださったのですか?」
そう尋ねると、殿下はふわりと上品に笑った。本当にお人形のように綺麗だ。
「ふふっ、あなた昨日の自己紹介を聞いていなかったわね」
「え? ……そうですね。考えごとをしていたので全く聞いていませんでした」
自己紹介は一番左前の私の席からだったから、自分の挨拶を済ませた後は全く聞いていない。
どこで鍛練したらいいのかと、そのことで頭がいっぱいだった。
「わたくし、このクラスの一員なのよ」
「ええっ!? そうなのですか?」
本当に? え、何で??
「それじゃ改めて自己紹介するわ。ローズマリー・ガルバシアよ、よろしくね。昨日挨拶しようと思っていたのに、あなたさっさと帰ってしまうんだもの、ふふっ」
「本当に申し訳ございません……リアーナ・エヴァンズです。よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる。
まさか昨日から同じ教室にいるなんて、思ってもみなかった。
「同じクラスになれて嬉しいわ。ずっとお会いしたかったの。あなたのことはよく聞いていたのよ」
よく聞いていたというのは、陛下からだろう。
執務を放り出してきたことを叱られたとか睨まれたとか、そんな話だろうか。
ちょっと気まずい。
しかし、そもそもどうして王女殿下がこのクラスにいるのだろう。
「ローズマリー様、陛下からとても優秀だとお聞きしていましたが、なぜBクラスにいらっしゃるのですか?」
失礼かと思いつつ、事前情報との差異が気になるので小さめの声で尋ねる。
ローズマリー様は悪そうな笑みを浮かべて、私達二人の耳元で囁いた。
「ふふっ、そんなのAクラスが嫌だからに決まっているでしょう。あなたもそうでしょう、シャーリーさん」
「はわっ、ななななっ、どっ、どどどうしてっ、そそっそれをっっ……」
急に話を振られたティナさんが尋常じゃない程狼狽えた。
どういうことだ。
Aクラスが嫌だからBクラスに入れるように、実力テストの手を抜いたってことだろうか。
しかも二人とも。
私なんて全力で挑んだのに……!
「ふふっ、あなたが優秀なことは知っているわ」
「うぅ……身に余るお言葉です……」
衝撃の事実にショックを受けているうちにベルが鳴り、教師が入ってきた。
初日の初っぱなから、私が一番苦手な数学の授業だ。
家庭教師から学んだ範囲内なので、まだ何とか理解できる。
教科書の後半からは、もう未知の領域だ。
初等学校のときのように、授業中に当てられたり、前に出て問題を解かされたりしないことがせめてもの救いである。
休み時間になると、またローズマリー様が私の席までやって来て、ティナさんと三人でお話をした。
仲よくなれそうな人ができて、ちょっと嬉しくなった。





