選びようがない
昼食をとり終えて、三人でまたラウンジへ戻ってきた。
私は教師から渡された書類を机の上に取り出し、そして悩む。
「選択授業は何にしましょう……」
この書類は明後日までに提出しなければいけない。
剣術、魔法原理学は絶対に取るとして、後はどうしようか。
「レイは決めていますか?」
「俺は、紙を受け取って目を通した時に決めたよ」
「さすがですね」
レイヴィスは、剣術、魔法原理学、経済学、統計学に決めたようだ。
オルコット侯爵の跡を継ぐことは考えていないけれど、将来どうなるかなんてまだ分からない。
知識だけでも備えておきたいそうだ。
私は女子力を上げたいという目標を掲げてはみたが、裁縫、刺繍はどう頑張っても血塗れの作品が出来上がるのでダメだ。
料理はそもそも選択肢にすら無かった。そりゃそうだ、貴族は自分で料理しない。
ダンスはなぜかレイヴィスにやめてと言われた。理由は教えてくれなかったけど。
どちらにせよダンスは講師から褒められていたから、わざわざ授業で習うつもりはない。
そもそもパーティーで踊る気などない。
淑女講習は女子力向上に一番適していると分かっているが、遠慮させてもらいたい。
そもそも剣術を選択する時点でもう淑女ではない。
(あっ、声楽か……)
美しい歌声になれたら素敵だ。女子力向上につながる気がする。うん、そういう事にしよう。
歌は苦手だから、克服するのにも丁度いい。
紙とにらめっこしながら、うんうん考える。
そもそもの思考回路が女子力から遠い気がして、女子力って何だろうと考えていたら、テーブルにコトンとグラスが置かれた。
いつの間にかレイヴィスが飲み物を取りに行ってくれていたようだ。
「リア、アイスレモンティーで良かった?」
アイスレモンティーは、考えが煮詰まった時にいつも飲みたくなるものだ。
「ありがとうございます。ちょうど飲みたいと思っていました」
「どういたしまして」
爽やか笑顔でさらっとこなす気配り。さすがだ。
彼を越える女子力を身に付けられる気がしない。
女子力向上、もう諦めていいかな。
* * *
学園の敷地内、校舎から歩いて数分の距離にある女子寮に到着した。
二階建ての白い建物だ。
王都にある屋敷や別宅から馬車で学園に通う人が殆どなので、寮生活をする貴族なんて本当に少数らしい。
私は今日から三年間ここで暮らす。
男子禁制なので、ダグラスとは入り口で別れた。
男子寮は校舎を挟んだ反対側にあり、ダグラスとレイヴィスはそこで生活する。
ダグラスはすぐ近くに実家があるのに、世話にならないそうだ。
できる限り私の近くで待機していたいと言う。真面目だ。
寮には使用人が数名いて、炊事洗濯掃除の他にも、様々なことを申し付けたら承ってくれる、メイドのような役割をしてくれる。
パーティーでドレスを着る必要がある時など、一人で準備ができない時に手を借りることになる。
使用人の一人に私が使う部屋へ案内された。
中を一緒に確認し、簡単に説明をうけた。
部屋の隅には、事前に送りつけた荷物の箱が積まれている。
「荷物整理のお手伝いはいかがいたしましょう?」
「必要ありません。もう下がっていただいて結構です」
「かしこまりました。何かございましたらいつでもお呼びください。ではこれで失礼いたします」
使用人は部屋から出て行った。
思っていたよりずっと広い部屋を見渡す。
居間、寝室、簡易キッチン、浴室、洗面所、トイレなど、生活に必要な設備は全て整っている。
家具はもちろん、布団やタオルなども学園側が揃えてくれている。
すぐに快適に過ごせる状態だ。
今日は夕方から入学記念パーティーがある。
寮の使用人には、ドレスの着付けに化粧、ヘアアレンジを頼んである。
不器用なので、自分ではポニーテールが精一杯だから。
まだまだ時間があるので、仮眠をとる前にさっと箱の中の荷物を片付けておこう。
ドレス数着はもうクローゼットに掛けてくれてあった。
学園ではことあるごとにパーティーが開催されるそうだ。面倒くさい。
両親からは、全部出席しなくていいとのお許しが出ているので、適当にサボりながらいこう。
本当は全部サボりたいけれど。
私服をチェストに仕舞い、ティーセットや日用品などを所定の位置へ置く。
筋トレ道具や木剣などはクローゼットの奥に入れておこう。
目につく所に置いては、使用人が掃除するときに困るだろう。
ベッドの上にお気に入りのクッションと二つのぬいぐるみを置いて、片付けは終了である。
最低限の私物しか持って来なかったからすぐに終わった。
さて、着付けの時間まで寝ることにしよう。
クッションを抱きしめながらベッドに寝ころんだ。
ここでは今までみたいに、思い立った時に鍛練場に行ったり、レイヴィスに会いに行ったりできない。
走りたくなっても、護衛のダグラスがいないとダメ。
レイヴィスの料理は食べられない。
勉強についていけるか不安だ。
「……あれ、いいこと全然ないな……」
食堂のご飯が美味しかったことがせめてもの救いだけど、学園での楽しいことが少しも思いつかない。
(帰りたいな……)
学園生活初日にして、ますます憂鬱になっていった。





