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入学

 王立高等学園。


 国内の貴族の子息子女は、十五になる年から三年間、通うことを義務付けられているそうだ。


 もし、クズ伯爵に捨てられることなく伯爵家の息子として今も育てられていたら、俺とリアーナはここで初めて出会っていたのだろう。


 俺は弱いままで、彼女と今のような関係には決してなれなかったはず。


 クズ伯爵には本当に心から感謝している。



 ***



 俺とリアーナは入学式に出席する為、学園の門をくぐった。


 リアーナの後ろに控えているのは、護衛のダグラスさん。

 黒髪に黒い騎士服、すごく背が高くて見るからに強そうなオーラを放つ。

 ひと睨みで相手を萎縮させる程の鋭い眼光で、護衛として頼もしすぎる存在だ。


 彼が睨みを効かせている限り、リアーナにちょっかいをかけようとする猛者はそうそう現れないだろう。


 安心しながら、全方向から向けられる視線を浴びて歩く。

 覚悟はしていたけど、俺たちが学園内に入った瞬間から視線が集まる一方。


 俺もダグラスさんも見られているみたいだけど、ほとんどの人達が見ているのは、俺の隣にいるリアーナのこと。


 彼女は今まで一度も辺境伯領から出たことが無いそうだから仕方ない。

 こんな美少女がいきなり現れたら、誰だって見るよね。


 頬を染める男子生徒も多く、それは仕方ないことだ。


 背中まであるさらさらの青みがかった銀色の髪は、神秘的な美しい輝きを放っている。

 長い睫毛に縁取られた薄紫色の瞳は、今日はなぜか少し伏し目がちで色っぽさを感じさせる。


(今日に限って何でそんな表情を……)


 お願いだからやめて欲しい。もしかして眠いのかな?


 標準より少し高めの背にすらりと長い手足、本当にスタイルが良く、学園の制服をこれでもかと言うくらいに着こなしている。


 リアーナはムキムキになることを夢見て頑張っていたのに、なぜかその体は本人の理想とは真逆へと成長していった。


 日を追うごとにどんどん女性らしくなっていく。可憐な少女はふとした瞬間に艶っぽさを見せるようになり、その何とも言えない危うさに俺を始めとする男たちは苦悩してきた。


 うん、本当に苦悩しっぱなしなんだ。本人は無自覚だから余計に。



 それにしても、どうして制服のスカートは膝下丈なんだろう。

 ドレスのように足首までしっかりと長さが必要だと俺は思う。


 リアーナの生足を見ている男子生徒の目を片っ端から潰していきたくて仕方がないけど、どうにか我慢している。


 それっぽい理由をつけて、明日から長い靴下を履いてもらおうかな。




「ねぇレイ、私は入学式の間起きていられる自信がありません……今すぐ寝たいほどです」


 そう言って、リアーナはすぐに口元を手で押さえた。

 あくびをなんとか閉じ込めたようだけど、長い睫毛は涙に濡れた。


 やっぱり、伏し目がちで口数も少なかったのは眠いからだったようだ。


「夜はちゃんと寝れなかったの?」

「同年代の人達の中で過ごすのは久しぶりなので、いろいろ考えていたら眠れなくなっちゃいまして……」

「そっか。式までまだ時間あるし、どこかで休もう。少し仮眠をとるだけでもスッキリすると思うよ」

「……そうですね。そうさせてもらいます」



 俺達は中庭の一番端にあるベンチに腰かけた。

 リアーナは余程眠かったのか、座ってすぐに目を閉じた。


 今は俺にもたれ掛かって、すーすー寝息をたてている。


 こんな無防備な姿、誰にも見せたくない。


 右手を地面に向けて、リアーナの前に土の壁を作った。

 土の魔力は辺境伯家の騎士だけでなく、当主様と騎士団長からも貰えた。

 しばらくは土魔法の使い手だと言って通用する程の魔力を保有している。


(よし、これで周りからは見えない)


 さっそく土の魔力が役立って、感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ダグラスさんが眉をひそめて、物言いたげな表情で見てくるけど気にしない。




 二十分ほど経った。

 そろそろホールに向かった方がよさそうな時間だ。リアーナを起こそう。


「リア、起きて」

「…………ん」


 リアーナはすぐ反応して、薄目を開けた。

 目をこすりながらぼーっとしていたけど、少し寝てスッキリしたのか、すぐにいつもの涼しげな表情になった。


「それじゃ、行こっか」

「はいっ!」


 リアーナは元気よく返事をして、花が咲くように微笑んだ。


 この笑顔をくもらせるような奴がいたら、誰だろうと俺は容赦はしない。



 ***



 新入生が集まる学園の大ホールへとやって来た。


 数分後に始まった入学式は、学園長の挨拶や学園の生徒としての心得などを長々と聞きながら淡々と進んでいく。


 そして、この国の第一王子が新入生代表として壇上に上がった。


 女生徒達から漏れでるため息があちこちから聞こえる。


 殿下はさっきまで俺の斜め前にいた人だ。

 後ろで一纏めにした艶やかな長い黒髪に、鮮やかな赤い瞳。

 これでもかと言うほど整った顔立ちで、男の俺ですら息を飲む程の美しさを持っている。


(リアーナもああいう感じの人を見ると頬を染めるのかな……)


 隣を見たら、リアーナの視線は殿下から少しずれた所にあった。


 真剣な表情で何かを見ている。

 視線の先を辿ると、そこには殿下の護衛らしき騎士の姿があった。

 王立騎士団の白い騎士服に身を包んだ、壮年の大柄な男性だ。


 リアーナの興味はやっぱりそっちなんだなと安心した。



 式が終わると、リアーナに声をかけた。


「リア、ずっと護衛騎士のこと見てたね」

「え? 何で知っているのですか?」

「リアのこと見てたからだよ」


 そう言うと、リアーナは頬を染めた。

 大勢の前でその表情をするのはやめてほしい。


「どれだけ強いんだろう。手合わせしたいなって思いながら見てました」

「やっぱり。でもさすがに殿下の護衛と手合わせは無理だろうね」

「……そうですね。残念です」


 リアーナは肩を落としてしゅんとなる。

 可哀想だけど、仕方ないことだから我慢してもらわないと。

 彼女は強くなるためには何をしでかすか分からないから。


「それじゃ、行こっか」

「はいっ」


 大ホールから出て校舎へと向かった。


 入学式が終わると、いよいよ学園生活が始まるんだな、という実感がわいてきた。


 正直、不安だらけだ。


 ここには二度と会いたくない人、会わなくて済むなら会いたくない人、そんな相手が沢山いる。


 心の中で何度もため息をついた。


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