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美味しいものと悩みごと

 今日はレイヴィスとダグラスと一緒に魔の森へやってきた。


 木々は紅葉し、木の実や果物が沢山実っている。この季節の彩り豊かな森が一番好きだ。


 いつものように散策しながら、たまに飛び出てくる魔物を仕留めていく。

 レイヴィスももう三回目の森なので、私と会話しながら軽々と魔物を倒している。


「今日はちょっと試してみたいことがあるんです」

「何するの?」

「えっとですね……」


 私は自分の体を包むように癒しの光の膜を張った。


「これで魔物の攻撃をどの程度防げるか試してみたいんです。ダグラス、いいですか?」

「まずは小型の魔物からにしてください。それなら万一怪我をしても大したダメージは負わないでしょう」

「分かりました!」


 やった、護衛の許可を得た。

 魔物に対して、私の守りの力がどの程度通用するか試せる時が来た。


「それでは、次に魔物が飛び出して来ても手を出さないでくださいね」

「うん、分かったよ」

「了解しました」


 湖の方へ歩き進めていくと、茂みからガサガサと音がした。

 私は体の周りに膜を張り、魔物が飛び出てくるのを待った。

 レイヴィスとダグラスは、私から少し離れた。


 すぐに一匹の小さな魔物が私を目掛けて勢いよく飛び出してきた。


(よし、来いっ!)


 さて、どうなるのか。わくわくする。



 ────ジュワッ


『ギシャアァッ』

「えっ!?」


 私の膜にぶつかった魔物は悲痛な叫びを上げ、慌てて逃げていった。

 私は両手を広げた格好のままポカンとなる。

 レイヴィスも目を丸くしながら私に近づいた。


「今の……」

「ダメージを受けてましたよね」

「うん」


 魔物は光の膜にぶつかったところが焼けただれていた。


「……魔物は癒しの属性に弱いのでしょうか?」

「そんなの聞いたことないけど、瘴気を浄化するイメージがあるよね」

「過去に存在した聖女様は皆、教会や王宮で囲われて大事に扱われていたようです。魔物と戦うことはなかったでしょう」

「……なるほど、そうですね」


 ダグラスの言葉に納得する。

 聖女様が戦いに参加しない限り、実証なんてできない。

 貴重な存在をわざわざ危険な魔物に近づけることはしなかっただろう。


 これは試してみる価値がありそうだ。

 

「次は、癒しの光を攻撃として飛ばしてみます」

「了解しました」


 また歩き出すと、すぐに前から魔物がやって来た。

 私は右手を前に出し、魔物を目掛けて癒しの光を矢のように放った。



 ────ドシュッ


『グギャアアァァァ』


 光の矢が脇腹に命中した魔物はのたうち回る。十数秒後に息絶えて動かなくなった。


「これは……すごいですね」


 いつも無表情なダグラスが目を目開いた。よほど衝撃的だったようだ。


「まさか攻撃に使えるなんて思ってもみなかったです」

「これだと間違って仲間に当たっても逆に癒してもらえてラッキーだよね」

「確かに!」


 魔物と人間が入り乱れる場でも気にせず魔法を使えるのはいい。 


 魔物限定だけれど思わぬ収穫があった。

 テンションが上がり、軽やかな足取りで歩き進める。


 ふと横を見ると、レイヴィスに慈愛に満ちた表情で見つめられていた。

 そこで、ふんふんと鼻歌を漏らしていたことに気づく。

 ちょっと恥ずかしくなって熱を帯びていく頬を両手で隠した。



 落ち着きを取り戻すと、綺麗に色づく木々を眺めて楽しんだ。

 真っ赤な葉が枝からヒラヒラと落ちてくる。

 一枚キャッチして日の光にかざしていたところで、前方から近づく魔物に気づいた。


 氷の息吹を吐く中型の魔物だ。


「あの魔物の氷、吸い込めるか試してみてもいい?」

「分かりました。念のため体に光の膜を張っておきますね」

「ありがとう」


 失敗しても焦らずに済むように、レイヴィスを光の膜で包んだ。 力を使うために両手だけ光で覆わずそのままにする。


 次は彼が力を試す番。魔物の力を吸い込むのは初めての試みである。


 彼は両手をそっと前に差し出した。


 目の前にまで近づいてきた魔物が大きく口を開ける。吐き出したのは広範囲に及ぶ氷の息吹。

 まともにくらうと氷漬けになり、しばらく動けなくなる。


 レイヴィスの斜め後ろ、私とダグラスがいる場所へも氷の息吹が迫りくる。

 でも私達の前には大きな光の盾を作ったので大丈夫。臆することなく見守った。


 氷の息吹は光の盾に当たることなく、途中で軌道を変えた。

 まるで誘導されるように、レイヴィスの手の中に吸い込まれていく。


 レイヴィスは氷の息吹を吸い込み終わると、魔物との間合いを一瞬で詰め、斬り倒した。


「さっき、氷の息吹の軌道が変わりましたよね」

「うん。ある程度の範囲なら、全て手の中に吸い込めるようになったんだ」

「わぁ……! それはすごいです」


 いつの間にそんな技術を身に付けていたんだ。

 よく騎士達の魔法を吸い込みながら手合わせをしていたから、その時に身に付けたのだろう。


 さすがだなぁ、すごいなぁ、と感心していると、レイヴィスの顔色がどんどん悪くなっていった。


「あー……やっぱり魔物が放った攻撃には瘴気が含まれているみたい。体が重くなってきた……」


 そう言って、レイヴィスは青い顔で座り込んでしまった。


「えっ? 早く体の外に出さないと!」

「うん……そうなんだけど、ちょっと待って。試したいことがあるんだ」


 そう言うと、レイヴィスはどうにか顔を上げて辺りを見回した。

 そして見つけた小型の魔物に、先ほど吸い込んだ氷の息吹をぶつける。

 ぶつけられた魔物は氷漬けになり動かなくなった。


「瘴気が含まれていても、ちゃんとダメージになるんだね」

「そのようですが、できるだけ魔物の攻撃は吸い込まないでください」

「わかった。切羽詰まった時だけにするよ」


 今はもう吸い込んだものを全て吐き出しているので、彼の顔色は元に戻った。 

 それでもレイヴィスの辛そうな姿は見たくない。



 それからは、茂みから飛び出してくる魔物は普通に剣で仕留めていった。


 そうして湖までやって来た。

 色とりどりな魔魚を眺めて楽しみ、森の幸を収穫しながら戻ることにした。


 森は寒い季節になると雪に閉ざされるので、しばらく立ち入れなくなる。

 




 * * *




 

 森にいった翌日。

 収穫した森の幸をふんだんに使って、レイヴィスが料理を作ってくれた。

 私とレイヴィス、ラナとマリーちゃんの四人でテーブルを囲んだ。


 きのこシチューにカボチャのキッシュ、木の実のパイ。パンもある。

 本当に何でも作れるようだ。


 学園に行ったら食べられなくなるんだなと嘆いていたら、沢山作ってくれた。

 そして、どれもこれもが本当に美味しい。美味しすぎて止まらない。

 とろーり、ほくほく、サクサク、ふんわり。無限ループである。


「おいしい……私、レイに出会ってから太ってしまいました……」


 レイヴィスの作るお菓子や料理をしっかり楽しんで、料理長の作る食事もきっちり食べている。どっちも美味しくて、やめられない止まらない。


 私の体は日頃のトレーニング量にしては筋肉量があまり多くない。

 本当ならもっとムキムキになっていてもいいはずなのに、至って標準体型だ。


 きっと聖なる光の力の影響だろう。

 こんな弊害が出るなんて予想外。

 私のムキムキボディになるという夢は幻に終わった。


「全然太ってないよ、女性らしくなっただけだと思うな。リアは出会った頃からずっと素敵だよ」

「……ありがとうございます」


 またさらっと爽やかな笑顔でそんなことを言う。

 他の人に言われたらぞわっとするだろうけど、レイヴィスに言われると素直に嬉しい。

 そして恥ずかしい。


 私もレイヴィスも同年代の女の子との付き合いがないから、私以外の人に甘い言葉を囁いているところは見たことがない。


 学園ではどうなるんだろう。

 レイヴィスがどのように振る舞おうと彼の自由だ。でも他の女性にも言っているところを想像すると、胸の奥がモヤリとした。


(それは嫌だな……)


 なぜか複雑な気持ちになる。

 せっかくの美味しい料理の前で暗くなってしまった。

 料理を楽しむことに集中しようとパンを取り、手で割りながら視線を前に向けた。

 眉をへにょりとさせたマリーちゃんが、自身のほっぺをにぎにぎしている。


「リア姉さまはすごくスタイルがよくて羨ましいです。わたしはどんどんお肉がついていってしまって……」 

「わたしもです。だから最近はマリーちゃんと一緒にお庭をお散歩したり、走る時間を増やしているんです」


 ラナとマリーちゃんが走っているところは最近よく目にしていた。

 まさかそんな理由からだったとは。


 二人ともぷにぷにしていてかわいいと思っていたけど。お年頃のようだ。


「そうなんですね。美味しいものを沢山食べて、運動も沢山することはとてもいいことです」

「そうだね。でも、気になるなら料理するのを控えようかな?」


 レイヴィスが気を遣ってとんでもないことを言い出したので、私達三人は一斉に立ち上がった。


「お兄さま、それはダメです!」

「そうですよ!」

「日頃の楽しみを奪わないでください!」


 私達の勢いに、レイヴィスはびくっとなった。


「……そう? それならいいけど……」


 女子達の美味しいものに対する執念を甘く見てはいけないよ、レイヴィス。



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