プロローグ
ついにこの日が来た。
ずっと待ちわびていた、魔力覚醒の儀式を受けられるこの日が。
私、リアーナ・エヴァンズの夢は、父と母のような立派な騎士になること。
夢を抱いたその日から、日々鍛練に励んできた。
今日この日、十歳になって受けられる魔力覚醒の儀式をうけて、ようやく魔法を使えるようになる。
儀式と言っても体に魔力を流すだけ。
他者から多量の魔力を流されることによって、自身の内に留まっていた魔力を外に放出できるようになるらしい。
幼い内から魔法を使えるようになってしまうのは危険なので、この国では十歳を過ぎるまでは覚醒させてはいけない決まりだ。
儀式は父が領主として治めているエヴァンズ辺境伯領の教会の一室で行われる。
部屋に部外者は一切入れず、儀式を受ける本人と五人の聖職者のみで行う。
今日は私の両親は遠く離れた王都にいるため、四つ歳上の兄と共に教会に来た。
兄は部屋の外で待っている。
私の中に眠っている魔力はどんな属性だろうか。
父のように土の属性を生かして地面を制する戦い方も格好いいし、母のように水流で敵を翻弄する美しい戦い方にも憧れている。
でも、どんな属性でも努力次第では必ず強くなれるはず。だから自分の内に秘めた力をありのまま受け入れよう。
そう思っていたのに────
「なっ……なんと眩く尊い光!! 浄化されていくようだ。これは紛れもなく光の女神様の聖なる加護の光だ!!」
「おおっ! まさかこの辺境の地で聖女様が覚醒するとは」
「さすが英雄様のご息女だ。聖女リアーナ様の誕生だ!」
「「「「聖女リアーナ様!!」」」」
何だか周りが勝手に盛り上がっている中、私は魔力を流した水晶玉を無言で見つめていた。
(わー、何かめっちゃ光ってるよ)
聖なる加護の光だと言っていたが、そんなわけない。
嘘だよね。ドッキリでしょ。
だって聖なる加護の光なんてものは、五十年に一人授かれるか授かれないかと言われている希少な属性。
だからこれは、手の込んだドッキリ。
そうに決まっている……
そう思いたかったのに、この人たちは涙を流して喜んでいる。
(…………マジか)
私は呆然と立ち尽くした。
騎士を志していた私の属性は、まさかの癒しの力だなんて。
そんなのってあんまりだ。
聖女様だって? 何を言っている。
私、そんなのに絶対ならないからね。