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第七十三話【天狐】

  ゆっくりとカップの中のお茶を飲み干し、ちょっとお茶の後味を味わって、カップをそっとテーブルに置いた。


  このお茶はバミア王国近くの丘陵地帯で採れたもので、バミア王国の特産品のひとつとされている。


  向いに、レジーナはブリタニーを抱きしめてソファに座った。邸宅に入るとすぐにレジーナはブリタニーを癒し、汚れを洗い流したが、ブリタニーはまだ元の服を着て、どうしても着替えたくなかった。


  多分その服が彼女にとって特別な意味を持っているように。


  「ブリタニー、あなたのことを教えてくれる?」


  「………………」


  俺はどちらかというと人懐っこい笑顔でブリタニーに尋ねた。


  ブリタニーはまるで人形のようにまだ頭を下げて床を見つめて動かない、まるで外界から遮断され、誰も彼女の世界に到達できないような状態だった。


  彼女、喋れるんでしょ?確か、レジーナのことをお姉様って呼んでた…………


えぇ………じゃあ………………


  【お前がやってみよう!】とレジーナにウィンクした。


  「ブリタニー、何があったのかお姉さんに教えてくれる?」


  レジーナは頭を突き出して、ブリタニーに優しく尋ねた。


  「………………」


  また、数十秒の沈黙があった。


  ようやく、目を赤くしたブリタニーが、ゆっくりと自分のことを語った。


  「わらわは…ブリタニー・グリーンヒルズ、忘却山に住んでいる天狐一族の聖女だった」


  やはり、狐族なのか?でも、まさか天狐族とは思わなかった。


  それに、聖女か、本当に【お嬢様】だな。


  噂によると、天狐という種族では、才能の強さをしっぽの数で評価し、九尾を持つ天狐は「九尾天狐」と呼ばれ、大陸の頂点に立つ金と銀龍に匹敵する存在である。


  そうすると、先ほど感じた強い息は、間違いなくブリタニーのだ。彼女は少なくとも六尾と推定され、そうでなければこの年齢でこれほどの力を持つ可能性がない。


  「天狐一族は古来より忘却山から出ず、代々その山に住んでいる」


  忘却山…カマミール大陸にそんな場所があるとはなかったが、彼女の言うように何らかの手段で隠されているのだろう。


  「しかし、今朝、マントを着た暗い影が突然、村に現れた」


  「村の結界を破って村に侵入した者がいることが理解できないのだ」


  そう言うと、ブリタニーの目は次第に赤くなり、体は抑えきれずに震え始めた。


  「それから、彼は空にポータルを開き、そこからこの世界のものでは全くない何百の化け物が出てきた」


  「ある者は頭がなく、ある者は目がなく、ある者は足がなく、彼らの姿は一目見ただけでも背筋が凍るほど異様であった」


  「彼らは非常に強力で、天狐一族の全員は彼らに敵わない。天狐一族の族長であった父上も、あのマントを着た人に殺された」


  「結局、命を掛けてわらわを庇うとしたのは長老たちであったが、長老たちも……」


  「わらわは村に去る瞬間、あのマントの人が両手を上げて「バシェ…ヴィル…チョー……シェク」と囁くのが聞こえた」


  彼女は落ち着いた声で話すが、体は震え続け、心が穏やかでないことを表していた。


  バ………シェ………ヴィル


  とても親しみやすい………この親しみやすさは一体何なのか?


  「彼は………何を言った?」と、体がぎょっとし、顔を上げてブリタニーに尋ねた。


  「バシェヴィル・チョーシェク」


  バシェヴィル・チョーシェク…………


  この言葉を聞いた瞬間、断続的にある映像が頭に浮かんだ。


  またあの映像…前世で数え切れないほど心に浮かんだあの映像だ。


  暗闇の中、空を覆う影が静かにたたずんでいる。いや………その大きさは「空を覆う」だけでは言い表せない、それは本当の【怪物】だ。


  前世で見た映像とは違い、今度は、その姿が体の三分の一を占める隻眼を開いた。


  これは言葉では言い表せない怪物で、惑星は彼の食料に過ぎず、目を開けると昼、目を閉じると夜、その怪物にとって神と呼ばれるものは蟻のような弱い存在なのだろう。


  次の瞬間、その怪物の目が俺に向かって見た…………


  「チィ…………」


  「ふぅ………ふぅ…………」


  俺は片手で額を押さえて、もう片方を目の前のテーブルに掴まって、落ち着くようと震えながらも、汗が滝のように体を濡らし続けていた。


  「どうした、アバドン?」


  「お兄…様」


  目の前には闇が広がるばかり、テーブルの向こうのレジーナとブレタニーの不安げな声が聞こえるだけだった。


  痛い


  痛い…………痛い


  ちくしょう…………痛い


  すごく痛い…………


  怪物が俺を見たとき、頭に映像は消え、果てしない痛み、肉体的な痛みではなく、精神的な引き裂きに取って代わられたのだ。


  この瞬間、心の奥底から無数の疑問が噴出した。


  何故この世界に転生し、もう人間でもないのに、この映像が頭に浮かぶのだろう?


  何故だ?


  そうだ…………先、その言葉を聞た後映像が出てきたのは、「バシェヴィル・チョーシェク」という言葉だった。


  でも、その言葉、どういう意味なんだろう?これはカマミール大陸のどの言語にも属さないし、古代語でもない。


  それに、あの全てを凌駕する怪物……一体、何だ?


  それは、どの生き物でも戦えない存在だ。様子は見えないが、ひとつだけ確かなことは、その攻撃はカマミール世界を沈めることができるということだ。


  「大丈夫、しばらくは説明できないけど、心配しないで」


  椅子に掛けて、無理やりな笑みを見せる。


  その名状しがたい存在、前世、今生、そして、夢中の階段………


  これらと俺が死んだ後このカマミール世界に転生するの関係があるのだろうか?


  いつかすべてを知っているだろう。


  窓の外を眺めながら、心は窓を横切り、空を離れ、遥か彼方まで……遠くて…遠くて

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