第七十二話【路地裏の女】
「それなら、この住所に配達してくれるよう頼みたい」
「はい、ユリシーズ様、お任せください!」
黒い細いフレームの眼鏡をかけた細身の店長は、胸を叩いた。
午後、新しいベッドを買いに、エドレ区にテユートンという通りに行った。
店長の話によると、そのベッドは大陸中央部、咆哮山脈特有の精鋼という金属でできていて、精鋼はカマミール大陸で知られている金属の中で一番硬いのだ。
それも非常に高価な金属で、普通は家具ではなく、高級の武器を作るのに使われるそうだ。
つまり、精鋼が家具に使われることは異常だ。
最初に店長から「精鋼でできたベッドがありますよ!」と聞いたときは、その話は疑惑を抱かせた。
家具屋を出て、帰ろうとしたとき、隣の路地からどこからともなく微かな、しかし強い息が現れた。
どこからともなく現れたその息は、人なのか?魔物?それとも………魔族?
素早く路地に入り、見て、俺は一瞬に固まった。
一人の女性は壁に背を向けて地面に座っている。
いや………亜人か?
「ウぅ………」
前に出て、その女性の前にしゃがみこみした。目がその女性の顔に注がれると、彼女の目も偶然に開いて俺に向かっている。
それは一対の桃花眼であって、その目がいじらしくて、紫の瞳がもっと神秘的な雰囲気を醸し出す。
美しい、もし、レジーナの一対のルビーような目は人々に危険と夢幻の感覚を与えると言うなら、前にいる女性の一対の紫の瞳は、人々に高貴さと神秘の感覚を与える。
夜空のような髪は頭の後ろを巻き、銀色のまげで固定され、頭の上には一対のふわふわな獣耳を持ち、漢服に似た衣装を着て、足には木製の下駄を履いている。
怪我をしているとはいえ、服はあちこち破れているし、色白の顔には血の跡が残っていて、とても雑に見えるが、おそらく大家族のお嬢様であることは推測に難くない。
しかし、彼女は狐族なのだろうか?それとも猫族なのだろうか?
少なくとも、尻尾はまだ見えないので確認できない、俺は目の前の黒髪の女性を見ながら深く考えている。
二人の視線が交錯しながら、雰囲気が静かなになっている。
「……………………」
「……………………」
唖なのか?
「しゃべれないの?」
彼女は首を振って頷いた。
亜人、高貴な服、しゃべれない…………
面倒なことになりそうだ。
「あなたのお名前は?」
「表現する方法はあるか?」
彼女の紫の目を見て、尋ねとした。
女性は右手の人差し指を立て、魔力で「ブリタニー」という文字を空中に刻んだ。
ブリタニー?
これは姓なのか?名なのか?でも、北の方にそんな姓はないような…………
「私はユリシーズ、あなたはどうやってここに来た?そして、どうして怪我をした?」
「それに、あなたの家族は?」
辛抱強く尋ね続けて、彼女は「家族」という言葉を聞くと、悲しげな表情を見せ、頭を下げて何も言わなくなった。
「この路地に来るんじゃなかった」と思った。
路地裏に突然に出た亜人の女性が現れるというのは、どう考えても怪しすぎる。
おそらく、何らかの事件に巻き込まれるのだろう、俺は面倒なことを怖くないが、竜の天性はかなりずぼらだな…………
もういい!「彼女を良い未来に!」と心で祈った。
立ち上がり、帰ろうとした。
ん?
振り返ると、彼女が俺の袖をそっと引っ張っていた。
どうやら、避けられないみたい、と頭をかいた。
なら、この状況では、彼女を家に連れてしようか?
いや、待って…
レジーナが怒るかどうかわからないが、なにしろ家具を買いに行っただけなのに、見知らぬ女性を家に連れ込むのは、あまりいいことではないって。
巨竜は元々性欲が強いのだが、明らかにあの性格の妻を持つと、あまり何も考えなくなりそうだ。
もっとも、あまりそんな興味はないのだが。
「さって、一緒に戻ろう」と手を差し出した。
ブリタニーは俺が伸ばした手を見って、手に手を添えると、立ち上がった。
彼女の手は滑らかで柔らかく、まるで柔らかい翡翠のようだった。
「いこう」
ブリタニーの手を取って、テユートン通りを歩いた。ブリタニーは俺と一緒に歩きながら、目は時折周りを見回しているが、表情は少し冴えない。
「亜人だ!」
「狐族なのか?」
「恐らく、奴隷………」
「しかし、その服では…」
「ユリシーズ様が買ってあげたんだろう」
「そうだ、ユリシーズだけがそのような富を持っているね」
テユートン通りでは、多くの市民や冒険者たちが足を止め、まるで珍獣を見るかのように、ブリタニーと俺を驚きの目で見ていた。
かつて各種族は【万族同盟】を締結したが、人間と亜人の間にはまだ偏見があり、北に一番繁栄した都市でも同じだ。
人間社会では相応の力と富を持つ亜人だけが尊敬される。
そうでなければ、亜人が人間の街に現れる時、汚い物扱いされるか、どこかの貴族の奴隷だと思われるだけだ。
彼らに微笑みかけながら、ブリタニーの手を取って、さっさと帰ってしまった。
テユートン通りと屋敷の距離は数ブロックしかなく、すぐにエドレ区の邸宅に戻ってきた。
門の中では、メイド長が庭にいたメイドたちを率いて出てきて、両側に立ち、「ユリシーズ様」と一斉にお辞儀をした。
「空き部屋を用意してください」と、メイド長に指示を出した。
空き部屋?
メイド長は俺の背後に隠れていたブリタニーを見ると、驚いた表情で俺を見上げた。
「どうした?」
「いえ………なんでもありません!」
その時、邸宅の扉も開かれ、レジーナが中に出てきた。
彼女は多分日差しが弱くなったため、起きた。
「あら、アバドン、女を連れ帰ったね」
いつも通りの嫌味だ。
これは意外だ!意外!
そう言いたいところだが、きっと説明できない。なにしろ、俺の背後には確かに一人の女性がいるのだ。
声を聞いたブリタニーは俺の袖を引っ張り、緊張して俺の背後に隠れた。
同時に、レジーナは右足を床に叩きつけ、こちらに浮いてき、俺の背後に隠れているブリタニーを見ていた。
突然に静かになったので、少し異常な感じがする。
ん?どうした?
レジーナの方を見ると、ブリタニーを見た彼女は両手で頬を触りながら呆気に取られた。
「か…か…かわいい」
彼女の声は断続的に発せられた。
しかし、その反応は?
横にいるレジーナを見たブリタニーは、もっと俺に近づく。
驚かされたか…………
「アバドン、昨夜は足りないかしら?」
「お前、よくも、こんな可愛い子に」
レジーナはブリタニーを見て、その傷を指差し、かなり怒った様子で俺の方を向いた。
「彼女をこのまま見つけたんだ、それに、俺はそんな暇はないんだ」
目的を達成する前に、面倒なことに巻き込まれたくなかったからだ。
「ん………そうだな」
だから、その態度は何なんだ!
「この子は私に任せて」と、やわらかそうな腕で抱きかかえる。
レジーナは多分可愛いものが好きなんだと思う、こんなに嬉しそうなレジーナは見たことがない。
これで………
目の前の光景に、俺は微笑んだ。
「本………本当に、可愛すぎるわ」
「お姉ちゃんって呼んで」
レジーナは頭を下げてウキウキとブリタニーに言った。
ブリタニーの身長は一点六メートルほどしかなく、レジーナよりずっと低い。
「お…姉………様」
突然、レジーナの腕の中から、幼く美しい女性の声がした。





