第六十八話【心の距離】
月明かりがエドレ区の街並みに散らばり、まるで銀色のガウンを羽織っているかのようだ。住宅街に属する通りは、とっくに人がいなく、ただ静寂と安らぎが残るだけだ。
敵を始末した後、俺はレジーナと共にエドレ区の道を歩いていた。
彼らの死体は太陽の火で一瞬にして焼き尽くされ、そこには灰が残しただけで、場所も暗い路地なので、誰も見つけることはないと思う。
今後出かける時にアムを連れて行くかどうかは、そろそろ考えなければならない。暗殺、敵の命を奪うのは彼の得意技であり、それに、今ならモールトン家の情報は必要がない。
何しろ、またこのような状況に遭遇していると、意外な事件が勃発する可能性がある。例えば、レジーナはこらえきれずに地域を破壊することとか?
薄暗い通りを歩きながら、思わず、レジーナと付き合った思いを思い出し始めてしまった。
時々思うのだが、どうして俺は率先して「契約しよう」と言ったのか?どうして【結婚】という言葉に関わってしまったのか?
自分でもわからなかった。
俺は以前、人はただの道具だと思って、【結婚】という親密な関係は言うまでもない。
寂しいのせいだろうか?それとも、俺が考えもしなかった別の原因なのだろうか?
わからない。
でも、少なくとも俺がレジーナを愛していることだけは確かだ。
彼女の圧倒的な美しさだけでなく、彼女の傲慢さ、無関心さ、内気さ、いや、彼女のすべてが好きだからだ。
不思議だな、前世では、傲慢な女に対して、俺は普段に弊履のごとく捨て、何しろ、俺の前では誰にも自慢できない。でも、こういう傲慢な女性こそ、俺には魅力的なのだ。
おそらく、「レジーナ」だからだろう。
彼女にかつて孤独な自分を見ているようだった。
だから、お互いに惹かれ合った。
「どうした?」
レジーナは歩きながら言って、その口調は聞き取れない。
「何も」
「【時間が経つのは早いな】と思ってたんだ」
「お前に会ってからもう三年経った」
目の前の薄暗い道を見て、小さなため息とともに言った。
三年、かつて人間だった俺にとっては決して短い期間ではない、人間にはいくつの三年があるのだろう?
今は竜だが、転生してからただ十数年経って、俺の時間に対する概念は長い時間に洗われたわけではない。
レジーナが俺の言葉を聞いてから、通りは再び静まり返った。
長い時間を経て、彼女はついに、「アバドン…………」と言わずにいられなくなった。
「ん?」
「お前は以前………私のことを嫌っていた?」
「まさか」
「初めから、俺はお前を嫌っていなかった」
俺は笑った。
「私が急にお前を攻撃して…………」
「理不尽な様子に見えるが、実は意外に単純だと思う」。
「それは…………」
「黙れ、その時、私はたまたま行き場がないんだ」
レジーナは顔をしかめ、少し憤慨していた。
「あの瞬間の振り返り、月明かりに照らされた君の寂しい表情は忘れられない。世界中には偶然と必然がたくさんあって、お前との出会いには運命的な必然だったのだと思う」
俺は空を見上げ、思い返した。
レジーナの顔が、今まで見たこともないような笑顔になった。そうか、彼女もこんな素敵な笑顔があったのか。
「レジーナ」
「なんだ?」
「君はかつて、寂しいからと北の冷たい城を出て、世界の広さを知るために、カマミール大陸に旅をした。なら……北の件が終わったら、一緒にこの世界を旅しよう」
君なら、君が望むなら、何でも………
「アバドン、お前は………本当にすべてを手放す気があるのか?眷族も、手に入れたものも、すべて手放して?」
「今まで何のためにしてたんだ?」
彼女は立ち止まり、少しためらった。
「君と一緒なら、喜んで」
俺は正気に戻り、立ち止まり、心から言った。
「弱い命は大きな波の中の一滴の水でしかない、俺たちにできることは成長し続け、海をかき乱すほど強くなることだ」
「だから、この世界に来てからというもの、全ては生き残るために流れに身を任せるしかないだけだ」
「今は、君だけが俺の全部だ」と、独り言を言い続け、まるで独り言のように、あるいは彼女にすべてを話しているかのように、最後に俺は彼女を見下ろした。
レジーナも立ち止まって俺の目を見上げた。
彼女の瞳が次第に少し迷いを帯びてきた。
レジーナは本当に美しく、エルフの美しさと吸血鬼の妖艶を併せ持ち、そして今、月明かりの下でさらに美しく見えるのだ。
翡翠のような頬を紅潮させ、赤い唇は繊細で魅惑的だ。真っ赤な瞳は渦のように深く俺を惹きつけ、ゆっくりと近づかずにはいられなくなる。
レジーナを抱きしめ、彼女は少し緊張して突き放そうとしたようだが、まったく力がないことがわかり、ついに抵抗をあきらめた。
長い睫毛がわずかに動き、彼女はついにゆっくりと目を閉じた。
唇が触れ合った。
少し冷たい、でもとても柔らかい。
その瞬間、時間は意味を失ったかのように、すべてはこの瞬間に固定され、どのくらいかわからないが、唇は離れた。
「プッ」と、見つめ合って笑って、俺は彼女の手を繋ぐ。
「なら、これからもよろしく、女王様」
「ん…」





