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第五十九話【料理】

  部屋の扉がそっと押され、黒い執事服を着た白髪の老人が食堂車を押し込んだ。


  「すべて準備できました、ご主人様」


  彼は身を屈めて食事の用意ができたことを示した。


  このとき、ロザは食堂車の上の料理に目を奪われ、目を離すことができなかった。


  アバドンはロザを見つめて微笑んだ。


  「ロザ殿」


  しばらく間を置いてから、ようやく彼に言った。


  「カマミール大陸には素晴らしい生き物がたくさんいるし、最高の食材もあるから、ぜひこの広い世界を見てきてほしいです」


  「では、お願いします」


  返事を待たずに、ユリシーズは老執事に指示を出した。


  ロザが荘園に足を踏み入れた瞬間から、すべてが台本通りに進み、その瞬間からすでに結末は決まっていたかのようだった。


  まるで蜘蛛の罠に一歩一歩落ちていく蛾のように。


  老執事はうなずき、食堂車から食事を一つずつ長いテーブルに運び始めた。


  「申し訳ございません、ロザ様」


  何か大事なことを忘れたかのように、ユリシーズは申し訳なさそうに手で頭を叩くと、首をかしげて奥に向かって叫んだ。


  「あなた、食事だ」


  その時、ロザはこの部屋には二人以外もいることに気がついた。


  黒いドレスを着た銀髪のエルフが奥からやってきて、ロザが顔を上げると、血のように赤い瞳と目を合わせた。


  血のような瞳、まるで渦のように、人を吸い込むようだ。


  その時、反対側から声がした。ロザは朦朧とした意識が戻り、震えるのを抑えきれなかった。


  「友よ、どうかお許しください。かみさんはどちらかというと寡黙なのです」


  テーブルの向こうの男は妻の頭に触れ、そしてロザに言った。


  「それでは、本日のお食事をひとつずつご紹介させていただきます」


  長いテーブルにはすでにあらゆる種類の料理が用意されていたが、公爵の息子の眼界には何一つでも 見て分かわらなかった。まるで異世界に入り込んだように、彼は周囲を見回し、気持ちを落ち着かせようとした。


  食器はほとんどが銀製で、料理はおそらく南帝国のもの、飲み物の容器は複雑な模様のある陶器であった。


  相手の出自は実在するようで、食器は大陸のさまざまな国や民族のものがほとんどである。


  「まずは……」


  ユリシーズのジェスチャーに従い、ロザは一番近い料理を見た。


  それは、銀の皿に盛られた黒こんにゃくで、軽い輝きを放っている。


  「この料理は、黒水獣皮と呼ばれています」


  「この料理は南の獣人帝国、ドミニア帝国のものです」


  「黒水獣はドミニア近郊の高山にしか生息しておらず、その数は非常に少ない」


  「ドミニアでは、最も強力な戦士だけが楽しむことができます」


  ユリシーズの説明を聞いたロザは、フォークでひと切れ切れ取って口に入れた。


  なめらかな口感、酸味の中にほんのりとした甘みがあり、あまり噛む必要がなく、すんなりと喉を通る。


  ロザは一瞬、このおいしさにふさわしい称賛の言葉が思いつかなかった。


  「ああ、ユリシーズ様、こんな素晴らしいお料理を食べたのは初めてです」。


  ロザはナプキンを取り、身だしなみを少し整えると、心の底から思ったことを口にした。


  「お褒めいただきありがとうございます、ロサ殿」


  「しかし、次の料理は、もっともっと堪能していただけると思います」


  テーブルの中央に置かれた蓋を開けると、ユリシーズはにっこりと微笑んだ。


  それは、頭はドラゴンのようだが、体は鳥のように緑色で、二対の色のついた翼を持つ生物だった。


  ロザは、一日にこれほど多くの知らない種を見たのは初めてだと誓った。


  「ロザ殿、このお料理をぜひ味わってください」


  「エルフと良好な関係を築いた後、長老から贈られたものでした」


  「アンジェラの大森林に生息する森竜鳥です」


  「忍び足で移動するので、捕まえるのは至難の業です」


  「カマミール大陸では、エルフだけがその捕獲の経験と方法を持っています」


  ロザはナイフとフォークで小さな肉片を手に取り、口の中でゆっくりと噛みしめながら、ユリシーズでも高い評価を得ているこの料理を体験してみた。


  正直なところ、最初は肉を食べたという実感もなく、普通の雑穀のようなごく普通の味だと感じたが、やがてこの貴族はそのまばゆいばかりの味を堪能し、恍惚の境地に陥ったのである。


  アバドンは彼を見ていた。


  もちろん、これは森竜鳥ではない、森竜鳥という生き物は存在しなかった。アバトンはアンジェラ大森林に行ったことがない、レジーナとロザが目と目を合わせた瞬間から、彼はヒントされて、少しのガイドさえあれば、その後ロザは何でも信じてしまう。


  そしてこの森竜鳥と呼ばれるものは、実は荒野の毒を持った植物なのである。人間を美しい夢の中に陥れ、そして、目が覚めたとき、夢の中のすべてを信じることになるのだ。


  「感じはどうですか?ロザ殿?」


  「今は…何でもできるような気がします」


  「そうですか。では、いい夢が見れますように」


  アバドンはロザに言った。


  「は………………はい」


  公爵の次男はトランス状態で深い眠りにつきた。


  「それじゃ行こうか、レジーナ」


  「おやすみなさい、ロザ……殿」


  その貴族が長い息を吐いた後だけに、アバドンは微笑み、レジーナを連れて部屋を出て、外に向かった。

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