表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

その男 ハイエナにつき

「信号無視……っと、あざーす」


固定していたスマホの動画撮影を終了すると、サイトにアップロードを始める。


今日はこれで2件目と本当に幸先の良いスタートになった。


「交通量の多い地域に引っ越ししてきて本当に良かったなぁ」


こうして早起きしてスマホをセットしておくだけで


ドンドン国民ランキングが上昇していく。


暴行(ぼうこう)窃盗(せっとう)詐欺(さぎ)など犯罪の急増に加え、無関心(むかんしん)・助け合い精神の崩壊(ほうかい)など


日本国内の下げ止まらないモラル低下に危機を感じた政府は、


当時海外で運用されていた「信用スコア」制度をアレンジし、制定した。


様々な行動にプラスポイント・マイナスポイントが割り振られ、


そのポイントの総合評価により自分の人生が


イージーになるかハードになるかが決まるというところだ。



「自分の人生を振りにしてまでする事かねー、信号無視」


俺はそのポイントの1つ「通報ポイント」に全振りで活動している。


世の中では、


「ハイポ野郎(ハイエナポイント野郎)」


って感じで嫌われてる活動なんだけどね。



通報ポイントは名前の通り、犯罪などが発生した際に


通報する事でポイントが溜まるんだけど


そんなにバンバン重犯罪が起こる事も無いので


大体は信号無視だ喧嘩(けんか)万引( まんび)きだって言った軽犯罪を


通報するのが主流となっている。


そんな訳で今日も朝から家の窓の外を眺めつつ獲物(まぬけ)を狩っているのである。



「アップ完了っと、今日は2ポイントだけど順位上がってるかな?」


たった2ポイントでは大した影響も無いとは思うんだがチェックせずにはいられない。


わずかなイイねでも何件来てるかチェックする感覚に似ている気がするかな。


スマホでマイページの総合ポイントを見る。


昨日が6333万4332位だったけど……


「あれ!?なんでこんなに上がってんの!?」


画面には6333万4032位と表示されている。



たった2ポイントでこんなに上がると思えない。


俺はスマホで最近のニュースを検索する。


スポーツイベントや新商品の紹介、そんな中からある記事を見つけた。


「還元センターの爆破事故……」


日本人口1億人のうち、ポイント上位の人間はその貢献度(こうけんど)に見合う


恩恵(サービス)を受ける事が出来る。


住居・保険・融資(ゆうし)など様々なプラスがあるのだが、


還元センターはポイントに応じて物を受け取る事が出来る施設(しせつ)だ。


人気施設の為24時間営業しており、夜間の利用も多い。


ニュースでは200名近くの死者が出ているとの事で


キャスターが慌ただしく現地を報道する動画が再生されていた。


「変動300人のうち200人はこの事故によるものなのか……」


そもそも俺の順位では還元センターでは門前払(もんぜんばら)いになってしまうので


このセンターにいる時点で自分よりもランクは上だ。


残りの100人ほどは何かやらかして順位を下げた人達だろう。


「寝てるだけでランクが上がるなんて神イベだな、爆破に感謝しないと」


普通の人間なら大変な事件だと狼狽(うろた)えたり、


かわいそうと(あわ)れんだりするんだろうけど


俺は自分さえよければそれでよいので何とも思わないんだよね。


身内はいないから大半の人は無関係で、


今の時代は関係の無い誰かが死んでも無関心を通り越して


むしろ喜びさえ生まれる。


だって寝てるだけで自分のランクが上がるんだぜ?


自己責任(じこせきにん)自己責任(じこせきにん)


例えそれが事故と言えど、そこにいた時点で何があっても自己責任(じこせきにん)だ。


死んだ人はツイてなかったって諦めてねと。



「さて、朝のあわてんぼうさんからボーナスも貰ったし、


そろそろ生命維持活動(にくたいろうどう)に向かいますかーっと」


悲しいかな、ポイントを集めたからといって下々のランクはお金が入ってくるわけでもない。


悠々自適に暮らすには少なくとも500万人以内には入る必要があるだろう。


「どっかにポイント落ちてないかなぁ」


吐いた息ほど無意味な言葉をつぶやくと、多田賀鍬(ただ がすき)は家を出た。

この物語はフィクションです

日本やほかの海外の国の制度につきましても実際の物とは一切関係がございません

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ