Ep.2 二人の先輩
「なんか、思ってたのと違う...」
到着するなり、美孤が言う。
到着した建物は、二階建のよくみる一般的な学校
学校の◯談に出てくるタイプの建物だ。
少々がっかりする気持ちもわかる。
「なんか幽霊でそう、美容学校の合宿だし
もっと、おしゃれなの想像してた」
あひるは、怯えてる。
「さーみんなぁ! 楽しい合宿の始まりだ!
他のクラスの子達はもう、合宿所の中だよ!
いっそげー!」
テンションが高いのは牛込先生だけだ。
合宿所内に入ると以外と綺麗だ。
建物の中だけリフォームしたのだろう。
恐怖心をそそられるものはないし、怖さは全く感じない。
それなのに何故か、あひるが俺の腕を掴んで離さない。
それを見た、栗鼠さんがぶっきらぼうな様子で言う、
「腕くんでたら、結構邪魔。列乱さないで」
やっぱり、髪を下ろしてる時の栗鼠さんは怖い。
バスで酔って不機嫌なのだろうか。
あひるも、さすがに手を離す。
体育館についた。
学年全員が入れる程の広さがある。
そこにA〜D組までの全員が揃っている。
またおかしな髪色の奴がわんさかいる。
例によっておかしな髪色の男女が俺達B組の生徒に近づいてきた。
「1年B組のみんな! こんにちは! 僕は2年オリスタの
五十嵐 羽久です!
よろしくお願いします!」
男の先輩が体育館に響く程の大きな声で挨拶をしてきた。
「私は二階堂 夢です。それでは、私がみんなを案内します!
私についてきてください!」
また大きな声で二階堂先輩が俺たちに手招きする。
周りのクラスの状態を見てみると、どこのクラスのオリスタも
異常なほど大きな声で挨拶をしている。
五十嵐先輩は緑髪のツンツンヘアー、
色白で、不健康なイケメンといったような感じだ。
二階堂先輩は、ベリーショートの金髪で
世間の一般的な女の美容師のイメージそのままの感じ。
そんな二人に案内されたのは外のグラウンド。
強化合宿と言ってたくらいだし、走り込んだりするのか?
「よし! 今から鬼ごっこをしよう!」
鬼ごっこ?! 五十嵐先輩、血迷ったのか?
この歳でする事ではないだろう。
「じゃあ、最初の鬼は猫屋敷さん! 開始!」
「はぁ?」
五十嵐先輩に指名された、猫屋敷は言った。
「ちょっと、どういう事ですか? 鬼ごっこって」
牛込先生が、笑いながら俺らを脅してくる。
「時間切れまで、鬼の人には、罰則あるからねー
早く真面目にやったほうがいいよ」
それを聞いた猫屋敷は、間髪入れずに俺に襲いかかる。
辛うじて、俺は躱せた。
「落ち着け! 猫屋敷! なんかおかしいだろ! 本気でやるのか?!」
「うっさいわね! 先生が罰則があるって言うなら、その罰則を受けないように
全力でやるだけ! 私はマイナスな物は、一切受け付けたくないの!
おとなしくつかまれ!」
俺は、急いで逃げた。
「そういうことやったら、俺にまかして」
唐突に割って入ってきた関西弁の男
1年B組のクラスメイト
猿渡 蓮だ。
猿渡は、赤髪センター分けパーマスタイルのショート
とにかくうるさい男子。
あまり話したことはないが、いろんなグループの人にちょっかいを出す
リア充of theリア充といったような感じで、
クラスに一人はいるどんなカーストのやつとでも分け隔てなく接するタイプの人間だ。
「あっそ、じゃあよろしく」
猫屋敷は、あっさりと猿渡をタッチした。
「よっしゃぁ! いくでぇ!」
猿渡は、腕をグルグル回してから走り出した。
それがまた速い。
「俺は、こう見えてもめっちゃ速いねん! こういう遊びなら
得意分野やで!」
瞬く間に、クラスの一人をタッチした。
「んなら、あとはよろしくー」
すぐに逃げ出す猿渡。
このグラウンド、障害物や遊具もほとんどなく
鬼ごっこに向いてる場所とは思えない。
当たり前だが、すぐに鬼が交換されていく。
ギャアギャア騒ぎながら、みんなが泥仕合をしている時
「蒼太郎! こっちこっち」
木の陰から、あひると兎丸が俺を呼ぶ。
俺は急いで木の陰に一緒に隠れた。
「隠れてていいのか? これじゃあかくれんぼになるだろ?」
俺が聞くと
「蒼くん真面目だね。鬼から隠れるのも鬼ごっこの立派な戦術でしょ」
そうなのかもしれないが、なんとなく申し訳ない気持ちになる。
なんだかんだで楽しそうなあひると兎丸。
「蒼太郎。捕まりそうになったらあひるの事守ってね」
「いや、俺に守られる程あひるトロくさくないだろ」
「あほだねー。そういう時は、俺が守るって言わないと」
そんな会話を繰り広げてると、美孤が走ってこっちに来た。
「私も、混ぜてーー」
美孤が、息を切らしながら混ざってきた。
「大丈夫か?美孤追われてたのか?」
そう俺が聞くと、美孤はニヤニヤしながら
「はい。タッチ」
と、俺の肩を叩いてきた。
え?! お前鬼だったのかよ!
すると、みんなが急いで俺の周りから逃げ始めた。
うそだろ。俺走るの遅いんだけど...
「よっしゃ! 蛇沼ぁ! 俺にまかせとけ!」
また、どこからともなく猿渡が現れた。
またあっさりとタッチさせてくれた猿渡は
嬉しそうにまた誰かを追いかけはじめた。
本当にこれをやる意味が全然わからない...
30分ほど鬼ごっこをしたところで
「はい。終了です みなさん集まってください」
二階堂先輩がみんなをあつめた。
「オリキャンは、強化合宿です。つまり、今の鬼ごっこは
声出しと、クラスの親睦を深めるための恒例行事です」
どうやら、まったく意味のないものではなかったようだ。
聞いた事がある。構成的グループエンカウンターというやつか。
「それでは、いい汗をかいたところで
次は、みんなで挨拶の練習をしましょう!
みなさん、こんにちは!」
また、とんでもなく大きな声を出す、二階堂先輩。
美容室は、礼儀を重んじる職業のようで、
就職した時に大きな声で挨拶ができないなんて人を出さないように
一番初めの段階で一番簡単に習得できる"挨拶"を学ばせる。
しかし美容室行ってそんな大声で挨拶してくる美容師いないだろ...
と、俺は思っていた。
程なくし、その挨拶の練習は終わり
あとは、昼時間となり昼食後自由時間になった。
この自由時間も、どうやらクラスの親睦を深めるものらしい。
合宿がただの遊びと聞いていた意味もわかってきた。
廊下で五十嵐先輩と猫屋敷が何か話をしていた。
「ねぇ、猫屋敷さんLINE交換しない?」
「LINEですか? なんで交換するんですか?」
「親睦を深めるため。さっきの鬼ごっこでわかったよね?
最初は、みんなで親睦を深めるのが大事なんだ。それに
僕は先輩だし、君の知らない事とかいっぱい教えれるよ」
「そうですね。じゃあ、QRコード読み込んでください」
どうやら、五十嵐先輩と猫屋敷は連絡先の交換をしてたようだ。
いつも同じグループにいる俺ですら、猫屋敷のLINEとか知らないのに...
あっさり猫屋敷の連絡先をゲットしやがった。リア充はやっぱ違うな。
猿渡がそんな五十嵐先輩と猫屋敷を見ながら近づいてきた。
「あいつ女グセ悪いらしいで、猫屋敷の事狙ってんちゃうか?」
「いやいや、まさかまさか」
「そのまさかがあるねんて、あいつ確か二階堂先輩と付き合ってる
らしいんやけど、これは一波乱あるで」
LINE交換なんて、リア充の世界では挨拶みたいなもんだろ?と
俺はあまり気に留めていなかった。
その二人の横を美孤が、手作り感溢れる謎の地図を開いて通り過ぎる。
「ちょっと待て。美孤、なにしてんの」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「え?何って避難経路の確認に決まってるじゃん」
「その適当すぎる地図はなに」
「自分でこの建物の見取り図書いてみたの。
もしテロリストが合宿所に来ても私は逃げ延びるから。
一生懸命書いた地図にそんなこと言う蒼太郎には避難経路教えてあげないから。」
いや、合宿のしおりに建物の正確な図面載ってるし。
意味がわからないので、関わらない事に決めた。
自由時間は各々好きなように過ごしている。
テロリスト襲撃に備えて地図を書く美孤。
ずっと音楽を聴きながら端っこに座っている栗鼠さん。
兎丸と、あひるは仲良さげに話をしている。
いきなり、自由時間と言われてもやる事がない。
俺は少しだけ外に出る事にした。
ぼっちだったのに急に友達というものができて常に周りに人がいる。
そんな状況につかれてしまったのかもしれない。
ドアのそばで見てはいけないものを見てしまった。
犬飼聖夜がタバコを吸っていた。
どうしよう、見てそのまま何も言わずに行こうとすると
チクったら殺すぞ。とかお前も吸えよ。とか
言われるかもしれない。
犬飼って実は20歳超えてるかもしれないし。
高校卒業してすぐに入学した人だけとは限らないよな。
ここは、とりあえず話しかけてみよう。
「犬飼くん、やっほー...」
「......」
当たり前だが無視される。
「犬飼くん、タバコ吸ってるんだねー」
「......」
「タバコ似合ってるよねぇ」
「......」
「け、けどタバコって体に悪いからやめたほうがいいよ...」
俺がそう言った時、一瞬だけ犬飼聖夜の表情が変わった気がした。
「うぜぇ、うせろ」
「う、うん」
どうやら、言ったらいけない事だったみたいだ。
俺はすぐにその場を離れた。
そのままイベントもなく夜になり夕食をみんなでとり、
そろぞれ自分たちの部屋へ移動した。
部屋割りは兎丸と二人部屋だった。
「よーし蒼くん、今日はオールだ!」
仲の良いやつが同部屋で心強い。
兎丸に教えてもらったスマホゲーをしたり、
テレビを見たりしてふたりで過ごした。
常に会話しているというわけではなく沈黙もあったが、
特に気まずいとも思わなかった。
自然体で過ごせる友達ができたのはいつぶりだろうか。
バス移動で疲れた俺たちはオールすることもなく途中で寝た。
1日目は大して何事もなく終わってしまった。
だが、次の日に事件は起きた。