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Ep.1 オリエンテーション合宿

バスにクラス全員がなだれこむ。

座席指定はなく、各自適当に好きな席に座るシステムのようだ。

ぼっち歴の長い俺はこういう時ドキドキしてしまう。

先に座ったら座ったで隣に誰も来なかったらどうしようとか、

後から座るにしても、俺が隣に座ったら嫌だろうなとか色々考えて胃が痛くなる。


適当に好きな席、ということは

当然仲の良いグループで固まって座ることになる。

今日乗るバスは二人席が並び、

一番後ろの席のみ5人席のスタンダードなバスだ。


俺が座席に座らず車内でまごついていると、

栗鼠さんが

「ソータロー、一緒に座ろ」

と誘ってくれた。


高校の頃の俺だったら勘違いして告白してるぞ。

しかしもう俺はあの時の俺ではない。

「お、おう、座ろうぜ!」

女の子に誘われることなんて慣れっこだぜ!という雰囲気を

出したつもりだったがぎこちない返事をしてしまった。


あひると猫屋敷、美孤と兎丸、

栗鼠さんと俺という組み合わせでみんなで固まって近くに座った。


「さぁ! みんな席につけたかなぁ?

 移動時間は、およそ2時間半! 楽しいドライブにしよー!

 ではでは、1年B組オリキャンバス出発しまーーす」


担任の号令でオリエンテーション合宿キャンプが始まった。

1年は全部でA〜D組まである。

クラスごとに別々のバスで出発した。


バスはガタガタと音をならし走り出した。


「ソータロー、食べる?」

走り出してすぐに栗鼠さんが、俺にたべっ◯どうぶつを渡してきた。

「あ、うん もらおうかな」

高校の頃の俺だったら(以下略)

俺は、栗鼠さんからもらったたべっ◯どうぶつを口に入れた。

今日の栗鼠さんは、まっすぐ髪を下ろしているから機嫌が悪いということになる。


声が小さいのはいつもの事だが機嫌のいい日は、幾分かマシになっている。

それなのに、今日は機嫌のいい時の声量だ。

バスが走り出してすぐにお菓子を出してくるなんて

よっぽど合宿を楽しみにしていたか、もしくは何も考えていないかどちらなのだろう。

栗鼠さんの性格的におそらく後者だと俺は思った。


「栗鼠さん、たべっ◯どうぶつ好きなの?」

「んー、食べやすいから好き」

「そ、そうなんだ。食べやすいって言ったらアル◯ォートとかも案外食べやすいよね」

「そう? 食べにくいと思うけど」

「そうかなぁ? 俺は食べやすいと思うんだけどなぁ」

「じゃあ、食べやすいんじゃない」

「そ、そうだよねー」


やばい。会話が続かない。くそつまらない不毛な会話をしてしまった。

たべっ◯どうぶつも、アル◯ォートも板状のビスケットで形状は同じだし、

どちらが食べやすいとか特に差はないだろ。

あったとしてもこの話は面白くもなんともないのだが。


実は栗鼠さんと二人だけで会話をするのは初めてのことだった。

入学してから栗鼠さんと二人きりで会話をする機会がなかった。

元々、そんなに口数の多いほうでない栗鼠さんと2時間半も

何を話したらいいんだ...

まだバスに乗ったばかりだというのに。

せっかく一緒に座ろうと誘ってくれた栗鼠さんにくそつまらないやつだと思われてしまう。


「・・・」

「・・・」


会話がない...

沈黙がつらい、何か話さないと。

俺が会話の糸口を探していると栗鼠さんが鞄の中を漁り、イヤホンを出した。

これは会話の糸口にできる!

そう思い俺は栗林さんに尋ねた。

「いつもヘッドホンなのに、今日はイヤホンなんだね」

「ヘッドホンだと、荷物になって邪魔だから」

「ほんとだよねー。あ、今から何聞くの?」

栗林さんは、俺を見て少し笑った。

「今から何聞くの? なんて初めて聞かれた」


バレている・・・。

あまりにも会話がなさすぎて居た堪れず出てきたセリフだということがバレている。

俺が精一杯の気持ちで出した話題だということがバレている。


リア充相手に会話のスキルで敵うはずがない。

付け焼刃の会話で乗り切ろうとした俺が浅はかなのである。


栗林さんはイヤホンの片方を渡してきた。

「聞く?」

え? いいの? これもう関節キスだろ。いやむしろそれ以上だろ。

エロすぎるだろ。

高校の(以下略)。

そんなことを考えながらも俺は

栗鼠さんから差し出されたピンクのイヤホンを耳に入れた。


聞いたことがない騒がしい曲調の音楽だ。

ファンキーというのだろうか。俺の語彙力では説明できない。

ドラムやベースの音が激しくアニソンばかり聞いてる

俺にとっては受け入れがたい曲調だ。

「これって、なんてアーティストなのかな?」

興味はないが聞いてみた。

「・・・」

返事がない。ただの屍のようだ。


ちらっと栗鼠さんを見てみると、

すでに寝ていた。

お菓子食べてイヤホンを耳に入れた瞬間に寝るなんて

俺との会話がよっぽどつまらなかったのだろうか。


あひると猫屋敷、美孤と兎丸は

それぞれに楽しそうに会話をしている。

俺とのコミュ力の違いを感じる。


ふと俺の肩に何かがのしかかる。

・・・ん?

なんと栗鼠さんが俺の方にもたれてきていた。


「!!!!」

俺には、女の子耐性なんて全くない。

たった、これだけの事で興奮と焦りで汗がでてくる。

「あれれ? もう志麻ちゃん寝てるじゃん」

後ろの席の美孤がヘッドレストの傍から、顔を出し話しかけてくる。

「ご、誤解だ! 決してやましい気持ちがあるとかじゃなくて

 勝手にもたれかかられてるというかなんというか」

俺は、何故か必死に弁解した。

美孤は、笑いながら

「すごい照れてるーー! 蒼太郎かわいー」

とからかってきた。


「志麻ちゃんってかわいいねー、なんか小動物って感じ、

 徹底的にいじめちゃいたい気分にさせられるのに

 寝てる姿みたら、なでなでしたくなっちゃう」

美孤の言ってる事は、かなりわかる。

寝てる栗林さんは、すごく無防備で愛らしい小動物

名は体を表すとは、この事を言うのだろうか。

それだけ言い残し、美孤は座った。


俺の肩にのしかかる小動物の寝息は俺の心拍数をひたすら上げた。

朝からシャワーを浴びてきたのか、ほんのりとシャンプーの香りがする

細くて長くサラサラの髪の毛が俺の腕に纏わりついてくすぐったい。

そして、それがまた照れ臭い。

このままでは自我を失うことは間違いない。

俺は他のことに意識を集中させることにした。


後ろの席の美孤と兎丸の会話を盗み聞きして

リア充はどういう会話をしているのか勉強しよう。

そうしよう。


「さっきの話の続きなんだけど、僕の地元の友達がね

 高校の時の学園のマドンナって呼ばれてた人と

 会いたいがために、電車で5時間もかけて

 姿だけ見に行って帰ったらしいんだ

 5時間もかけて見るだけって、笑えるでしょ」

ケタケタ笑いながら兎丸が話している

「私の友達も、高校の時ずっと好きな先輩を

 目で追っかけてるのに、一切話しかけないで

 卒業しちゃった子いたよ。それと同じ感じだね」

「え?それは普通に綺麗な甘酸っぱい話じゃん。

 僕の話とはちょっと違うとおもうんだけど」


なにこの会話?!

普通につまんないぞ。

会話の面白さレベルは俺とそう変わらないだろ。

話し方か?面白くない話を面白そうに話せばいいのか?

いやそれとも顔面レベルの問題なのか?


っていうかその友達ただのストーカーだろ。

笑えないどころか、通り越して少しホラーだな。

俺ならどうせ声をかけられないのはわかっているから、

グーグ◯ストリートビューで家を見るだけにとどめておくわ。

それなら家にいながらできるじゃん。


だがコミュ力の真髄は見えた。

キーワードは友達だ!

友達の話をすると話は盛り上がるらしい。

よし! 栗鼠さんが起きたら、俺の架空の友達の話を披露しよう。

俺は心に決めた。



しかし残念な事に栗鼠さんがその後起きる事なく、

一時間半ほど走ったバスはサービスエリアに着いた。


牛込先生が席を立った。

「トイレ休憩にはいるよー。15分程で出発するからねー」


栗鼠さんは、まだ起きない。

起こした方がいいのかな?

でも下手に触ったら痴漢扱いされるかもしれない。


それに今のこの状態を手放すのも勿体無い気もする。

なんならよだれを垂らしてくれてもいいのだけれども。

俺は立つ事ができずに固まっていた。


美孤と兎丸は興奮気味にバスから出て行った。

おそらくサービスエリアの売店などが目当てなのだろう。


「あんた、出なくていいの?」

猫屋敷が、俺を気遣ってくれている?!

「栗鼠さんが、寝てるから起こすのも悪いかなと思って」

すると、あひるが大声で栗鼠さんを起こしはじめた。

「おーーーーい! 志麻ちゃーん! おっきろー!」

栗鼠さんを、横に揺さぶる。

シャンプーの香りがより強く香る。

それだけ揺さぶられると栗鼠さんも、さすがに起きる。

「ごめん。乗り物に乗ると眠たくなっちゃうみたいで寝ちゃってた」

目をこすりながら、栗鼠さんは起きた。

あぁ...肩の上の天使が...

すごく残念な気はしたが、俺たちはバスを降りた。


比較的広めなサービスエリアである。

売店が多くあり、食欲をそそる屋台が立ち並んでいる。


サービスエリアを全力で楽しんでいる美孤と兎丸。

15分でどれだけ食べれるかを競うかのように走り回っている。


たこ焼きを美味しそうに頬張る猫屋敷が目に入った。

こいつも、売店目的での下車だったのか...

猫屋敷と目が合った。

たこ焼きをごくっと飲み込み、俺を睨みつける。

「朝ごはんが少なかったの。なんか文句ある?」

「そうなんだ、わかるよ。こういうところ来ると

 腹減るよな」

苦笑いしながら俺は、答えた。

「あんたさ、なんかいつも一歩引いてない?

 なんて言うか怖がってると言うか、何かを

 恐れてる感じがして、気になるのよね」

猫屋敷の、勘の良さに驚いた。

アニオタ隠してるの、バレてる?


「まだ慣れてないから、多少は猫かぶってるけど、それだけ」

俺は、また苦笑いしながら誤魔化した。


その時、後ろからドンッとのしかかられた。

後ろを振り向くと、やはりあひるだ。

「蒼太郎は、照れ屋だからこんなもんでしょー。

 ねー。蒼太郎」

顔が近い!

甘い香水の香り。

背中にあたる胸、細い腕で俺の体をがっちりとロックし

熱が出ているのかと勘違いするほど体が火照る。

耐性のない俺にとっては、心臓に悪い。

「ちょっと、あひる! なんか色々とまずいから離してくれ」

この状況も、俺にとっては楽園だが耐性がないのが体温や行動で

バレてしまいそうで、慣れてる感じを出したつもりで言った。

「あれぇ? 照れてるんですかぁ?」

俺の耳元であひるが囁いてくる。

もう興奮の坩堝だ。

「キモ」

猫屋敷のこの一言で我に返る。


あひるを引き離した。

「あひる落ち着け! 軽率に男に抱きつくものじゃない」

ちょっと硬派な男を演じてみた。

「軽率って、あひる半分本気だけど」

あひるは可愛い笑みを浮かべ言った。

俺の顔が赤くなってるのが自分でもわかった。

「バスに戻るわ」

不慣れなのを隠すため、俺はバスに戻った。

まだ、合宿始まったばかりなのに

違う意味でやばそう...

こんな調子で続けば、心臓麻痺で死んでしまう。

バスの中で、嬉しい悩みで頭を抱えていた。


生徒達が、バスに戻ってくる

「はーい。みんな揃ってる? 出発するよー」

そう言って、バスは走り出した。


「ソータロー、ごめん。肩にもたれちゃって

 さっき、美孤から聞いた」

「全然大丈夫!むしろ幸せだったから」

咄嗟に俺は、とんでもない事を言ってしまった。

「ソータローおもしろい」

栗鼠さんは、また少し笑ってくれた。

この勢いのまま、俺の架空の友達の話をして

さらに場を盛り上げてやる!

「そうそう、俺の高校の時の友達がさ

 めっちゃ変なやつで、そいつがまた変わった趣味があってさ

 漫画とかアニメとか好きで、好きな子が、自分の好きなキャラと

 似てたからって、その好きな子を呼ぶ時に間違ってそのキャラの

 名前呼んじゃって、みんなにバカにされて逃げてったんだ

 めっちゃおもしろくない?」


・・・・架空の友達の話のつもりが、

ただの自分の過去話をしただけになってしまった。

「かわいそう。」

 栗鼠さんは少し悲しそうな顔で言った。

「だ、だよねー。かわいそうだよねー」


...

会話終わったじゃん。

やはり友達のいない俺が

友達の話をするなんて烏滸おこがましかったようだ...


そこからしばらくしてまた栗鼠さんは音楽を聴きながら入眠した。

今度は、さすがに肩にもたれてはこなかった。


バスは目的地に到着した。


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