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似たもの同士

「気分転換も出来たところで・・・・・・。東京のメインレースと京都の重賞ポンポンと勝って帰りましょう」

 美味しいソフトクリームを食べたせいかゆりは上機嫌だ。


「でも三鷹さん、さっきの10レース勝ててたんじゃないですか」

 申し訳なさそうに遥が再び言う。

「うーん、どうだったかな。2着馬が9番人気で人気薄だったからだぶん買えてなかったと思うわ。相手も人気馬で検討していたから総流ししてなかっただろうし。まず獲れてなかったから本当に気にしないでね」

 頬っぺたを右手を添えながら少し首をかしげながらゆりが答えた。

 遥にはわからないだろう。

 ゆりみたいなタイプは損しなかったら「勝った!」と考えるのだ。

 まぁソフトクリームをおごられていなかったら「買えたかも、この紐荒れ買えたかも」って悶々としていたはずだが。

 かわいい後輩と美味しいソフトクリームは偉大なのだ。

 

「そういえば・・・・・・。9レースはいくら負けたんですか」

 遥は恐る恐る聞いてみた。

 ピクッと右眉が反応した気はするが、ゆりは涼しげな笑顔で答える。

「ナ・イ・シ・ョ」

 2万円負けた事は黙っていることにした。

 馬券上手のかっこいい先輩としての見栄もあるが、500円のソフトクリームを勢いを付けないと買えない様な娘にこの事を告げたらなんか軽蔑されそうな気がしたからだ。

 

 今日のメインレースは京都は京都新聞杯そして東京はプリンシパルステークスだ。

 馬券を買い、そのあとスタンドへ行くために二人は2階へと降りてゆく。


「小金井さん、日本ダービーって知ってる?」

「はい、なんか聞いたことはありますけど正直どんなものかまでは・・・・・・」

「だいたい5月の終わりにある3歳馬の最強馬を決めるビッグレースがあるの。今日はその東と西の最終予選があるからなかなかお得な土曜日なのよ」

 ゆりが嬉々として話し始める。

「特に京都新聞杯には私の一押しのヴァルキュリアが出るから馬券当たったも同然なのよ。たぶんね、今年の3歳牡馬で一番強いのこの馬よ。若葉ステークスの差し脚は本当、格が違ったわね」

 ゆりはキョトンとしている遥に気づく。

「あら、ごめんね。私ったら一人で語り始めちゃって」

「いえいえ、そんな。ゆりさん競馬が好きなんだなぁってのがよくわかって嬉しいです。私もちょっと勉強してみます」


「ところで三鷹さん、質問してもよろしいですか」

「ええ、何でも聞いて」

「ボバってなんですか?あと3歳馬ってなんかポニーみたいな子供の馬が走るんですか。なんかかわいいですね」

 遥はなんか幼稚園児の徒競走でも想像したのか微笑みを浮かべる。

 

「え!」

 と驚愕したゆりだが、自分もいつの間にかいろいろ競馬について覚えたがたしかに知らない人は知らないよなと思うのだった。

「えーとね、牡馬っていうのはオスの馬の事ね。で女の子の馬はメスの馬って書いて牝馬っていうのよ」

 ゆりが馬柱の小さい「牡」「牝」の文字を見せながら教える。

「それでね、さっきパドックで馬見たじゃない?」

「はい」

「3歳ってもうみんなあんなサイズよ」

「え?そうなんですか!いや私、てっきり仔馬みたいのが走るのかと思っていました」

 なんか妙に残念そうに遥が言う。


「私も直接見たことはないけどね、仔馬の時はだいたい北海道とかの牧場にいてレースに出るときはすでにもう大きいのよ。そうだからダービーっていうのは夏の甲子園の高校球児たちくらいに思ってくれるといいわ」

 ゆりがまぁまぁ良い感じの例えを出す。

「高校生じゃ、そりゃもう大きいですよね」

「でもねそんな時期の馬たちだから面白いのよ。既に完成したような馬もいればまだまだ成長途中の馬もいるからね」

「はぁ、馬ってすごいんですね。私なんかもう22歳なのにバタバタしてばかりで」

 遥が非日常の世界から日常に思いをはせて、ちょっとしょげる。


「そんなことないわよ。私たちなかなか頑張ってるわよ」

「いえ、三鷹さんとかと私違いますし」

「同じよ。私も就職したての頃はてんてこ舞いだったもの。いきなり仕事できる人なんてそう多くないわよ」

 えーでもって顔をする遥にゆりは続ける。


「馬も一緒よ。2歳や3歳でG1って大きいレース勝つ馬もいれば7歳や8歳でようやくG1を勝つ遅咲きの馬もいるのよ」

 ゆりが続ける。

「私だってG1獲れるところまで行けるかわからないし、今のところ2年間苦労の連続よ。ようやく私も慣れてきたなぁって実感はしているけどね。気休めにしかならないかもしれないけど入社してったったの一か月でしょ?焦っちゃだめよ」

 ゆりが遥の顔を覗き込みながら優しく言う。

「少なくても私たちはよく似ていると思うわよ、安心しなさい」

「はい。ありがとうございます」

 浮かない顔をしながら遥は答える。

 ゆりが今度は遥の頬に両手を添えながらもう一度告げる。

「私たちよく似ているわよ。あなたもさっき見たばかりでしょ。私のドタバタっぷり、ね」

「三鷹さんにそこまで言われると・・・・・・。もうちょっと頑張れるかもしれません」

 ゆりの優しい言葉に遥は頬を赤らめながら、少々気を取り直す。


「あっところで三鷹さん。締め切り大丈夫なんですか」

 突然、遥が指摘する。

「大丈夫じゃないわね。ちょっと馬券買ってくるわ」

 

「あなた私よりよっぽどしっかりしているわよ」とゆりは自動発売機に駆け出しながら思うのであった。

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