競馬場でご飯
「じゃご飯食べに行きましょう」
そう言われて遥はゆりの後ろについていく形で地下道を歩いていた。
「三鷹さん、ここってレースしているところの下・・・・・・ですよね」
「そうよ。内馬場で今日はご飯食べるわよ」
そう告げるとゆりはウキウキが隠せず、少しずつ早足になっていく。
意外と長い地下道に遥はせめて靴くらいはヒールの低いパンプスでも履いてくるんだったなぁと後悔するのだった。
ようやく、地下道を抜けた先はそこも青空だった。
「三鷹さん。ここもすごいですね。競馬場来た時も違和感あってなんだろうと思っていたんです。今ようやく気付きました」
遥は少し興奮しながら言葉を続ける。
「競馬場って・・・・・・とても空が広いんですね」
「そうでしょう?気晴らしにはもってこいよ」
それを見て満足げにゆりは言う。
「はい。私、最近こんなにお日様に当たった事なかったです。気持ちいいですね」
遥はウーンと両手を伸ばし、そして背を伸ばした。
「競馬場はね、広い空、一面のターフ、おいしい食べ物。何でも揃っているのよ」
ゆりは続ける。
「今日はね、モヤモヤしたもの全部吹っ飛ばしなさい。そうね、アレで遊んでいく?」
ゆりは大きな大きな馬の形をしたエア遊具を指差した。
「いや、さすがにそれは」
「そう、残念ね。喜んでくれると思ったのに・・・・・・。じゃあミニ新幹線乗ってく?」
「いや、それもさすがに」
どこまで本気なんだろうと思いつつ、遥は答えた。
少し歩いていくと飲食店のブースにたどり着く。
「私は今日はおそばにしておこうかな。小金井さんは何にする?」
「あっ、はい。じゃあ私もおそばで。深大寺そばって食べたことないですけけど有名ですよね」
「そうね。私もお寺で食べたことはないけどね」
二人はそろって月見とりそばを食するのだった。
そばはとてもおいしく、遥は一気に食べつくしてしまった。
遥は「さっき、ホットドッグ食べたばかりだというのに我ながら食欲旺盛だなぁ」と思うのだった。
「三鷹さん。ごちそうさまです」
「いえいえ、どういたしまして。ちょっと寄りたいところあるんだけどいいかしら」
大きなイラストが描かれたターフビジョンの裏の前を二人は歩いていく。
「うわっ、なんか人がいっぱい。イベントかなんかですか」
「私もここまではあまり来ないんだけどよくグルメ系のイベントやっているのよ」
大きな飲食スペースの周りに、たくさんの食べ物屋のブースが立ち並んでいる。
ブースの周りには長い行列ができている。
それを見て「ここ、競馬場だよね」と遥はまた驚くのであった。
「こっちの方が良かったかしら。ごめんなさいね。あまり混んでいるところは好きじゃなくって」
ゆりが謝ってくる。
「いえ、私も混んでいるのは苦手なので問題ないですよ」
そして遥はゆりに向って指差しこういうのだった。
「なんでもかんでも謝るのは良くにゃいですよ。癖になりますにょ」
「そうね。その通りね」
とゆりは答えながら笑いをこらえるのに必死だ。
遥は調子に乗ってしまったことを後悔した。
ゆりの真似までは良かったが派手に噛んでしまった。
たぶん、指差しポーズもゆりに比べたら浮ついた滑稽なものであっただろう。
遥は「穴があったら入りたい」っていうのはこの事だなと思うのであった。
「あなたを競馬場に連れてきて良かったわ。ふふ、面白い子」
ゆりはまだ笑いがこらえきれない様子だ。
「何しに来たのか忘れちゃうところだったわ。ちょっとビール買ってきていい」
「はい」赤面しながら遥は答える。
「三鷹さん。お酒飲まれるんですか。大人ですね」
「あまり飲まないんだけどね。こう気持ちがいい空と風の下だとちょっとだけ飲みたくなっちゃったわ」
ゆりは「あなたも大人だけどね」と思いつつ答える。
出てきたビールは小さいプラスチックカップに入っていた。
「安いし、ちょうどいいでしょ」
ゆりは半分ほど飲み言う。
「ふふふ、苦い。おいしくないんだけどね、おいしいわね」
それを見て、思わず遥も飲みたくなった。
とても飲みたそうな顔をしてしまった。
それを見たゆりは、もう一杯追加で頼むのだった。
「お酒、大丈夫なの?思わず買っちゃったけど下戸なら飲んじゃだめよ」
ゆりがちょっと心配そうにカップを差し出す。
「少しくらいなら飲めますから。またおごってもらってすいません、じゃなくてありがとうございます」
遥はビールを一気にあおった。
予想通りビールは苦くておいしいとは思えなかったがとても、とてもおいしかったのだ。